ワイルドキャット
二番機を振り返ると、親指を立てて合図してくる。もちろん了解済みということだ。
鈍鈍鈍!
弾弾弾!
試射を兼ねて全機に合図を送る!
全機が翼を振って応える!
敵艦隊までの距離は約30キロ。想定よりも位置が異なっていたようで、もう少しずれていたら発見できないところだった。
我々は大きく回り込む形となったが、航空機なら約5分の距離だ。発見してしまえば問題ない。
隊長機が命ずる!
突撃隊形ツクレ!
隊長以下、九七式艦上攻撃機隊54機は、小隊毎に横隊を作りながら整然と高度を下げてゆく。
逆に、九九式艦上爆撃機隊54機は小隊毎に縦隊を作り、一斉に高度を上げてゆく。
私達護衛隊も予定通り二手に別れて随伴し、護衛隊形をとる。
私は艦爆隊の護衛を務めることになっており、艦爆隊よりも上空に位置するように上昇する。
キラリ!キラリ!
いるぞ!敵の直掩機は6機程度!対する我が零戦隊は54機が二手に別れている。
圧倒的じゃないか、我が軍は。
思わず呟いた。
しかし同時に違和感を感じる。
敵空母の飛行甲板上に敵艦載機の姿が一切見えない。これは普通に考えると出払っていると考えた方が自然だ。
敵艦載機は我が空母機動部隊に向かったのだろうか。
空母機動部隊は発見され、攻撃を受けるのかもしれない。
一瞬不安が頭をよぎったが、目の前の戦いに集中すべく深呼吸した。
周囲の見張りに集中しても、ほかに敵機は見えない。
いよいよ板谷隊長が翼を振り、増槽を切り離した!
我々も切り離す!
ガコン!
増槽は航空燃料を撒き散らしながらクルクルと落下してゆく。
さあ、敵機はどんなだ?
分かりやすい寸胴なフォルム。F4Fワイルドキャットだ!
さあ、勝負だ!
ワイルドキャットの6機は我々大編隊に気付くとどうすべきか逡巡していたが、最終的に雷撃隊を攻撃することにしたようだ。
意を決して降下を始め、雷撃隊に一撃離脱攻撃をかけるつもりだ。
そうはさせない!我々も急降下して覆い被さり、挟み撃ちにする!
敵機は雷撃隊に向けてまっしぐらに突き進んで行く。
我々零戦隊との戦いを放棄し、雷撃隊への攻撃に全てをかけるようだ。
身を呈して空母の脅威を取り除こうとするその行動は見事である。
しかし、その前には我々零戦隊54機が牙を剥いて大きく口を開けて待ち構える形となった。
全機が見事な動きでワイルドキャットを噛み砕こうと連動する!
私もその牙の一つとなり、無防備に姿を晒すワイルドキャットに上方から急速接近する!
図太い胴体と四角い主翼が見えてくる!空を飛ぶ牛のようだ!
まるでスペインの闘牛だ!突っ込んでくる図太い胴体に20ミリ砲弾というレイピアを突き刺してくれる!
角度を微調整する!
3!2!
鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍!
少し早めに発砲!
概ね予測地点は200メートル先だ!
曳光弾の軌跡とワイルドキャットが重なってゆく!
馬琴!
20ミリが胴体下部に命中!
馬脚!!
一瞬後、そこを起点として胴体が二つに別れ、それぞれ竹トンボのように激しい回転をしながら落下していった。
パイロットは凄まじい回転運動で脱出は無理だろう。
一機撃墜!
私は周囲を見ながら機体を引き起こす!
零戦隊の上下噛みつき攻撃を突破できたのは何機だ!?
見ると4機が噛み砕かれたが、2機がいまだ突撃し、我々の包囲を脱して雷撃隊に急速接近してゆく。
くそ!私達は追撃するが、敵の方が速い!
P40もそうだが、急降下時はアメリカ機の方がかなり速い!それだけ頑丈なのだ。
攻撃隊が一撃喰らうのは最早やむを得ん。
追尾は他の機に任せ、私達小隊は敵機の引き起こし時を狙うことにして高度をとることとした。