接敵
零戦隊は空に飛び立つと、上空を旋回して後続部隊の発艦を待つ。
空母の発艦は順番が決まっており、
離陸に必要な距離が短い順に、零戦隊、艦爆隊、艦攻隊の順番となる。
零戦隊の発艦後も続々と離陸が続くが、30分近く上空を旋回して待つことになるのだ。
最後の艦上攻撃機が発艦し、攻撃機編隊の最後のパーツが合わさると、大空に連続した三角形の美しい幾何学模様が現出する。
見ていてくれみんな!必ず仕留めてくるぞ!
眼下の各艦甲板上では、最後の帽振れが行われており、我々は翼を振って答えながら遠い敵艦に向けて出陣するのだった。
それからは艦攻隊が道案内も兼ねて先行する形となり、次いで艦爆隊が続く。
零戦の巡航速度は攻撃隊に比べて速すぎるため、我々護衛隊はその上空を警戒しながら、右へ左へ蛇行しながら飛行するのだ。
現在地であるハワイ西方の天候は晴天微風。私の視力なら、数十キロ先の敵機も見える。
果てしない青色の先を見つめる作業をずっと続ける。
1時間経過、試しに無線をいじってみるが、ザーザー音がするばかり。
本当にこれで空母からの無線を受信できるのか不安だ。
まぁその時は隊長機から合図があるだろうと諦めた。
次に海図を基に、自分の位置を計算してメモする。最悪の場合単機で帰投しなければならない。
帰投時はクルシー式無線帰投方位測定器という母艦の方位が解る無線機が装備されているが、経験上すぐに故障するのが怖いところだ。
そんなことで一人いろいろなことをやっていると、時刻は午前9時30分。目標が見えてくる頃だ。
攻撃隊分割の命令も無かったようで、新たな敵空母は発見出来なかったようだ。
私達は当初の命令通り、レキシントン型空母の撃滅のみ集中すればよい。話は簡単となった。
ひたすら目を凝らす。上空を、そして水平線を。
上空に敵の直掩戦闘機は見えない。
次いで水平線を見る。
違和感を感じ、じっくりとピントを合わせる。
水平線に白い航跡?
間違いない!敵艦隊だ!
ゾゾゾゾゥ!血が沸き立ち体が震える!
更に見つめる!平らな艦影!
空母だ!空母がいる!遂に見つけたぞ!
私は獲物を見つけた獰猛な海鷲となり、凄まじい殺気を抑えることなく翼を振って仲間達に知らせるのであった。




