12月9日 開戦2日目
我々は興奮冷めやらぬなか部屋に戻ると、慣れた就寝作業を始める。
部屋は大部屋で、十数人がハンモックで寝られるような構造だ。
灯火制限中なので豆電球がホンノリと点灯するのみで、部屋はかなり暗い。
私達はTシャツ短パンに着替えて飛行服を綺麗に畳み、体を拭き歯磨きをしてみそぎを済ませ、自分のハンモックを手早く吊るすと、そのままフワリと包まれるのだ。
私は少尉なので、下士官よりは若干広く使えるが、大した違いはない。
もうイビキをかいてる奴がいやがる。
夜の爆撃はもたもたしていると激しさを増してゆく。
本当に疲れた。部屋の環境は、空気といい騒音といい、まあ劣悪なのだが、今日はそんなことに関係なく、一瞬で私の意識は落ちた。
起床ラッパの音が高らかと響き渡る!
パッパラッパラッパラッパルッパラッパラァ~!
パッパラッパラップァラップァルッパラッパラァ~!
続いて当直員が大声で起床を知らせる!
総員起こぉぉしぃ!
総員起こぉぉしぃ!
ハッと目を覚ます!
完全に熟睡していたことに驚いた。
昨日は総員起こし前に目が覚めていたので、昨夜は相当疲れていたようだ。
今は頭も冴え、体調も万全だ。
頭を切り替え、素早くハンモックから床に降り立ち片付け作業を始める。
みんな無言だ。全員があらかじめ決められた行動に移る。
まずは、索敵任務に出撃する艦上攻撃機の搭乗員と直掩隊員が優先される。
素早く食堂で朝食をとり弁当を受け取ると、部屋に戻りテキパキと飛行服に着替えて、全員が揃って部屋を出てゆく。
頼むぞ!頑張れよ!
皆から激励を受けながら、任せろ!と答えてゆく。
彼らの振る舞いは落ち着いて見えるが、眼差しは凄まじい気迫だ。緊張と、任務を完遂するという強い意思があの眼差しに現れる。
あの眼差しを見れば、我々もやるべきことをやらなければならないと強く思うのだ。
12月9日の日の出時刻は午前6時58分である。
約1時間前には薄明となり、暗闇の世界と太陽の世界の狭間の世界が現出する。彼は誰時だ。
出撃はそんな狭間の世界で行われるのだ。
私達攻撃隊も次々と朝食をとり、素早く準備してゆく。
部屋に戻ると、畳んで集めたハンモックを担当の兵が艦橋まで持っていくところだったので、一通りの準備が終わっていた私も一緒に様子を見に行くことにした。
士官クラスなら、このちょっとした自由行動も許されるのだ。
私はハンモック搬送部隊に混じり階段を上がる。
飛行甲板に上がると、強い風が吹き付けてくる。
空は満天の星が拡がるが、水平線の彼方は薄明かりに光輝いており、その美しさはこの世のものとは思えないほどだ。
後部には発進準備中の零戦と九七式艦上攻撃機が暖気運転中で、ちょうど指示を受けた搭乗員が機体に駆け寄って乗り込むところだった。
ここに居合わせたら、帽振れ隊形作れだ。
待避所に移動し、整備兵と一緒に見送ることにする。
一機ずつ車輪止めを外し、爆音を轟かせながら目の前を通過して離陸してゆく!
あいつらならきっと見つけてくる。
そう確信した。