要塞堕つ
クソ!
今頃B17は攻撃を受けて緊急電を打っていることだろう。
機動部隊が発見されるのも時間の問題だ。
このまま生かしては帰さんぞ。
しかし、確実に20ミリを叩き込むには、敵機の後方200メートル以内に接近して撃ち込むしかないが、それでは敵機の後部銃座はもちろん、上面、下面の銃座も反撃してくるだろう。
例えるなら、B17は鈍重だが耐久力抜群で、パンチをあらゆる角度から絶え間なく打ち込んでくるヘビー級ボクサーである。
対する零戦は身軽で超接近型フィニッシュブローを持つが、すぐに弾切れするし打たれ弱いフライ級ボクサーである。
勝つには危険を承知で接近戦をする以外にないのだ!
やってやる!突撃だ!
二番機は機体を引き起こすと、その勢いのまま急上昇に転じ、旋回で速度を落とした敵機に喰らい付く!
鈍鈍鈍鈍鈍鈍!
栄エンジンが唸りをあげながら上方に駆け上がる!
命中弾はある!しかしダメージは薄い!
私と三番機も続くが同じ結果だ!
諦めずにもう一度やる!
そのとき、三番機が数発の7.7ミリを発砲して合図してくる!
なんだ!?
頭に血が昇っていた私は我に返る。
手信号で、「見ていてください」?何か策でも思い付いたのか?
残弾もあと一連射分くらいしかない。神鳥谷に任せてみよう。
三番機は我々より小さい旋回で追い越すと、敵機に接近する。
後部銃座は激しく撃ってくるが、射線を巧みにかわす。
コツは銃座を固定させずに、旋回させることだ。それで命中率は激減する。
三番機はグングン接近する。
オイ!もう必中だ!撃て!
まだ撃たない。まだ接近する。
神鳥谷!体当たりする気か!
そんなことは許さんぞ!
後方から見ていると、三番機は巧みな操縦でB17に接近する。
いや、肉薄だ。
しかし神鳥谷がやると、まるで朝の挨拶のように気軽に、空中で華麗なステップを踏みながら当然のように超接近する。
そして、左手に持っていた紳士傘の持ち手に隠された日本刀を一閃!
鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍!
一撃必殺の20ミリ機関砲の咆哮!
馬脚馬脚馬脚馬脚馬脚馬脚!!!
後部銃座が跡形もなく破壊され、主翼二番エンジンも炎上!
だがしぶとい!弾切れだ!
見ているとスローモーションのような攻撃であったが、実際は数秒間だ。
私は神鳥谷が何を見せたかったか理解していた。
気付いたのだ。私達は目測を誤り、200メートルの必中距離の気がしていたが、実際はもっと遠かったのだ。
命中していたのは7.7ミリが数発程度だったのを勘違いしていたのだ。
「わかったよ!あいつは照準器にこだわってはダメだ!直接見て撃ちゃあいいんだろう!」
次は二番機だ!逃げる敵機を追い詰め、超接近する!
ヘビー級ボクサーは足に来てやがる!
鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍!
馬脚馬脚馬脚馬脚馬脚!弩馬津脚!
私もすぐ後ろに続く!トドメだ!
照準器からあり得ないほどにはみ出す!
鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍鈍!
弩馬津脚!弩馬津脚!弩馬津脚!
尾翼が砕け!主翼がへし折れる!
機内は阿鼻叫喚の地獄であろう。
すまないな。
空中において、あらゆる部品に解体されたB17は、機動部隊の航行する海上付近に落下していった。
要塞は墜ちたのだ。




