赤城艦橋
淵田隊長は指示をすると、颯爽と身を翻して待機室を出て行く。
私は突然の指名に慌てつつ、板谷少佐に続く。振り向きながら、
「那須一飛曹!私の機体も頼む!」
「お任せあれ」
那須一飛曹はニヤリとして親指を立てる。
那須一飛曹に任せておけば安心、頼りになる男だ。
さて、私が呼ばれる理由は敵状報告だろう。
実際に戦火を交えた者として、アメリカ軍の能力や性質を正確に伝えなければならない。
司令官は情報を欲しているのだ。
私は、空母機動部隊の司令官という立場を、気の毒だと思う。
南雲司令官は元々艦隊同士の海戦の専門家で、砲術の専門家だ。主砲はただ撃てば当たるものではない。
海戦の専門家とは、双眼鏡の彼方に捉えた敵艦に対し、極めて複雑な計算に基づき、機先を制し、かつ効果的にその主砲をぶち込むことを至上命題に上り詰めた人なのだ。
それが、空母機動部隊の司令官はどうだろう。
敵は見えず、無線も使えず、主砲もない。
敵発見の報告を待ち、発艦させたら祈るのみ。そして敵機の攻撃は回避するのみ。
そして、最悪沈没するときは艦と運命を共にする。
なんというか、なんとかしてやりたいと思う。
そんな司令官達のためにも、世界初の運用となった航空機による空撃作戦の成果と今後の作戦方針等もきちんと報告しなければと思う。
責任は重大だ。
私達は、空母赤城の左舷に設置された艦橋内の階段を登ってゆく。
「失礼します!淵田中佐以下3名、入ります!」
淵田隊長と共に私と板谷少佐も続いて赤城の艦橋に入る。
艦橋内は計器等の機械が所狭しと設置されているため意外と狭い。
そこに南雲司令官、草鹿参謀長、源田参謀の3人のほか、艦長以下の乗組員も居るので、我々も入るとかなり窮屈になる。
南雲司令官は続々と帰投する第二次攻撃隊を厳しい表情で見つめていたが、こちらを振り向くと少し微笑んだ。
「おぉ、待っていたぞ、淵田中佐も休む間も無くてスマンな。板谷少佐も、それと、特別隊の新海少尉だね、かなりの戦果と聞いたよ、素晴らしいね。」
「はっ、ありがとうございます!」
私はかしこまって答える。
「第二次攻撃隊の嶋崎少佐が間もなく帰還するだろうが、大体の戦果は判明した。」
「今後の方針の参考とさせてもらうので、現地の状況など話を聞かせて欲しい。作戦室に行こう。」
私達は南雲司令官に従い、作戦室に移動した。




