帰還
さぁ、気を抜いてはいけない。
今の戦闘機動は必殺であるが、その代償として運動エネルギーの大半を犠牲にする。
従って乱戦のときに使うと、他の敵から格好の獲物となってしまうのだ。
戦国で例えると、一対一でお互い死に物狂いで闘い、全力で倒した瞬間、横から槍でグサッと刺される感じだ。
空域に他の敵機がいないか、若しくは僚機との連携が無ければ軽々しく使うことは出来ない技だ。
私はスロットル全開で加速しつつ、機体を回転させて全周囲を確認する。
私を狙う敵は居ない。
一方少し離れた空域で炎に包まれた機体が黒煙とともに落下してゆく。
シルエットはP40だ。
獣は空を飛ぶ資格を失ったようだ。
残存の敵機は2機で、敵機1機に対し零戦2機が追いかけており、その上方にも零戦が位置して、虎視眈々と狙っている様子であった。
そして、追い詰められた1機は不用意にも上昇に移る!
上方の零戦から見たら、全面をさらけ出した姿だ。外す訳がない。
鈍鈍鈍鈍鈍鈍!
馬琴琴琴!馬喰貫!!
20ミリ機関砲の威力は敵の防弾構造を嘲笑うかのように機体に大穴を空け、両翼をへし折る!
翼をもがれた獣はコイントスのような複雑な回転運動を織り交ぜて落下してゆく。
残り1機は急降下を選択した。
2機の零戦が射撃するが、有効弾は与えられずその差が離れてゆく。
2機の零戦は深追いを止め、再び我々は合流した。
5機撃墜!みんな満面の笑み。
さあ!母艦に帰ろう!
我々6機の零戦は再び高度を上げて北進し、帰路につく。
もう燃料もギリギリ、20ミリ弾も無くなった。
帰投する空母機動部隊は、予定通りならばオアフ島北方約400キロ付近を南下中だ。
零戦の巡航速度は時速約250キロなので、1時間30分くらいで辿り着ける。
しかし、問題は航法だ。零戦は当然一人乗りなので、海上を飛ぶには自分で計算しなければならない。
しばらく海図と格闘しながら飛んでいると、前方に帰投中の九七式艦上攻撃機の編隊が見えてきた。
フゥーッ。思わずため息が出る。
良かった。間違っていなかった!
列機には自信満々の様子を見せていたが、広大な海上を燃料の少ない状態で飛ぶのは不安でしかたなかった。
このまま一緒に行きたいが、零戦の方が巡航速度が速いし、燃料も少ないので追い抜いて先に着艦させてもらうことにする。
お互いに敬礼して確認すると、針路はこのままで良いとのこと。
みんな大喜びで宴会でも始めているようだ。
名残惜しいが、艦攻隊を追い抜いて先に進む。
間もなく空母機動部隊が航跡とともに眼下に見えるはずだ!




