日本・布哇空路増援作戦
真珠湾の南方に位置する、アメリカ陸軍ヒッカム飛行場。
真珠湾内のフォード島にあるアメリカ海軍フォード飛行場と共に、ハワイの主要飛行場であるが、両飛行場は真珠湾攻撃により、格納庫や飛行場に駐機されていた多数の航空機は飛び立つ前に破壊されたのだ。
ハワイ女王国独立後は主に日本兵が中心となって、その残骸の撤去や滑走路の整備作業が行われており、今やハワイ女王国のヒッカム飛行場として生まれ変わり、管制塔にはハワイ女王国旗がはためいている。
滑走路脇には零式艦上戦闘機が3機、九七式艦上攻撃機1機が整列し、暖機運転を開始していた。
そして4階建てのパイロット専用棟のブリーフィングルームでは、板谷 茂大佐が壇上に立つ。
「きょうつけ!礼!休め!」
ガタガタッ!
ガタつく机と椅子が床と擦れる!
対面の椅子に腰掛けるのは6人。零戦組は新海 空少佐、那須 與一郎中尉、神鳥谷 仗一飛曹、そして艦攻は根岸朝雄 中佐以下の3人だ。
板谷茂大佐は第一航空艦隊所属の赤城戦闘機隊隊長で階級は少佐であったが、今はハワイ女王国海軍航空隊副隊長で、階級大佐で転籍となっている。
ちなみに同隊隊長は、九七式艦上攻撃機乗りの村田重治大佐が任じられており、その組織的上司にはハワイ女王国航空艦隊司令長官である草鹿龍之介中将が居るわけである。
着座する新海以下6人は飛行服を完全着装して出撃準備を終え、ノートを開いているが、壇上に立つ板谷大佐は、足先まで白色の第二種軍装を身に纏っており、左胸に刺繍されたコート・オブ・アーム(ハワイ王国章)が際立つ。
「さて諸君、毎日の警戒任務、ご苦労であるな。このたび、待ちに待った、増援部隊が到着することになった。」
「よっしゃ!」
「遂に来るんですね!」
皆、待望の増援とあってお互いに顔を合わせると満面の笑みを浮かべた。
「そうだ。諸君には秘密にしていて申し訳なかったが、本日、ミッドウェー島から増援部隊が飛来する。」
「本日!今日ですね!」
「そうだ。諸君には、その空域の哨戒を行い、迎えに合流し、ここまで道案内をしてもらう。」
「わかりました!」
「副隊長!増援は、どの程度なのですか?」
「ふむ、本来は軍機密なのだが、まあ構わんだろう、一式陸上攻撃機2機に先導され、零戦が18機、2個中隊だ。」
「18機ですか・・・やはり零戦だけですか」
呟いた那須に対して新海が答える。
「そりゃそうだろう、ミッドウェーからここまで2100キロだぞ、陸攻はともかく、零戦以外は無理だろう。」
「いや新海、そうでもないぞ、今後の予定では陸軍の隼戦闘機も計画に入っているからな。」
「隼ですか?陸軍戦闘機なのに、そんなに長い航続力があるんですね。」
「うむ、零戦とも性能も似ているようだな。」
「なるほど、そんなに似ているなら初めからどっちかに統一すれば合理的でしたよね。」
「まぁ、陸さんとウチらは仲が悪いからな、限られた予算と資源と人員を使って、似たような戦闘機を作るあたり、問題ではあるがな。とはいえ、ハワイ女王国になったらそんなこと言ってられん。むしろ運命共同体として上手くやるさ。」
「さすが副隊長!頼りになります!」
「まったく、お前らは飛ばすだけだからイイよな、俺なんてもう大変なんだぞ。」
「心中お察しします!」
「察してないだろう!お前ら!」
ワハハハハハ!!
ハワイの魅力がそうさせるのか、大日本帝国の兵は、ハワイ女王国の軍籍となると、皆雰囲気が穏やかとなり、軽口も出て笑いが起きるようになったのだ。
「そうすると、いずれ我々も隼に乗れるかもしれませんね!」
「それはどうだろうな、隼はハワイ女王国陸軍航空隊になるのか、或いは空軍創設の話しもあるからな。」
「へぇ、空軍でありますか!先進的ですね!我々も空軍になるのですか?」
「いや、我々空母乗りはそのままだ。お前らは空母赤城の搭乗員だということを忘れるなよ。」
「確かに、失礼しました。」
「しかし、陸さんの戦闘機は、支那で九七式戦闘機を見たことありますが、スロットルが逆じゃないんですかね?それだと我々には難しいですね。」
「確か隼からは零戦と同じ仕様になったと思うがな、もし逆のままだと、我々が使うといざというときのミスに繋がるやも知れんな。」
「まったく、いくら仲が悪いとはいえ、そんなところまで変えなくてもイイと思いますね。」
「まあそれはさてとき任務の話だ。お前らには概ね600キロ地点まで進出し、合流してもらう。根岸中佐ならば問題もなかろう。詳しいコースとスケジュールはこの図面のとおりだ。」
板谷副隊長は表情を引き締める。
「増援部隊は本来なら3日前には到着するはずだったのだが、天候が悪く延期していたのだ。今日は大丈夫とのことなのだが、しかし途中の天気は判らん。この空路増援作戦は今後の生命線となることは間違いない。必ず成功させなければならない。」
「こうして大地図で見ると、横浜基地から硫黄島まで1200キロメートル。硫黄島から南鳥島まで1300キロメートル。南鳥島からウェーク島まて1400キロメートル。ウェーク島からミッドウェー島まで1900キロメートル。そして最後にミッドウェー島からオアフ島まで2100キロメートルですか。とんでもない距離ですね。」
「そうだ。遠すぎるのだよ。しかし我々はやってのけたから、今ここに居るのだ。」
板谷副隊長は6人を見ながら檄を飛ばす!
「諸君!君達は当然であるが、増援の仲間達を必ず!一機も失うことなく連れてきてくれ!健闘を祈る!!以上だ!!」
「きょうつけ!!副隊長に!礼!!」
「出撃せよ!!」
「出撃!!」
「オウ!!!」