アメリカの対日戦略2
大統領は、海軍の2人からの発言を待つが、2人とも俯いてその口は重いようだ。
大統領は意を決して静かに話しかける。
「海軍長官、そしてキング大将。」
「はっ」「はい」
2人とも、遂に来たかと大統領と目を合わせる。
「先日、2人には日本本土空襲について検討を命じたな。その結果はどうだ?」
海軍長官はすがるようにキング大将を見詰めると、キング大将が答える。
「はい、現在海軍作戦部において、作成案を検討中であります。」
「ほう!現時点での進行具合はどうだ?!それはどのような作戦なのだ?!」
「はい、本当に検討すべきことは山積みなのですが、竣工間もない最新鋭空母ホーネットを用いて、その長い飛行甲板を活用し、航続距離の長い陸軍の爆撃機をホーネットから発艦させて日本本土を爆撃し、そのまま中国に退避させるプランです。」
「ほうほう!!それはファンタスティックではないか!!陸軍の爆撃機を搭載できるということだな?!」
「はい、改造は必要ですが、B25なら条件を満たします。」
黙り込んでいた陸軍長官も興味津々だ。
「陸軍機のB25ミッチェルとな?それは初耳だが、陸海軍の共同作戦というのは気に入った。全力で協力しますぞ!!」
「よし!作戦名はどうする?何か良い案はないかね?」
「作戦名ですか、うーん・・・急に言われましても・・・」
海軍長官はキング大将に助けを求める
「発案者は海軍作戦部作戦参謀のフランシス・ステュアート・ロー海軍大佐ですから、フランシス作戦では?」
「フランシス作戦?うーん。降伏したフランスみたいで、迫力がちょっとねぇ」
陸軍長官も同意する。
「それに人の名前は良くないよ、もし失敗したら可哀想だろう。」
「最初から失敗の話しないでくださいよ。」
「それもそうだ、ワハハハッ」
「笑い事じゃないですよ。」
なぜかキング大将がツッコミ役を演じることとなってきた。
皆で、頭を捻ること5分経過。
「・・・・まぁ、我々はあまり作戦名とか考えたことないしな、秘密保持としても無くていいか!」
「そうですね。特に問題ありません。」
「よし、それでは諸君!日本本土を空襲してイエローモンキーの赤いケツに火を付けて中華まで蹴り飛ばす作戦!!頼むぞ!!」
「大統領、失礼ながら、痛快ですが酷いセンスです。我がアメリカの軍事作戦として歴史に残すにはあまりに酷く汚点となりますので許されません。書記、タイプを打つのを止めろ。いつものことだが、そこは取り消せ。」
少し嬉しそうな表情で狂ったようにタイプを打つ書記は指を止めた。
「まあよい、出来る限り早く実行出来るように頼む。この作戦は戦略上極めて重要であるが、極めてリスクが高いものとなるだろう。参加する将兵の被害も相当覚悟しなければならないだろう。作戦の全責任は陸海軍最高司令官である私が取る。頼むぞ。」
3人は声高らかに返答する。
「イエッサー!!」
「よし、それでは次の重要議題だが、今後の我がアメリカ海軍の建造計画はどうだ?何でもハワイに停泊する日本の戦艦はとんでもない奴らしいではないか。」
「はい、日本の超弩級戦艦ヤマトの主砲は、いまだに信じられませんが、口径は46センチメートルの三連装砲3基とのことで、間違いないようです。」
「46センチ!?そんな馬鹿な!」
「オアフ島に残留している部隊からの情報ですから、間違いありません。それならば戦艦メリーランドに大穴を開けたという話も整合します。ジャップの工業力は、いつの間にか信じられないレベルに達していたようです。」
「一方、我が軍で高速戦艦として新造中の戦艦アイオワの主砲は、口径40.6センチメートルです。低速戦艦として計画段階のモンタナ級戦艦の主砲も、現在の建艦計画てはアイオワ級と同じ口径40.6センチメートル主砲を搭載予定です。」
「それではいかん!モンタナ級については建造計画を変更し、主砲は48口径46センチ三連装砲を搭載させるのだ!!それだけではない!!更に50.8センチメートル砲の開発と建造計画も急がせよ!!」
「イエッサー!!しかし、問題点があるのは、46センチ主砲を搭載した場合、建造ドック拡張工事が必要ですし、艦の横幅がスエズ運河の規定を超えてしまうため、運河を通過出来なくなります。」
「そうすると南米のホーン岬経由か、潮流が激しく危険とのことであるが、超弩級戦艦ならばどのような荒波であろうともビクともせん!問題なかろう!」
「それと、艦艇建造の優先度ですが、ドックには限りがあるため、戦艦建造を優先しますと、空母エセックス級をはじめ、軽空母、護衛空母、その他の艦艇建造の予定が大幅に遅れ、中止せざるを得ない艦艇も増えることとなります。」
「むぅ・・・・しかし戦艦こそ重要であるし、戦艦建造には長い期間が必要だ。早めに着手しなくては手遅れになる。アイオワ級のアイオワ、ニュージャージー、ミズーリ、ウィスコンシンの4隻は直ちに建造にかかれ。そして、より大口径のモンタナ級戦艦の建造計画策定も早急に取り掛かるのだ。」
「イエッサー!!」
「それと、ハワイ奪還のための上陸用艦艇の建造とエセックス級空母の建造計画も優先だ。出来る限り建艦ペースを維持せよ。」
「優先すべきは戦艦だ!ヤマトに沈められた戦艦メリーランド、ペンシルベニア、テネシーの3隻の無念、その兵達の無念を晴らすには戦艦こそ必要である!!戦いの趨勢を決定するのは古今東西戦艦である!!次に空母、上陸用艦艇だ。それ以外は計画の見直しはやむを得ん!!」
「イエッサー!!それと、武器貸与法に基づき、イギリスとソビエト連邦にも大量の武器を送らねばなりませんが、そちらはどうしますか?」
大統領は苦い表情を浮かべる。
「武器貸与法、レンド・リース法か。私自身が立案した肝いりの法案だからな、特にソ連に対する支援を拡大しなければモスクワが落ちる可能性がある。」
「ソ連ですか・・・あの国も危険ですぞ。」
「わかっておるよ。しかしヒトラーの方が危険だ。敵の敵は味方。今はスターリンに味方するのがベストだよ。」
「ヒトラーとスターリンですか、どちらも暗黒街のボスを操る黒幕みたいなものでしょう。」
「まあそう言うな、とにかくあらゆる兵器の増産にかかれ、国民は熱狂的に支持している。必要であれば大統領令を発して軍事力増強に全力を尽くす!!」
「イエッサー!!」
「最後に、ハワイのことですが、先日の決議案のとおり、現状維持でよろしいでしょうか。」
「うむ、先に決議したとおりだ。当然だがハワイ女王国などという国は認めん。しかし、奪還には年単位で時間がかかるだろう。そこは悔しいがどうにもならん。」
「兵力は可能な限りオアフ島に残留させつつ、マウイ島要塞化を進めよ。飛行場の拡充と空軍力の大増強、ラハイナ泊地の軍港化も大至急だ。日本艦隊に西海岸に近付けさせてはならん。真珠湾に釘付けにするのだ。」
「ただし、攻撃はまだ早い。今は情報収集と力を蓄える時だ。ハワイの陸海空軍全ての兵には、反撃以外の攻撃は厳禁だと徹底させてくれ。」
「イエッサー。敵に鹵獲され、真珠湾に係留された空母サラトガはどうしましょう?沈めますか?」
「サラトガ鹵獲といっても、名目上は捕虜のようだがフィッチ提督以下の将兵が残っておるしな、現状維持で修理を名目に監視体制を継続させる。真珠湾は浅い、着底している戦艦群を奴らが引き上げる可能性もある。それを阻止しながら、ヤマトに関する情報も収集させるのだ。」
「イエッサー!!」
「政治工作は既に指示してある。先住民代表のハワイの女王とやらには、泡沫の夢を見させてやろうではないか。歴史的にみて、ハワイの王族は短命だ。美しい王女も同様にな。半世紀前に早逝したカイウラニ王女の例もある。」
「はい、先住民が出過ぎた真似をすると、災いを招くことになる。やむを得ませんな。」
「ハワイはアメリカのものだ。先住民のことなど気にしておったら、アメリカは存在しておらんよ。」
大統領は冷えたコーヒーを口に運ぶと、カチャッとした磁器の響きが会合の終了を告げた。




