アメリカの対日戦略1
東京都から1万900Km。
ペンシルベニア通り1,600番地、ワシントンD.Cの中心部ホワイトハウス。
大統領執務室には、アメリカ合衆国軍事部門のトップが集っていた。
アメリカ合衆国大統領であり、陸海軍最高司令官フランクリン・デラノ・ルーズベルト、59歳。
政治家でおり、アメリカ合衆国陸軍長官、ヘンリー・スティムソン74歳。
同じく政治家であり、海軍長官ウィリアム・フランクリン・ノックス67歳。
海軍制服軍人のトップであり、海軍大将アーネスト・ジョゼフ・キング63歳。
世界最強国家の軍事をつかさどる各々が、執務室のソファに腰を降ろすが、皆その表情は冴えない。
間を空けずモデルのような美人秘書が颯爽と現れ、新体操の新種目のように美しく淹れたてのコーヒーを並べた。
「待っていたよ。そのコーヒーはハワイ産なんだ、どうぞ。深みがあってとても気に入っているんだ。」
3人はお互い目を合わせるが、なんと言っていいか分からず、無言でコーヒーを口に運んだ。
うん、確かに美味い。
大統領は執務机から車椅子を操作してソファに近付く。
3人は、車椅子の大統領を見ると、そのハンディキャップを物ともせずに大統領職を続けるルーズベルト大統領に畏敬の念を覚える。
いや、それも大統領の人心掌握術の一つなのかもしれない。
ハワイ産のコーヒーでもてなされるのは、この度の不甲斐ない陸海軍に対する批難の意味なのかも知れない、なんとか汚名返上しなければと、3人はコーヒーの苦みを噛み締めた。
ルーズベルト大統領そんな3人を見て静かに口を開く。
「さて、今日来てもらった理由は、言うまでもない。日本との戦争のことだ。」
・・・・・・
積極的に発言する者は居ない。3人は無言で視線を交わす。
キング大将が資料を配りながら口を開く
「海軍艦艇の現戦力は、こちらの資料のとおりであります。」
ヘンリー陸軍長官が口を開く
「・・・・・戦艦は、アーカンソー、ニューヨーク、テキサス、ニューメキシコ、ミシシッピ、アイダホ、コロラドの7隻!!・・・・ハワイで8隻も失ったのか・・・・半数以上だ。」
ノックス海軍長官はただ無言で、コーヒーカップに口を付ける。
「そして、空母はレンジャー、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネット、ワスプの5隻!!レキシントンを失い、エンタープライズは大破、サラトガは大破のうえ、ハワイの先住民に鹵獲されている・・・・バカな!!」
「まさか日本相手にこんな事になるとは・・・・・世界最強の海軍だと思っておったら!!とんだ訳ではないか!!」
ノックス海軍長官は答える。
「陸軍長官、確かに我等の不徳の致すところで、大統領にも、国民にも申し開きも出来ないところだ。しかし、陸軍さんも、優勢でありながらオアフ島で惨敗した事実をお忘れなく。」
「・・・・・フン」
大統領が割って入る。
「まあまあ、このやりとりは既に何度もやっているではないですか。今日は過去の反省ではなく、これからの対日戦、そしてハワイについての戦略を話し合いたいのですよ。」
「わかっております大統領。実際の損害を見せられて、つい頭に血が昇ってしまいました。不甲斐なかった点は陸軍も同様です。海軍長官、キング大将も申し訳ない。」
「いえ。構いません。非難されるのは慣れましたからな。」
フフッ!ハハハッ!!ハハハハハハ!!
不思議と場が和む。
すこし間を置いて、ルーズベルト大統領が話し始める。
「知ってのとおり、先日西海岸において、タンカーが5隻撃沈、5隻大破する被害があった。日本の潜水艦によるもので、今後は同種の攻撃だけでなく、大規模攻撃と本土上陸もあり得ると判断し、陸軍長官にはロッキー山脈でこれを阻止する作戦の立案と、日系アメリカ人の強制収容措置を指示したところだ。」
「日本軍の本土上陸・・・・ですか。」
「うむ、実際オアフ島を占領されたのだ、奴らは全く理解できん。ハワイから西海岸まては4,000キロメートルあるが、奴らが本土上陸をやってくる可能性を否定することは出来ない。」
「・・・・・」
「今後の対日戦の最優先は、ハワイ奪還だ。これは私の意思であり、国民の意思でもある。」
全員が頷く。異議はない様子だ。
「すぐにでも奪還したい。しかし、現実的には戦力不足だ。海軍長官、海軍大将、いつ頃なら可能であろうか?」
「まず、マウイ島とハワイ島の残存戦力の活用か必須ですが、オアフ島奪還に必要な戦力として作戦本部の見積りでは、主力艦は戦艦10隻、空母6隻、そして上陸用の船舶が100隻あれば、成功の可能性は高いと思われます。」
「戦艦10、空母6・・・そこまで必要かね。」
「はい、日本側の戦艦は、超巨大戦艦大和がパール・ハーバーに居座っているほか、長門、陸奥等10隻が本土に控えており、空母もパール・ハーバーに居座る赤城を含めて6隻がいるはずです。」
「ほぼ同数ということか。あの大和とか言う戦艦は史上初の46センチ主砲だというではないか、大丈夫なのか?」
「はい、接近すれば破壊可能です。今後の新造艦は、戦艦ノースカロライナとワシントンの2隻が間もなく戦列に加わりますし問題ないと判断します。」
「しかし、空母の竣工は来年はエセックスが1隻のみで、護衛空母が数隻程度です。本格的には再来年まで待たなくては竣工しません。」
「航空戦力の不足が大きいな。」
「はい、建造計画的に再来年にはエセックス級を次々と竣工可能ですが・・・・」
「再来年か・・・・それは無い。このままじっと待つなど、国民が納得せんよ。世論を考えても、早急なる反撃と戦果が必要だ。」
「しかし、現有戦力では厳しい戦いとなりましょう。大西洋とイギリスの防衛にも戦力が必要で、太平洋に全戦力という訳にもいきません。更に太平洋に面する各州の知事からは艦隊の派遣要請が次々と寄せられています。」
「・・・・とにかく、国民にアピールできる、効果的かつ明確な戦果が必要なのだ・・・・」
「諸君には、その意見を聞きたいのだ。」
「・・・・・」
3人が黙り込むなか、背後から美人秘書が現れると、灼熱に熱せられたハワイ産のコーヒーが注がれるのであった。




