アロハ・タワー
イオラニ宮殿から、海に向って散歩で5分程度の場所に、ホノルル港がある。
ハワイ語で「美しい港」の意味であり、その賑わいは広大な太平洋で随一と言って過言ではない。
そして、ホノルル港に隣接して、オアフ島で最も高い建築物である白亜の灯台であるアロハ・タワーがあり、それはハワイの象徴として、ホノルル港に入る何千人もの船客を出迎えるランドマークタワーである。
高さ56メートル、壁には「ALOHA」の文字が刻まれ、4面に取り付けられている大時計は、アメリカのハワードクロックプロダクツ社で製造された物である。
同社は札幌時計台の製造でも知られているが、札幌時計台は完成が1879年、アロハ・タワーは1926年であり、爺ちゃんと孫くらいの世代差があるなか、今でも札幌時計台の爺ちゃんは孫の19時間先の時刻を刻み続けているのである。
アロハ・タワーからまっすぐに伸びる広い一本道はフォート・ストリートと呼ばれ、ダウンタウンに通じており、沿道にはデパート、銀行、ホテルや商業施設が建ち並び、人車が行き来するオアフ島最大の繁華街であった。
そのアロハ・タワー前のベンチに、飛行服を着た新海が座っている。
その傍らには、白いプルメリアの花が置かれていた。
新海は、真っ直ぐに伸びるフォートストリートの突き当たりを見通すように遠くを見詰めている。
まるで敵地上空での空戦前の見張りのような緊張感に、少し離れた位置でアロハ・タワーを警備する陸軍兵も怪訝な表情を浮かべている。
バサッ!!
その背後の茂みから、白い小型犬が勢い良く飛び出してくる!!
ワン!!ワン!!
「ケオケオか!!」
「待つっちゃょォ!!」
バサッ!!
続いて現れたのは、つば付き帽子を被る女の子だ!!張り出した枝に帽子がからみ、ヒラリと舞い落ちると、そこに現れたのは、夢以外では久しぶりに見た女の子の姿であった。
「ノア!!!ソラ!!!ワン!!!」
二人の声が交わる!!
新海は、ノアの奇襲的な登場に意表を突かれるも、素早く立ち上がる!!
足元に走り込んで来るケオケオに対応しようと少し前屈みになったすぐあとには、ケオケオに匹敵する速度で突っ込んでくるノア!!!
新海はノアを見て、真っ先に渡そうと思っていた花がベンチにあることに気付き、花に手を伸ばす!
まるで戦闘機2機による一撃離脱戦法のような見事な急接近だ!
「ノア!!!ソラ!!!」
弩スゥ!!!「グフゥ!」
ノアの、一切躊躇いのない、レスリング金メダリスト級のタックルが新海に炸裂する!!
芝生に大の字に倒れ込む2人!!
ノアのホールドが決まった!!!回り込むケオケオ!!!
見つめ合う新海とノア。
抱き合った2人の脳裏には、一瞬で落下傘降下の記憶が蘇る!!
あのときは弾丸の雨のなかであったが、今は、白いプルメリアの花びらが二人の再会を祝して舞うのであった。
「ソラァ!!!」「ノアァ!!!」
「会いたかった!!!」
警備の日本兵からは、ちょうど見えない位置であったことは言うまでもない。
だからこそ、エースの中のエースである。




