淵田隊長機
敵機を撃墜した我々は、そのまま高速で駆け抜けつつ、周囲の索敵を行う。
燦然と輝く太陽にも敵影は見えず、ハワイの太陽神が我々に課した試練は終わったようだ。
私は二番機を振り返ると、頷いてきた。
以心伝心。何を言いたいのか、全て解ってるようだ。
我々は上昇し、高度をとって3機の零戦は再び配置についた。
我々の近くには、第一次攻撃隊をまとめる淵田隊長が座乗する九七式艦上攻撃機が見えた。
淵田隊長は中佐で、空での戦いを知り尽くした極めて貴重な幹部である。
そして、そんな貴重な人材がこの作戦に直接参加し、しかも率先して突撃し、攻撃を敢行したのだ。
私は隊長機が損傷していない姿を見て、本当に良かったと思った。
この真珠湾攻撃作戦は、我が国の、我が軍の並々ならぬ覚悟が表れているのだ。
隊長機は、黒煙が渦巻く真珠湾上空を旋回し、戦果を確認すると、敵飛行場方面に転進した。
隊長機には、6機の零戦隊が直掩の配置につく。
真珠湾を見ると、戦艦2隻が完全に撃沈、海底に没しており、戦艦3隻が炎上している。
しかし、その3隻は乗員が懸命に消火活動にあたっている様子で、まだ戦闘能力を失っておらず、反撃する力を蓄えているようだった。
アメリカの水兵は消火活動や、対空機銃で射撃を始める者など、各員の対応は的確であり、逃げ出すような者はおらず、その練度と士気の高さは決して我が軍に劣るものではないことがわかった。
我々制空隊は第三次攻撃に備えて6機が帰投し、上空を占有するのは私以下6機となった。
我々は第二次攻撃隊が来襲するまでの約30分間、制空権を確保し続けるのだ。
蛮蛮蛮蛮!梵梵梵梵!
対空砲火が付近で炸裂して風防が振動する!
我々に向けて、敵艦や高射砲陣地からの対空射撃がいよいよ激しくなってきた。
私は列機に手信号を送り、高度を更に高くとるとともに、散開隊形をとった。