【コミカライズ先行配信】番外編.デートのお誘い
「王都へ行く」というアルフェルドの言葉に、ミアはきょとんとして首をかしげた。
ふたりがいるのは王宮で、王都の中心だ。すでに王都にはいるが――、
「……街を見てみる、という意味だ」
ミアの様子にアルフェルドが言葉をあらためる。
と思ったら、じわじわとアルフェルドの頬は赤くなり、ふいと横を向いてしまった。
「自国の首都にもかかわらず、俺はほとんど王都のことを知らない。民のことを考えるなら、少しくらいは知っておかねば」
そうは言いつつも、目的が『視察』でないことはその表情から察せられる。
「……もしかして、デートのお誘いですか?」
問えば、アルフェルドはバッとミアを振り向いた。でも、肯定も否定もしない。やっぱり赤くなった顔のまま、恨めしげにミアをじっとりと見つめている。
そうしていると、歳相応の――年下のかわいらしさというものがある。
本人には言わないけれど。
「悪いか」
ふくれっ面で言うアルフェルドに、ミアは笑って首を横に振った。
複雑な生い立ちのせいで、アルフェルドは王宮からほとんど出ずに幼少期をすごした。自由に外に出られることなどなかった。
狼の姿をとった彼がミアからフェンリル祭の話を聞きたいとねだったのも、見たことがなかったからだ。
そんなアルフェルドに、この国の美しさを見せたいと、ミアはいつも思っている。
「もちろん、悪くなんてありませんよ。デートかなと思ったのは、私も同じことを考えていたからです」
ミアだって、父ハンスが職を追われてからはほとんど王都を訪れなかった。
アルフェルドと二人で、王都の街を歩けたら楽しいだろうな、と思ったし、考えるだけでなく、侍女のブリーナや、妃教育を担当したレズリーとも話しあっていた。
ただ、アルフェルドは王太子、ミアもいずれ王太子妃となる立場だ。子爵令嬢だったときのように、ご自由にどうぞ、というわけにはいかない。
「正式な視察でなくとも、護衛が必要なのだそうです。あとは毒見役に、何かあったときのための医師、馬車なども待機させておくそうで……」
アルフェルドが王太子となり、体制が変わりつつある王宮内は慌ただしい。そんなときに王都へ遊びに出たい、と言うわけにもいかず、ミアはしばらくのあいだ王都見物を断念した。
――が、アルフェルドは、
「なんだ、そんなことでいいのか。なら明日にでも行けそうだな」
と頷いている。
「え? そんな急には……」
「べつに人員を整える必要はないだろう。俺がいればいい」
あっさりと言ったアルフェルドに、ミアも彼が言わんとしていていることを悟った。
アルフェルドの身には、フェンリルの血が流れている。
毒矢を受けてもなんなく回復し、一個隊の兵を相手にしても戦える――そしていざとなればミアを背にのせて駆けることもできる。
「俺がいれば護衛も毒見も要らぬ」
「それは、そうですが……」
王宮の者が聞けばさぞや困った顔になるだろう。
「それもだめなら狼の姿で行くが。首輪でもつけておけば飼い犬に見える」
「……」
にやにやと笑うアルフェルドにミアはもう何も言い返せなかった。王太子殿下に首輪をつけて王都散歩などできるわけがない。
この二択には侍従たちも折れざるを得ないだろう。
「わかりました、皆に話をしてみます」
「……楽しみだな」
肩をすくめたミアに、アルフェルドは表情をゆるめた。意地悪な笑みは消えて、無邪気な少年の笑顔がよぎる。
きっといま尻尾が見えたらぱたぱたと振れているに違いない。
思わずほほえんでしまったミアも、なんだかんだでうるさいことは言えないのだ。
それはアルフェルドの境遇に心を痛めていた現在の側近たちもそう。
(どこへ行くのがいいかしら……賑わう市場か、芝居小屋か、穴場のお菓子屋さんか。王立公園にはどんな花が咲いているかしら。神殿の周りにも屋台が出ているでしょうね)
いっしょに見たいもの、味わいたいものはたくさんある。
一度では楽しみ尽くせないだろう、とミアは思った。
お久しぶりの更新です。
本編がそこそこ殺伐としていたので、ほのぼのな後日談を書きたいな、と思い書いてみました。
なろう版での更新は4年ぶり…!びっくりです。
が、もっとびっくりなお知らせがあります。
なんと!このたび、ユトピcomic様にて、
『フェンリル王子は勝手に番を見つけたようです!』を
コミカライズしていただきます!!
7月4日(金)よりコミックシーモア様で先行配信開始です。
タイトルは小説から変わりまして、
『フェンリル王子は私を番にしました』
漫画をご担当いただくのはみこしはち先生です。
細部まで美しく、フェンリルや魔法の世界を描いてくださっているのに加え、
甘えたり拗ねたりするアルフがとてもかわいらしく…!
見どころたっぷりの漫画に仕上げていただいております。
ページ下部にリンクもありますので、ぜひ覗いてみてください!





