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23.前途多難な朝ふたたび

 ふわふわとしたあたたかいものにつつまれている。

 アルフの魔力だ、とミアは気づいた。同時にいま自分が夢を見ていることにも。

 ミアより少し大きな、けれどもどことなく華奢な、少年らしさを残した手が髪を撫でた。

 

 ――大丈夫だ、俺が守る。怖くない……――。

 

 言い聞かせるようにやさしい声が響く。アルフェルドの声。

 こんなふうに語りかけてくれることもあるのだと、ミアの心にもやさしい感情がわきあがる。

 

(ん、でも……手? アルフェルド様の、声?)

 

 これほどに慈しみぶかく慰められているということ自体は体内に残った魔力が見せる夢だ。それは理解しているが、なぜそれが狼の姿の『アルフ』ではないのか――。

 ふとおぼえた違和感に、昨夜はひらけなかった目をひらく。

 

 そこにいたのは狼ではなく。

 

「アッ、アルフェルド様!!」

 

 がばりと起きあがり距離をとろうとして、反対側に寝ていたクロエにぶつかりそうになる。避けようと身体をひねった勢いのままミアはベッドから落ちた。

 ベッドの下にもクッションが敷き詰められているのでまったく痛くはないけれども、本来はアルフが寝そべる用のクッションである。

 

「んん~~、なに~~~~??」

「……なにをしている」

「なにって、そっ、その格好!!」

 

 寝惚けまなこを前足でこするクロエはいい。問題はそのむこうにいるアルフェルドの姿。

 アルフではなく、()()()()()()なのだ。おまけに中途半端に人の姿をとってしまったのか、銀髪からは同じく銀の獣の耳がのぞいている。

 

「ミア様? お声と物音がしましたが、なにかございましたか?」

「あっ、いえ! 大丈夫です!」

 

 コンコン、とノックの音がしてシェリルの声が扉のうしろから聞こえた。威厳をとりつくろうことも忘れて返事をする。

 シェリルはそれ以上なにも言わず、「では、ご都合のよろしいときにお呼びください」とだけ告げて沈黙した。隣にはブリーナもいるはずだ。物でも壊したのではないかとやきもきしているに違いない。

 

「やはりミアといると影響を受けやすいな。昨夜は魔力を混ぜたから――」

「いいからはやく狼の姿に戻ってください!」

 

 アルフェルドに背をむけると、廊下の侍女たちに聞こえないよう小声で叫んだ。

 相かわらず見てはいけないものを見た気持ちにさせる外見だ。これ以上見てしまったらどうなることかと目をつむったうえで両手で顔を覆う。

 

「もうよいぞ」

 

 言われておそるおそるふりむき、指の隙間からアルフェルドを見た。

 ベッドの上には銀狼が優雅に寝そべっている。獣になってしまった口元はわかりにくいが、笑っていたのだろうと察しがついた。

 けれど、笑いごとではすまないことだ。

 

 アルフの存在に慣れきってしまっていて、つい王子であるアルフェルドと同一人物だという認識が甘くなっていた。

 万が一にでも誰かにアルフェルドの姿を見られればどうなる。

 王子が妃候補と同じベッドで眠るなど、許されるわけが――。

 

「……」

「気づいたか。別にかまわん。俺がミアと共寝をしようとも」

 

 あっさりと言い放つアルフにミアは頭をかかえた。

 そういえばそうだった。ミアは妃候補として王宮へ連れられ、妃教育を受けているのだ。ゆくゆくは夫婦になるのである。

 

「褒められたことではないが、叱られるほどのことでもない。そうでなければ俺は生まれていない」

 

 その言葉からは、国王とアルフェルドの母親の関係が窺い知れた。それに対してアルフェルドが特別な思い入れを持っていないことも、声色から知れた。

 彼にとっては単なる事実なのだろう。

 

 はじめて出会った日。銀色の毛なみを血に染め、虚ろな目をしたアルフの姿がよみがえった。

 あんなふうになるまでアルフェルドが王宮でどんな暮らしをしていたのか。想像すると胸がしめつけられるようだ。

 

 ――とはいえ、このことはまた別の話である。

 

「アルフェルド様は今後、部屋にこないでください」

 

 きっぱりと告げたミアに、アルフェルドは前足に埋めた鼻をフンと鳴らした。

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