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20.護衛が増えました

 アルフの首に腕をまわすミアと、おとなしくされるがままになっているアルフをながめ、クロエは何事かを得心したようだった。

 あいかわらず首をかしげながらも、絨毯にぺたんと尻をつく。

 

「それで、お前はなぜ国をでてきたのだ」

「ウィリアムとケンカしたの」

 

 思いだしたのか、クロエはツンと鼻先を明後日へむけた。

 

「だからボクはこの国で暮らす」

「……ふむ。見たところオレより若いフェンリルだ。事情がありそうだな」

 

 アルフがふりむいてミアにだけそっと告げる。冷たい鼻先が頬にふれ、ミアはアルフから離れようとした――が、立ちあがる前にクロエの数倍はある身体がのしりと膝にのってきて、ミアも尻もちをついた。

 離れるな、ということらしい。

 絨毯とアルフに挟まれてふかふかしている。

 誰かに見つかれば床に座るなどはしたないと言われそうだがアルフのせいなので仕方がないということにしておこう。

 

「クロエ、しばらくはここにいてもいい。しかしユナ国への通知はさせてもらう。フェンリルを奪ったとか、閉じ込めたとか思われては国同士の争いになる」

「……ウン」

 

 クロエはつぶらな目をぱちぱちと瞬かせた。

 その瞳に一瞬、期待の色がよぎったのをミアは見逃さなかった。

 ケンカをしたといっても本気で国を捨てる気はないのだ。アルフのいうとおりまだ子供のようだから、思わず飛びだしてきてしまったというところで、連絡を受けたユナ国から迎えがくれば機嫌をなおして帰るかもしれない。

 それ以前に、事態はもっと重大のような気もするのだが……。

 アルフもそう思ったのか、長いため息をつく。

 

「クロエはミアといっしょにいろ。ほかの者がいるときは人語をしゃべるなよ」

「うん! よろしくね、ミア!」

「こちらこそ、クロエ様」

「えーなにそれ。ボクのことはクロエって呼んでよ」

 

 隣国の守護獣だ、呼び捨てにはできないと思ったのだが、クロエは不満げな声をあげる。

 アルフもうなずいた。

 

「人前でそんなにかしこまった言い方はできないだろう。普通でいい」

「では……クロエ、と呼ばせてもらうわね」

「うん、なあにー!?」

 

 言われて、クロエは嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねる。

 やはり小毬のようで、幼い狼の姿につい口元をゆるめていたらまたアルフにじっと見られた。

 

「ミア」

「は、はい」

「俺にもこのくらいの時期があった」

「……はい」

 

 それはわかっているが、そう言われても反応に困る。

 黙って見つめあっているとアルフはまたため息をついた。ふーーーーっと口元から息が漏れる。

 

「万が一の場合にはクロエに魔法をかけることを許可する」

「! わかりました」

 

 万が一、とは、クロエの正体に気づかれて襲われた場合ということだ。

 ヘンリックが自滅の途をたどったとはいえ、あれで王宮内の争いが終わったわけではない。

 アルフが狼の姿でたびたび姿を現すのは、護衛もかねてのことだ、とミアは理解していた。

 

「この王宮は安全というわけではないからな。王妃は離れの別棟に押しこめているが、貴族たちへの影響力はまだ強い」

 

 クロエはやはりなんのことだかわからないようで、真剣な声色のアルフを不思議そうにながめている。

 

「でも、だとしたらやはり、クロエを王宮にとどめるのは危険ではありませんか?」

 

 隣国の守護獣フェンリルになにかあっては、アルフェルドの責任まで問われてしまう。

 そう思うのに、アルフは今度は首をふった。

 

「逆だ」

「逆?」

「クロエは純血種のフェンリルだ。その大きさでもオレと同じ程度の魔力はある」

「……」

 

 アルフの――人の背丈よりも巨大な狼だった姿を思いだし、思わずクロエを凝視すると、幼い黒狼はにぱっと笑いの形に口をひらいた。

 

「よくわかんないけど、悪いやつがいるんだね!?」

「そうだ、ミアを守れ」

「わかった! 任せてー!」

「ただし、馴れ馴れしくするんじゃないぞ。膝にのるのはだめだ」

「えぇー!!」

 

 ぶうぶうと不満を漏らすクロエにアルフは子どもじみた仕草でそっぽをむく。

 その光景だけなら、二頭の狼がじゃれあっているようにも見え、ほほえましいのに。

 

 アルフがあっさりとクロエの願いを聞き入れたのは、ミアの護衛とするためだ。

 それに気づいてしまっては、素直によろこぶことは難しかった。

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