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17.侍女の告げ口

 ミアが妃教育を受けている、日中の時間。

 

 アルフェルドのいる執務室へ、先に入ってきたのはブリーナだった。

 御前に出るために、普段は動きやすく編みこんで束ねている髪をゆたかに下ろした姿。かしこまって礼をする動きは美しい。

 顔をあげたブリーナに、アルフェルドは椅子に深く背をもたせかけたまま視線でうながす。

 

「ミア様はお元気にすごされております。やさしい方だとは存じますが……」

 

 にごした言葉の先を察してアルフェルドは笑った。

 ブリーナは伯爵家の長女で、ミアよりもよほど礼儀作法に通じている。ミアが未来の王太子妃、ゆくゆくは王妃かもしれないと思えば不安が残るのだ。

 

「だからマイケン女史をつけただろう。俺の師だ。不安はあるまい」

「はい、……」

 

 それでもどことなく納得しきれない表情のブリーナ。どうやら問題の根本は妃の素質に関することではないらしい。

 

「なんだ。申してみよ」

「いえ、その……」

「俺はこのとおり宮殿のことには疎いからな……教えてくれ」

 

 兄に虐げられてきたことをほのめかせば、ブリーナはハッと息をのむ。それから顔を赤くしてうつむいたが、アルフェルドにここまで言わせては黙るわけにはいかないと悟ったのか顔をあげた。

 拳がぐっと握られる。

 ついで――、

 

「ミア様は……ミア様は、獣にアルフェルド殿下のお名前をつけています!」

 

 王子の前だというに感情をあらわにし、叫ぶようにブリーナは訴えた。

 

 しかし、アルフェルドの反応は鈍かった。

 きょとん、と首をかしげている。

 

「……それのなにが問題なのだ?」

「ふ、不敬ではございませんか!? 殿下のお名前を犬につけるなど……!」

「それほど俺のことを考えているのだ。かわいいではないか」

「……」

 

 いけしゃあしゃあと冗談を言うアルフェルドだが、それが冗談であることを知る者はこの場にはいない。今度はブリーナが凍りつく番だった。

 組んだ手の甲に顎をのせ、十六になったばかりの少年はにこにこと笑う。

 

「俺はな、ミアが嫌だと言うなら王宮を出てもいいと思っているのだ」

「アルフェルド殿下……!?」

「しかしミアはそんなことは言わないだろう。ミアはこの国を愛しているのだよ。俺よりもよほどな」

 

 ブリーナは押し黙る。そんなことを言われて、返事のできるわけがない。

 アルフェルドはわざと二通りの意味にとれる言い方をした。アルフェルドよりもミアのほうが国を愛しているとも、ミアはアルフェルドよりも国を愛しているとも。そのどちらだとしても、ブリーナに咄嗟の言葉は浮かばなかった。

 

「もう下がってよいぞ。シェリルからも話を聞こう。呼んできてくれ」

「は、はい」

 

 笑みを浮かべたまま告げられ、ブリーナは頭をさげる。

 退出の礼を終えすぐに部屋を出たブリーナは、アルフェルドの目が鋭く細められたことに気づかなかった。

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