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ズヴェーリ 英雄叙事詩   作者: 乘
第1章 幼馴染み編
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第4話 “闘獣”ユジノハラ予選

第4話


“闘獣”ユジノハラ予選



当日、シュウジは予選会場を訪れた。

そもそも“闘獣”はどういった仕組みの大会なのか、ここで説明しておこう。

“闘獣”は、各中核市、政令市別で予選が行われ、その後に勝者同士による市の代表としての決勝戦が行われる。

決勝戦上位8組が州都カイ市に集い、各区の代表として、王者と対決するのである。

シュウジはその初めの戦い、ユジノハラ市予選に参加する。


シュウジ「くそ、そろそろ時間か。

結局、アイノネには会えなかったか。

まぁ良い!。

ここで市の代表になれば、アイノネともまた会えるさ!。

そしたらトラゾウさんと会って、稽古の1つや2つつけて貰うぜ。

俺の対戦相手は…タロンジ。

この男は過去に何度もユジノハラ市代表に

なってる男だ。

初戦の相手に不足(ふそく)なし!。」


審判「両者、戦闘開始!。」


シュウジ「行け、プラーミャ!。」


タロンジ「行くぞ、アッコロカムイ!。

少年、熱く燃える闘いを期待しているぞ!。」

彼はタロンジ(千徳太郎治)

ユジノハラ随一(ずいいち)の実力者。

年齢50歳。

中肉中背で男らしさのある雰囲気。

またトゥリーニルとしての書籍が有名な、教育者でもある。


ユーリ「いきなり当たる敵としては強敵ですが、シュウジなら大丈夫でしょう。

何故なら彼は…。

“獣王”を目指して努力してきましたから。」

ユーリの言葉通り、シュウジのトゥリーニルとしての力量は、年齢不相応な並外れたものがあった。

シュウジのズヴェーリ、プラーミャは火を吹く小柄なズヴェーリで、身のこなしの軽快さと小さいながら着実に攻撃を当てて、傷を増やしていく戦い方をしていた。

猫の様な見た目で、相手を威嚇する鋭い目付きが特徴的。

全長120cmで体重30kgだが、筋肉の塊であり身体能力は同じ体格のズヴェーリの中では目を見張るものがあった。


一方タロンジのズヴェーリ、アッコロカムイはタコ型で一度攻撃が当たれば吸盤に引っ付き、逃げられなくなる攻撃専念の戦い方をしていた。

そして全長も2mと巨大で、プラーミャにとっては格好の的であった。

しかし、プラーミャによる一方的な攻撃を許すタロンジではなかった。


タロンジ「アッコロカムイ、網を張る様に足を動かせ!。

8つ足を生かして闘うんだ!。」

プラーミャによる攻撃が一気に止まった。

吸盤のある足で全身を包む様な守り方をしているアッコロカムイを攻めあぐねていたのだ。

動きを止めたプラーミャを、アッコロカムイは見逃さなかった。

全ての足がプラーミャに目掛けて飛び出し、内1足がプラーミャに巻き付いた。


そのままアッコロカムイはプラーミャを口の前に運び、タコの墨の様に黒ずんだ業火を、プラーミャに浴びせた。

泣き叫ぶプラーミャには逃げ出す(すべ)がなかった。


タロンジ「どうした、これで終わりか少年。

俺と熱く燃える闘いをしてくれ!。

このままじゃ不完全燃焼で終わってしまうぞ!。」


シュウジ「何を言ってやがる髭爺(ひげジジイ)

俺だって手加減はしねぇよ!。

そんな事を言ってられるのも、今の内だからな!。」

炙られ続けるプラーミャからは、いつしか声が聞こえなくなっていた。

タロンジは自らの勝利を確信し掛けたが、その時であった。

火を吐き続けるアッコロカムイが突然奇声をあげた。

驚いたタロンジがプラーミャを見ると、そこに全身が焼け焦げていながらも、必死にアッコロカムイの吸盤と吸盤の間の皮膚を、(むさぼり)り食う様に噛み続けるプラーミャの姿があった。

足の一部をかなりプラーミャに食い千切られ、血が垂れていたアッコロカムイは、随分長い間痛みに耐えていた事になる。


プラーミャは全身を焼かれていたとはいえ、自分も火を体の中に宿すズヴェーリであり、耐火性は強かった。

一方のアッコロカムイは柔らかい肌をしたズヴェーリであり、肉食で牙の鋭い猫型ズヴェーリであるプラーミャに長時間肉を食われてしまっては、神経が傷つき耐え難い激痛に襲われても仕方が無かった。

耐火性のあるプラーミャに火を当てる間、プラーミャを掴む柔らかい足を、鋭い牙を持つプラーミャに噛まれ続ける。

どちらが先に()を上げるかは明白である。

これはしばらく相手に攻撃を当てられなかったタロンジが、焦って判断を誤っていた為に起きた状況であった。


タロンジ「ほほう、一気に立場が逆転されて、こちらは万事休すという訳か。

燃え上がって来たぞ!。

バックドラフトの様に急に燃え上がる闘いも、嫌いじゃないぞ!。」

両者のズヴェーリは満身創痍(まんしんそうい)

闘いは佳境(かきょう)に入った。

タロンジはプラーミャという闘いずらい相手に対して取れる最後の策をとった。


タロンジ「全ての足を振り回して、とにかくプラーミャに攻撃を当てろ!。

数を打てば当たる!。」

プラーミャにこの一撃が当たれば、()ぐ様大怪我を負うのは分かっていた。

何故なら、体格差が顕著(けんちょ)に現れるからだった。

しかし、シュウジもまた手を駒ねいている訳ではなかった。

相手との体格差を逆手に取り、一気に攻撃に出るのは避けてとにかく逃げ回り、相手が疲れた所を攻撃するという戦い方に切り替えた。


逃げ回り足の隙間という死角に隠れた一瞬の隙を付いて、無駄に大きな体に噛みつき、爪を立て、焼いていった。

そしてそれをある程度繰り返したある時、プラーミャの目の前には先程食い散らかした傷が見えた。

それを見逃さなかったプラーミャは渾身(こんしん)の一撃を加え、耐えかねたアッコロカムイは遂に倒れたのであった。


タロンジ「ア、アッコロカムイ…。

少年…燃え尽きちまったよ。

…ここ数年負け続きだな。

SNSがまた炎上しちまうよ…。」

シュウジとプラーミャの勇姿を見て、称える男が居た。

審査員のトラゾウであった。

トラゾウはシュウジに期待していると声を掛け、シュウジはやる気に満ちていった。


その後も連戦連勝して、遂に予選を突破したのだった。

壇上から降りたシュウジに駆け寄ったユーリやアイナは、アイノネを連れて来ていた。

アイノネは、父親のトラゾウがシュウジに一目置いているとの事を伝え、帰っていった。

シュウジは、今なら行けると思いアイノネを追いかけた。

今ならトラゾウと話をして、師事して貰えると思ったのだ。


アイノネが通った道を追って行くと、そこにはアイノネとリク、トラゾウが居た。

しかし、様子が変であった。


アイノネ「お父さん、リク(にい)…。

僕、旅に出たいよ…。」


リク「トゥリーニルとして武者修行をしながら、各地を旅しているじゃないか。」


アイノネ「それは旅行だよ!。

僕は…誰かが闘ってるのを見てるだけなんて退屈過ぎるよ…。

ただ…旅をしながら、闘っていたいんだよ…。」


リク「アイノネ、お前は…。

父さんの後をついで、3大トゥリーニルとなってその果てには、“闘獣”の王者になりたいんだろう!?。」


アイノネ「そ…そうだけど…。」


トラゾウ「アイノネ…!。」


アイノネ「…何?。」


トラゾウ「旅に出たいのか?。

何も隠す事はない、正直に言いなさい。」

彼はエガ・トラゾウ(江賀寅三)

シルクハットを被った渋く男前な雰囲気。

身長160cm台。



アイノネは焦燥感を覚えながら迷っていた。

今にも泣き出しそうな顔をして、こう言った。


アイノネ「ううぅ…。

違う!。

旅になんか出たくない!!。」


リク「滅茶苦茶だぞ?…アイノネ。」


トラゾウ「アイノネ…。

どうして嘘なんか付くんだ?。

困ったお前を、父さんは見たくなんかないぞ…。


何でそんな嘘をつくんだ?。

教えてくれ、言ってくれなければ分からないよ?。」

アイノネは父親の優しい一言に自分の中にある、嘘をつき続けるのか、もう一度旅に出たいと言うべきかなのかが分からなくなっていた。

しかしアイノネ以外の人間には、そもそも何故アイノネが一人でこんなにも困惑して居たのかが分からなかった。


トラゾウ「どうなんだ、アイノネ?。」


アイノネ「本当は旅に出たいよぉ…。」


トラゾウ「そうか…。

まだ子供だしな、夏休みの内1日も自由な時間がないのでは、ストレスに耐えられなくなるよな。」


リク「父さん、もしかしてアイノネのワガママを許すんですか?。」


トラゾウ「そういう事になるな。

アイノネ、旅に出ても良い。

お前の人生だ、お前が決めても良いんだよ。」


アイノネ「リク兄、お父さん。

僕は、旅には行かない。

だって僕が旅に行っちゃったら、リク兄が可哀想だから…。」


リク「僕が可哀想…?。

一体どういう意味だい?。」


アイノネ「僕、知ってるんだ。

僕が生まれた理由を…。

生まれつき決められた運命を…。


父さんは、本当はリク兄を後継者にしたかったんでしょう?。

でも、リク兄は生まれが理由で、後継者になれなかったんでしょ?。

だから後継者になれる人間として、僕が生まれた。」


トラゾウ「聞いていたのか…あの時の話を…。」


アイノネ「僕はお父さんの後継者になる為に、お父さんが決めた練習をこなしていく事が大事だと思うんだ。

観戦も練習なら、それをするよ。

だってお父さんの子供として、そしてリク兄の弟として生まれてきた僕は、カイ市3大トゥリーニルにならなくちゃいけないんだから!。」


リク「すまないアイノネ…。

僕の為に今までの自分の人生を、そして夏休みを捨ててくれたんだな…。」


アイノネ「良いんだリク兄。

僕は、父さんやリク兄といった強いトゥリーニルから教えて貰えてるから、十分に特別な扱いは受けてるもん。

僕が特別な訳じゃないんだから、頑張らないとね!。」

シュウジは大きな選択をしたアイノネが、年下であるのに自分よりも大人な雰囲気を(まと)う人間に見えた。



第4話 終

タロンジ(千徳太郎治)は実在の人物をモデルにしています。

千徳氏の通称が、タロンジなので上記の様な表記に致しました。


江賀寅三は実在の人物をモデルにしています。

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