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ズヴェーリ 英雄叙事詩   作者: 乘
第1章 幼馴染み編
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第3話 ユジノハラ

前後編として投稿しましたが、あまりに短かったので1つに纏めました。


※キノシタの役職を、総裁から社長に変更致しました。

第3話


ユジノハラ



タケダらと別れてから2日後、シュウジ達はユジノハラ市へやって来た。

そこにはナチナ町にはない、コンクリートで出来た建物が連なる街があった。

所狭しと並ぶそれらには看板や張り紙が張り付き、木々等は側になく、下を眺めればあらゆるゴミとガムで溢れる雑な印象を受けた。

発達未満の都会という言わば文明の象徴には、それに適応しきれていない者が居る。

文明人のメタコミュニケーションである法律や道徳を守れない原始人が、一定数迷い混んでいるのだろう。

そんな輩が文明の恩恵を享受する事は、非常に理不尽な事だ。


シュウジ「なぁユーリ。

ここにある建物とかって、一昨日あの道で出会(でくわ)したNIsのおっちゃん達が造ったのかな?。」


ユーリ「そうですね。

全部でなくとも、ほぼ全ては彼等の手によるものでしょう。」


シュウジ「すげぇな…あのおっちゃん達でこんなに造ったのかよ…。

たかだか数百人で…。」


アイナ「ちょっとシュウ、違うわよ。

大きな会社だから、何万人もの人達が居るのよ。」


ユーリ「そうですよ。

何万人と雇用されていますから、彼等が手掛けたもの等、全体の僅か数%ですよ。

でも、もしかしたらここに見えている全ての道、建築物、地中に埋まっている設備等にはタケダさんが関わっているかも知れませんね。

シュウジは聞いていなかったでしょうが、彼は南部の総責任者ですから。」


シュウジ「あのおっちゃん、結構偉い人だったんか。」


ユーリ「そうですよ。

…そうだ、その辺の事を含めて勉強しましょう!。

まだ予選まで日にちがありますから、せっかくユジノハラに来たのなら国立図書館に寄っていきましょう!。」

ユーリの提案で、シュウジらは嫌々(いやいやなが)ら図書館へ向かった。

ユーリ依ればNIsカンパニーはカラハット州の現代史を代表する大企業なのだそう。


ユーリ「この企業の歴史は、数ヶ月前に病死した前社長のキノシタという方が半世紀前に大工として出稼ぎの大工集団の棟梁(とうりょう)として島にやって来た事が切っ掛けです。

彼の出身地はここより南方を支配する帝国であったらしく、その国は物作りが評価されていて、その技術は世界的にも評価されていました。

その類い稀で繊細な技術力を(もち)いて、彼は自身の生活を懸けてこの島にやって来たんです。

しかし、何故キノシタは“南方の帝国”から出稼ぎにこの島を訪れなくてはならなかったのか?。

そこを理解する必要があります。」



(さかのぼ)る事およそ100年程前の1868年。

現在のカラハット州よりも更に南の地域に、“南方の帝国”は誕生した。

その帝国は前年の1867年に北上し、カラハット島の南側から上陸した。

しかし、同時期にカラハット島より北と西を支配する“北方の大国”が島の北側から上陸した。

そして島は、両国による2重支配がなされた。


1875年に両国間で結ばれた条約により、“南方の帝国”は、島の南部に住む先住民らと共に島から引き上げた。


1905年に結ばれた条約により、“南方の帝国”は再び島にやって来た。

両国は海で戦争を行い、まだ幼い“南方の帝国”は大国と互角に戦って見せたのだ。

その結果両国は、1つの島を南カラハットと北カラハットとして分割して支配した。


時代は、世界各国が覇を争う乱世となっていた。

帝国領、南カラハットに衝撃が走った。

1945年8月11日、大国は南カラハットの半田と呼ばれる地域を攻撃した。

帝国の軍は決死の戦いを行うも、結果は物量差により敗北して、島を失う事になってしまったのだった。

内地(ないち)と呼ばれる帝国の本土に帰還したキノシタは、荒れ果てた故郷に衝撃を受けた。

そこで生活をするのはとても簡単とは言えず、食うものも無ければ仕事もない故郷で、彼は苦しい日々を送っていた。


そこから数年経ったある日、カラハット島とその周りの諸島を含めたカラハット州に大都市が誕生していた事を知る。

経済特区となっている特別行政区で、名前はカイ市。

そこで彼は、一度は住んだ事のある街だからとここへ出稼ぎに向かう事を決めた。

戦後に大工として活動しその棟梁となっていた彼は、その一団を連れてカラハット州へやって来たのだった。



シュウジ「ほわぁぁ。」


ユーリ「ちょっとシュウジ、何で欠伸(あくび)をしてるんですか!。」


アイナ「10歳のシュウには難し過ぎたのよ。」


シュウジ「そうだよ。

俺は勉強をしにユジノハラ市に来た訳じゃないんだからなぁユーリ。

俺は“獣王“ になる為に、ここで“闘獣”の…。」


少年「予選に出場するんだね!。」


そこには見知らぬ少年が居た。

彼は目を光らせて、まるで芸能人にバッタリ出会ったかの様に、こちらを見ていた。

シュウジは、図書館という静かな寝室で教師ユーリの授業という睡眠薬を摂取して眠たくなっていた。

その為、少年に(まばゆい)い眼差しを向けられる等と思っていなかった彼は、とうとう自分が夢の中へ落ちていってしまったのだと思った。

しかし、夢にしては地味すぎる目の前に広がるその景色に、彼はこれが現実であると悟ったのだった。


そこで少年と話をしてみる事にした。

聞けば、彼の名前はアイノネ。

見た目は茶髪で堀の深い顔つきだが、少年らしい可愛さがある。

身長は135cm位で、年齢は8歳。

父親がカイからこのユジノハラまで出張してきた際に、見学としてこの街に連れて来られたらしかった。

そして出張でやって来たという彼の父親は、なんと“闘獣”のトゥリーニルであった。

驚いたのはそれだけではなく、なんと彼の父親はカイ市の3大トゥリーニルの一人であった。


カイ市3大トゥリーニルとは、毎年行われる“闘獣”王者決定戦の予選区である幾つかの区に於いて、数年間連続して、代表として選出されている3名の人物の事である。

彼は、その一人であるエガ・トラゾウの息子であった。

トラゾウはユジノハラ予選の審査員の一人であり、アイノネを有識者席に連れていき、彼を自分の後継者に据えようとしていたのだった。


だが、アイノネの心の中にはどこか迷いがあった。

トゥリーニルとして強くなる為に努力してきたが彼は、とにかく闘いを重ねて、自分のズヴェーリを強化させていきたいといった思想の人間であった。

その為アイノネは、父親に薦められた自分が“獣王”になるには最良の選択である筈の観戦を退屈に思っており、予選に出場するシュウジを羨ましく思ったのだった。

シュウジは心の中で、アイノネという生まれが幸運な人間に嫉妬した。

何度、自分の親が王者であれば…3大トゥリーニルであれば…と想像して空想のもしもの世界に入り浸った事か。

シュウジという一介の普遍的なトゥリーニルには憧れずにはいられない、アイノネという生まれの運に恵まれた男が、彼にとっては嫉妬の対象でしかなかった。


アイノネに迎えが来た。

それは、顔は細目の美男子であった。

彼は、アイノネの兄であった。


アイノネ「リク(にい)、図書館で勉強なんてつまらないよ。」


リク「ワガママいうんじゃないアイノネ。

強いトゥリーニルは、知識豊富な人格者でなくちゃならない。

父さんの様なね。」


エガ・リク(江賀璃來)

アイノネの兄でトラゾウの長男。

元トゥリーニル。

細目だが小顔で容姿が良く、イケメンの類い。

全身は色白で、身長178cm。


リク「弟の面倒を見て頂き、ありがとうございます。」

ユーリとアイナは、この異なる人種であるとすぐに分かる見た目をした人間に、異国情緒を感じた。

いや、ただそのカッコ良さに見とれてしまっていた。

アイノネは寂しそうな顔をして手を振り、リクと共に去っていった。


ユーリ「素敵な御仁(ごじん)でしたね、アイナ。」


アイナ「カッコ良い人だったね!。

シュウジも成長したら、あんな感じなのかしら?。

…素敵。」

何やら赤くなっているアイナを不思議に思いつつも、3人も図書館を離れた。

シュウジの心は、アイノネで一杯であった。

どうにかして、アイノネを通じて3大トゥリーニル、トラゾウに会いたい。

予選でいい結果を出せば、もう一度彼に会えるだろうか?。

そうすれば、そこで仲良くなれるかもしれない。

シュウジは前にも増して、このユジノハラ予選に掛ける思いが強くなっていった。



第3話 終

カラハット島やカラハット州。

“南方の帝国” “北方の大国”や 年表に表してある出来事は、全て実在の国や島、そして出来事をモデルにしています。


戦後のカイ市のお話は創作です。


※作中で年表に誤りがあったので、該当部分を削除いたしました。

※アイノネの年齢を変更しました。

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