第31話 最終決戦 カイ市攻防戦
第31話
最終決戦 カイ市攻防戦
地上の正規軍は、空からの攻撃で、一時退却を余儀なくされた。
その結果攻撃の手が緩んだ隙に、砦の武士団達は体勢を整える事が出来たのだ。
地上の兵士達は再び砦の攻略を命じられるが、それは困難であった。
それは何故か、野生のズヴェーリである。
野生のズヴェーリ達が兵士達に襲いかかり、その対処に再び兵員が割かれてしまい、砦攻めの戦力が低下してしまったのだ。
砦の中の武士達には、野生のズヴェーリ等は無関係であった。
そんな状況下で地上の兵士が活躍出来ずとも、空の兵士達は奮戦していた。
彼等は多大なる犠牲を出しながらも、それを上回る武士を撃墜していたのだ。
兵士ら個々の奮戦により、武士の空戦部隊は徐々に砦の上から押し離されていった。
そして、砦の上から攻撃する空戦部隊に、砦は壊滅的な被害を出した。
この一連の戦いは、数日間掛けて行われた、前哨戦となった。
しかし時間を掛ける事こそが、総大将カクの目的であった。
カク「砦が押されているな…。
しかし、これはあくまで時間稼ぎだ。
今頃タケダが地下道を通って、カイ市に到着している頃だ!。」
タケダは、地下道を進み中央区に進んでいた。
しかし、どういう訳かそこは東区であった。
地中を進む道造りの精度とは、こんな物なのである。
ワール市で、カクと本隊を囮にした作戦は、見事に成功したと言える。
東区
兵士A「今前線はどうなってるのかなぁ?。」
兵士B「さぁな。
TVニュースも、州自治体の圧力で機能してないらしいぜ。」
兵士A「はぁ、なんでだよ?。
敵の動向を探るには、一番良い方法じゃん。」
兵士B「それは、敵にも同じだからだよ。
メディアが調子に乗って、正規軍の情報を他国に売るとか、考えられるだろ?。」
兵士A「荒稼ぎだなぁ。」
兵士B「人の死もメディアの銭ゲバ達には、金の成る木にしか見えないんだよ。」
兵士A「武士団は意外ともう、俺達のすぐ側に居たりな。
それだったら面白ぇよなぁ。」
兵士B「それな。
退屈で面白くねぇし、それくらい危機感あった方が楽しくなりそうだな。」
タケダは、戦闘体勢を敷いていなかった東区で、突如出現した。
西へ進撃するタケダは、自分達に気が付き敵襲を叫ぶ兵士、そしてその拠点を必要な数だけ攻撃していった。
タケダ「空戦部隊は全て、ワール市に置いてきた。
空から攻撃されるとまずい、とにかく邪魔する敵を蹂躙してから、西区を目指すぞ!。」
コウサカ「どこまでもお供しますぞ、殿!。」
タケダ「その意気だコウサカ!。
ここからは速さが要!。
騎馬武者の恐ろしさ、敵にも思い知らせてくれるわ!。」
質、量共に最高のタケダ騎馬武者に依る神速の猛攻は、東区、チェレミソグラード、アンドレエフグラードを容易く抜けていった。
それらの方向を逐一受け付け、中央区は厳重警戒体勢を敷いていた。
そしてそこで初めてタケダ騎馬武者達は、進軍を停止したのだった。
区画整備された高層ビルの合間を、縫う様に敷かれるアスファルト。
その上を駆けるウンマを、兵士達は攻めあぐねていた。
中央区に迄武士に侵食され、そこで膠着状態に陥ったという情報は、直ぐ様全軍に伝えられた。
それは西区に配備されていたドレイク独立大隊も、例外ではなかった。
ドレイク「敵は東から中央区へ来たか。
わざわざ東へ行った理由は分からないが、とにかく危険だな。
そして北では、敵の主力を足止めしている。
テロリスト、カラハット武士団。
彼らの首魁、つまり旧NIsカンパニー社長ダオはそこに居る筈だ…。
しかし、どうも納得がいかない…。
ダオが社長に就任してから行われた会社の経営。
そこには青山の外での採算が取れない地域を放棄といった、無情で冷酷な姿があった。
他にもスラム街であったグローム町を持つ、グローム市を担当していたツジ。
その男を突如役員に抜擢したりもした。
優れた経済手腕を認めたのだろうが、周りの反感もでかかっただろう。
実際、この抜擢には反感があった様だ。
そういう、目的の為なら手段を選ばぬ人間にしては、ワール市での戦いはどうも手ぬるい。
…ダオはそこに居ないのか…?。
だとすれば何故だ?、そしてどこに居るんだ…。」
思案するドレイクの居る指揮官室に、1人の人間がやって来た。
ジェル「お邪魔します。」
それは、ジェルであった。
ジェル「お話したい事がありまして、やって参りました。」
ドレイク「どうした、ジェル軍曹。」
ジェル「実は…。」
ドレイク「おっと、まぁ座れ。
ジェルジンスキー」
ジェル「何度も申し上げておりますが、自分はジェルジンスキーではありません。
ジェル・ティーグロネンコです。」
ドレイク「ハッハッハ!。
相変わらず固いな、お前は!。」
ジェルはドレイクと二人きりになると、度々ジェルという名前から、ジェルジンスキーと呼ばれていた。
ドレイクが好きなオペラで、ジェルジンスキーの作曲した曲をよく耳にするからという理由でジェルをそう呼び、からかっていたのだ。
ジェルという名前は彼の他には見られない、所謂キラキラネームであった。
“北方系”では親密になれば本名ではなく、“愛称系”という呼び方をする。
しかしキラキラネームであるジェルにはそれがなく、親密さを表す為にドレイクは、彼をジェルジンスキーだと呼ぶのであった。
それからジェルは、彼なりに考えた事を伝えた。
それは、敵の侵攻作戦の中身についてであった。
ジェル曰く、武士団の主力は現在姿を表しているいずれでもなく、ポロナイスクに潜伏していると告げた。
その理由は、虚を突く事が大事だと、ダーイナイプトンニーニが言っていたからというものだった。
この説明は非常に漠然としていたが、ドレイクの中では一考する価値のあるものだった。
彼もまたダーイナイプトンニーニから戦術を教わっており、親交が厚かったからである。
そして、それだけではなかった。
もしダオ本隊が居らず、どこか別の場所に居るのではと考えていた中、聞かされたジェルの考察。
その視点はかなり重要であったのだ。
地震が発生した後の調査で、その地震は自然的なものではなく、人工的なものであるとされた。
そしてその正体に考えられたのは、キムンカムイであった。
テロの後に地下を探索した矢先、そこには巨大なズヴェーリが居た。
それが何というズヴェーリかは、分からなかった。
しかしその後の調査で島の固有種である事が分かり、そこから100年程前の文献を漁ると、キムンカムイの名前があったのだ。
そして同時にキムンカムイは先住民に取って、特別なカムイである事も判明していた。
そのカムイを武士団が手に持って居たのなら、その存在を利用して、先住民達を揺さぶっていてもおかしくなかった。
つまり、先住民達が武士団に加担し戦争に参加してくる可能性は、十分に高かったのだ。
ドレイクは直ぐ様、上官を伝って西区駐屯軍の司令官に、先住民へキムンカムイの現状を伝える様にと掛け合った。
しかし余りに根拠の薄いその可能性に、上官は許可を出せなかった。
真っ当な判断ではあるが、これはドレイクに取って幸運であった。
先住民会の正体は、武士団に操られる哀れな者達ではなく、自分の道を自分で決める人間達であったからだ。
第31話 終
ジェルジンスキーは、イワン・イワノヴィチ・ジェルジンスキーをモデルにしています。
そして作中での“北方の大国”のモデルは、ロシアです。
作中に登場する特徴で、既にお分かりの方も居たかもしれません。
尚ロシアとは、(ロシア帝国 ソヴィエト連邦 ロシア連邦)を全て含めた意味です。




