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ズヴェーリ 英雄叙事詩   作者: 乘
第4章 新たなる“獣王”編
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第31話 最終決戦 カイ市攻防戦

第31話


最終決戦 カイ市攻防戦



地上の正規軍は、空からの攻撃で、一時退却を余儀なくされた。

その結果攻撃の手が緩んだ隙に、砦の武士団達は体勢を整える事が出来たのだ。

地上の兵士達は再び砦の攻略を命じられるが、それは困難であった。

それは何故か、野生のズヴェーリである。


野生のズヴェーリ達が兵士達に襲いかかり、その対処に再び兵員が割かれてしまい、砦攻めの戦力が低下してしまったのだ。

砦の中の武士達には、野生のズヴェーリ等は無関係であった。

そんな状況下で地上の兵士が活躍出来ずとも、空の兵士達は奮戦していた。


彼等は多大なる犠牲を出しながらも、それを上回る武士を撃墜していたのだ。

兵士ら個々の奮戦により、武士の空戦部隊は徐々に砦の上から押し離されていった。

そして、砦の上から攻撃する空戦部隊に、砦は壊滅的な被害を出した。

この一連の戦いは、数日間掛けて行われた、前哨戦(ぜんしょうせん)となった。

しかし時間を掛ける事こそが、総大将カクの目的であった。


カク「砦が押されているな…。

しかし、これはあくまで時間稼ぎだ。

今頃タケダが地下道を通って、カイ市に到着している頃だ!。」


タケダは、地下道を進み中央区に進んでいた。

しかし、どういう訳かそこは東区であった。

地中を進む道造りの精度とは、こんな物なのである。

ワール市で、カクと本隊を(おとり)にした作戦は、見事に成功したと言える。



東区


兵士A「今前線はどうなってるのかなぁ?。」


兵士B「さぁな。

TVニュースも、州自治体の圧力で機能してないらしいぜ。」


兵士A「はぁ、なんでだよ?。

敵の動向を探るには、一番良い方法じゃん。」


兵士B「それは、敵にも同じだからだよ。

メディアが調子に乗って、正規軍の情報を他国に売るとか、考えられるだろ?。」


兵士A「荒稼ぎだなぁ。」


兵士B「人の死もメディアの銭ゲバ達には、金の成る木にしか見えないんだよ。」


兵士A「武士団は意外ともう、俺達のすぐ側に居たりな。

それだったら面白ぇよなぁ。」


兵士B「それな。

退屈で面白くねぇし、それくらい危機感あった方が楽しくなりそうだな。」



タケダは、戦闘体勢を敷いていなかった東区で、突如出現した。

西へ進撃するタケダは、自分達に気が付き敵襲を叫ぶ兵士、そしてその拠点を必要な数だけ攻撃していった。



タケダ「空戦部隊は全て、ワール市に置いてきた。

空から攻撃されるとまずい、とにかく邪魔する敵を蹂躙(じゅうりん)してから、西区を目指すぞ!。」


コウサカ「どこまでもお供しますぞ、殿!。」


タケダ「その意気だコウサカ!。

ここからは速さが要!。

騎馬武者の恐ろしさ、敵にも思い知らせてくれるわ!。」


質、量共に最高のタケダ騎馬武者に依る神速の猛攻は、東区、チェレミソグラード、アンドレエフグラードを容易く抜けていった。


それらの方向を逐一受け付け、中央区は厳重警戒体勢を敷いていた。

そしてそこで初めてタケダ騎馬武者達は、進軍を停止したのだった。


区画整備された高層ビルの合間を、縫う様に敷かれるアスファルト。

その上を駆けるウンマを、兵士達は攻めあぐねていた。



中央区に迄武士に侵食され、そこで膠着状態に陥ったという情報は、直ぐ様全軍に伝えられた。

それは西区に配備されていたドレイク独立大隊も、例外ではなかった。


ドレイク「敵は東から中央区へ来たか。

わざわざ東へ行った理由は分からないが、とにかく危険だな。

そして北では、敵の主力を足止めしている。

テロリスト、カラハット武士団。

彼らの首魁(しゅかい)、つまり旧NIsカンパニー社長ダオはそこに居る筈だ…。

しかし、どうも納得がいかない…。


ダオが社長に就任してから行われた会社の経営。

そこには青山の外での採算が取れない地域を放棄といった、無情で冷酷な姿があった。

他にもスラム街であったグローム町を持つ、グローム市を担当していたツジ。

その男を突如役員に抜擢(ばってき)したりもした。

優れた経済手腕を認めたのだろうが、周りの反感もでかかっただろう。

実際、この抜擢には反感があった様だ。


そういう、目的の為なら手段を選ばぬ人間にしては、ワール市での戦いはどうも手ぬるい。

…ダオはそこに居ないのか…?。

だとすれば何故だ?、そしてどこに居るんだ…。」


思案するドレイクの居る指揮官室に、1人の人間がやって来た。


ジェル「お邪魔します。」


それは、ジェルであった。


ジェル「お話したい事がありまして、やって参りました。」


ドレイク「どうした、ジェル軍曹。」


ジェル「実は…。」


ドレイク「おっと、まぁ座れ。

ジェルジンスキー」


ジェル「何度も申し上げておりますが、自分はジェルジンスキーではありません。

ジェル・ティーグロネンコです。」


ドレイク「ハッハッハ!。

相変わらず固いな、お前は!。」


ジェルはドレイクと二人きりになると、度々ジェルという名前から、ジェルジンスキーと呼ばれていた。

ドレイクが好きなオペラで、ジェルジンスキーの作曲した曲をよく耳にするからという理由でジェルをそう呼び、からかっていたのだ。

ジェルという名前は彼の他には見られない、所謂(いわゆる)キラキラネームであった。

“北方系”では親密になれば本名ではなく、“愛称系”という呼び方をする。

しかしキラキラネームであるジェルにはそれがなく、親密さを表す為にドレイクは、彼をジェルジンスキーだと呼ぶのであった。



それからジェルは、彼なりに考えた事を伝えた。

それは、敵の侵攻作戦の中身についてであった。

ジェル曰く、武士団の主力は現在姿を表しているいずれでもなく、ポロナイスクに潜伏していると告げた。


その理由は、虚を突く事が大事だと、ダーイナイプトンニーニが言っていたからというものだった。


この説明は非常に漠然(ばくぜん)としていたが、ドレイクの中では一考する価値のあるものだった。

彼もまたダーイナイプトンニーニから戦術を教わっており、親交が厚かったからである。

そして、それだけではなかった。


もしダオ本隊が()らず、どこか別の場所に居るのではと考えていた中、聞かされたジェルの考察。

その視点はかなり重要であったのだ。

地震が発生した後の調査で、その地震は自然的なものではなく、人工的なものであるとされた。

そしてその正体に考えられたのは、キムンカムイであった。


テロの後に地下を探索した矢先、そこには巨大なズヴェーリが居た。

それが何というズヴェーリかは、分からなかった。

しかしその後の調査で島の固有種である事が分かり、そこから100年程前の文献を漁ると、キムンカムイの名前があったのだ。

そして同時にキムンカムイは先住民に取って、特別なカムイである事も判明していた。

そのカムイを武士団が手に持って居たのなら、その存在を利用して、先住民達を揺さぶっていてもおかしくなかった。


つまり、先住民達が武士団に加担し戦争に参加してくる可能性は、十分に高かったのだ。



ドレイクは直ぐ様、上官を伝って西区駐屯軍の司令官に、先住民へキムンカムイの現状を伝える様にと掛け合った。

しかし余りに根拠の薄いその可能性に、上官は許可を出せなかった。

真っ当な判断ではあるが、これはドレイクに取って幸運であった。


先住民会の正体は、武士団に操られる哀れな者達ではなく、自分の道を自分で決める人間達であったからだ。



第31話 終

ジェルジンスキーは、イワン・イワノヴィチ・ジェルジンスキーをモデルにしています。


そして作中での“北方の大国”のモデルは、ロシアです。

作中に登場する特徴で、既にお分かりの方も居たかもしれません。


尚ロシアとは、(ロシア帝国 ソヴィエト連邦 ロシア連邦)を全て含めた意味です。

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