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ズヴェーリ 英雄叙事詩   作者: 乘
第4章 新たなる“獣王”編
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第30話 最終決戦 ワール市攻防戦

第30話


最終決戦 ワール市攻防戦



カイ市には、カラハット州正規軍の60万の内、長期化に際して、交代の予備を除き配備されるのは、50万であった。

最も先に、戦闘区域となる事が予想される北区。

ここに約半分の20万が配備され、その南に位置するチェレミソフグラード、アンドレエフグラードには、10万が配備された。


その西に位置し、敵の最終目標であろう州議会会場がある、中央区。

そこには10万が配備された。


それらの東に位置する東区は、最も敵の侵攻に対する備えが少なく、5万の兵士が配備された。

その内訳は、実践経験の少ない新米が多かった。


なぜそうなるかと言えば、東区の半分以上は海に面し、海から侵攻出来ない様に、既に海路を塞いでいる為である。

これにより、東区へ侵攻するには北区の陸路を抜けて、わざわざ中央区から遠ざかり、チェレミソフグラードとアンドレエフグラードを、東へ進まなければならないからだ。

その為、東区は形だけの“援軍”であった。


残る5万は、中央区の西に位置する西区に配備された。

これは、もしも青山から新手が来た際の備えであった。

青山での戦闘を戦い抜いたドレイク達は、この西区に配備されていた。

そこには、総司令官ゲレンスキー中将(ちゅうじょう)の読みがあった。


ゲレンスキー「カイ市の総人口や、NIsの影響力が色濃く残る島中の各地域から計算しすると、戦闘員に出来る適正年齢の男性は、これで全員だな。

つまり、敵は総力戦を挑んでいる訳だ。

こちらと、同じ様にな…。」



彼はヨシフ・イワノヴィチ・ゲレンスキー中将(ちゅうじょう)。(Иосиф Иванович Геленский)

歴戦の猛者で、有能な将軍。

顔中にシワがある老兵である。

身長185cm。

体重69kg。

年齢68歳。


部下「それでも、敵は我々の最終防衛拠点のカイ市に、チェックを掛けています。

それからアレク市より出撃してきた新手が、コタンコロを制圧しました。

その数10万で、それから分裂して、一部がチロットをも制圧、シュシュ湖を越えて、カイ市西側にまで迫っています。」


ゲレンスキー「その対処は、西区の兵士らに任せよう。

期待をしている部隊がある。

青山での戦闘で活躍した、ドレイク独立大隊だ…。」



前線基地内にて。


ラインホルト「どうかね、攻撃準備の方は。

今日の日照と共にやりたいのだがね。」


部下「はい、大丈夫そうです。

いつでも攻撃可能です!。」


ラインホルト「そうか、では集合している兵士達に、(げき)を飛ばしてくるかの。」



積み上げられた兵舎のプレハブの上に、ラインホルト中佐は立った。

プレハブの上という、威厳のない場所でと、ラインホルト中佐から放たれる覇気は、兵士らを恐縮させるには十分であった。

数km先に見える敵の砦。

兵士達にはそれよりも大きく、そして尊大に見えたのだ。


芝生が剥げた凍った大地の上、アスファルトや街灯等ない田舎町に広がるプレハブ小屋。

そこから吐き出されて、整列する兵士。

薄暗い闇を切り裂く(あかつき)に照らされる中、彼等にラインホルトは(げき)を飛ばした。



ラインホルト「朝日が顔を出してきたな…。

兵士諸君、君達はこれから、戦場という死地へ赴く事になる。

ここに居る何人かは、確実に死ぬだろう。

しかし、忘れないで欲しい。


諸君らの戦いぶりは、今は未来を生きる者達を守る事になる!。

猛々(たけだけ)しく戦えば、島に居る全ての者が諸君らを讃え!、諸君らが創った歴史の中で、後世に於いて評価されて行く事だろう!。


つまり、諸君らの生きた証であるその名を、後世の人間にも伝えられていくのだ!。


朝日が上りきったら、我々は全力で攻勢に移る!。

死力を尽くしてたたかえ!。

武運を祈る!。」


徐々に明るくなる世界で、彼等の士気は最大限に上がった。


その姿を見た武士団本隊総大将、カク。

彼もまた、武士達を所定の位置に配備させ、そのまま待機させた。

暁など見えない暗黒の砦の中、狭くて動けず、ただ寒さに凍える中で、彼等は迫る敵に構えた。


国という人体で、行き詰まった政治そして経済の先にある、戦争という新陳代謝活動。

国体を新しくする為に行う代謝に際して、命を失っていく、武士という名のいたいけな細胞達。

“帝国”の歴史の中で、武士達は新しい時代に抗い、戦ってきた。

ここに居る彼らもまた、あたらしい国体(からだ)の中で居場所をなくした細胞達であり、死に場所を求める、旧世代の武士達なのであった。



寒空の下、熱気により凄まじい気迫を見せる、正規軍兵士。

その存在感を光らせる真鍮(しんちゅう)の生命力を、受け止めなくてはならない武士達。

漆黒(しっこく)の死臭が漂う絶望、それを覚えて尚、彼等は戦う姿勢を見せた。



ラインホルト「全軍、進軍せよ!。」


遂に、最終決戦の火蓋が、切って落とされた。


正規軍は物量で、正面から砦を攻撃した。

しかし砦には高さがあり、それは空からでなくとも、上から敵を狙える事を意味していた。

虎視眈々(こしたんたん)と敵を狙う、武士の弓部隊は、容赦なく炎や毒を浴びせた。


次々に身を焼かれ、毒により神経を麻痺され倒れたり、呼吸困難になり窒息死する兵士で溢れた。

大火は周辺の森も焼き払った。


ワール市正面の砦を攻略せんとする正規軍。

彼等は、拠点攻めの定石(じょうせき)である、包囲殲滅を行おうとした。

しかし、それさえも上手くは行かなかった。

常に行われる360度、弓部隊攻撃。

その合間を掻い潜って、包囲が完成しそうになると、突然砦から出撃してくる騎馬武者に、包囲している歩兵部隊が襲撃され、撹乱(かくらん)されるのである。

徹底的に、包囲の妨害をする。

それが、武士団の必勝法であった。


しかし、ラインホルトはそれでも、正攻法を変えるつもりはなかった。

正攻法による物量攻め、それは相手の心を攻められるのである。

武士は、どれだけ倒しても現れる兵士に、繰り返し戦わなくてはならない。

つまりは、いつまでも終わらないという心理的な負荷が、湯水の如く味方を死なせるて同時に、正規軍が得られる攻撃であった。

徐々に疲労が溜まり、砦は包囲されてしまう。


サナダは、タケダに1つ策を授けていた。

それをタケダから受け取っていたカクは、その通りに駒を動かした。



武士団は、空戦部隊による空襲を行なったのだった。

砦を攻める正規軍は、当然野ざらしである。

そこを突っつく形となったのだ。

武士団の攻撃は、リディア曹長率いる空戦分隊を、翻弄(ほんろう)した。


リディア「ちょこまかと…。

少数で一撃離脱を繰り返されては、数で劣る我々には勝ち目がない!。」


部下「敵が来ます!。

4時と7時の方向です!。」


その言葉を聞いたリディアは、彼女のズヴェーリを急降下させ、攻撃をかわした。

空戦は、背後に迫り遠距離攻撃を命中させ、戦うのである。


しかし、優秀な乗り手程、素早く巧妙な動きをして、敵の背後に回り込んだり、敵を味方の待つ雲の中へと誘導するのである。


リディア「3時の方向は数が多い…僚機、離れるな!。

私と隊列を維持したまま、9時の方向の雲の中まで移動する!。

私が誘導するまで、旋回して待機だ、いいな!。」


部下「了解!。」


リディアが雲から抜け出し敵と交戦、数機を撃墜して、一機を引き連れて雲の中へ浸入した。

しかし、そこに僚機の姿はなかった。


サカイ「待ってたぜ、“白百合”の女ぁ!。」


リディア「どういう事だ、私の部下は…。

撃墜されたのか…?。」


数の力を活かし、サカイは雲の中にリディアの部隊が来る様に、仕向けていたのだ。

それに引っ掛かり、リディアが来る前に彼女の仲間を撃墜させ、単機で戻ってきたリディアに、サカイは奇襲を仕掛けたのだった。


サカイ「チロット市では滅茶苦茶にやられちまったが…その復讐をさせて貰おうか!。」


リディア「この数の差では、分が悪い!。

一旦、雲の中を飛び回らねば!。」



ちょこまかと動くリディアに、武士達は翻弄されていった。

中には雲で視界が遮られている為に、味方に気が付かず衝突し、共倒れする者も居た。


追跡する事に成功したのは、サカイとその配下21だけであった。


サカイ「三尾一体、俺達で奴を()とすぞ!。」


部下「ハッ!。」



逃げるリディアを軸に、サカイと部下1人は2時と10時の方向から、攻撃をし加えた。

同時に、もう1人は真下の6時から、急上昇したのである。

3方向から攻められたリディアは、直進すれば直撃である事を悟ったが、停止は出来ず、絶体絶命であった。

そんな中で、彼女は突然の急上昇をした。

反り返る様に、頭を下にして、進路を反対にしたのである。

リディアの6時の方向から、同じ様に急上昇していた武士。

彼もまた反り返ろうとしたが、反転した状態での飛行が出来ず、グラついた。

そこを、10時の方向から迫ってきていた味方に、炎を誤射されてしまい、撃墜していった。

10時と2時から迫る武士2人が、リディアを追撃しようとした時、頭を地上に向けて反り返って、それから180度回転し、 背面飛行をから通常飛行に戻ったリディア。

そのまま急上昇し、再び反り返ったのだった。


つまりは、武士2人はリディアを見上げ、リディアもまた地上に頭を向けたまま、2人を見上げたのだった。


唖然とするサカイの部下を炎で燃やし、そのままサカイの背後に付いたリディア。

炎を放つも、何故だか炎は右に()れ、サカイには当たらなかった。

サカイは、微妙に左に()れていたのだ。


そのままサカイは逃げたまま、再び大勢の味方が居る方へと戻っていった。


リディア「まずい、このままでは、敵の大軍へと突っ込んでしまう!。」

それを察知したリディアは背を向けて、逃げようとした。

しかし、その瞬間こそ、サカイが待ち望んでいた瞬間であった。


サカイ「背を向けた!。

この俺から逃げられると思うなよ…。

この俺はな、チロットの前線で、その激戦を生き抜いて来た、大空のサムライ何だよ!。」


サカイは背面飛行になり、背を向けて一瞬だけ自分を見失ったリディアを、11時という斜め上空から狙った。

しかし、それこそがリディアの狙いであった。


リディアは急降下した。

サカイは同じ向きを向いて居なかった為、すぐにその動きに対応出来なかった。


一瞬にして150m程離されたサカイは、急いで追撃した。

しかし、すぐについて行けなかった事が原因でリディアを見失ってしまった。


そして追撃していった先には、待ち構えていたリディアと部下1人が居た。

部下を引き連れていたサカイは、1機を連れて逃げる事を決意した。

そして部下の武士を片付けられ、怒濤(どとう)の追撃を見せるリディア一機を相手に、サカイは交戦状態となる。

しかし、リディアは既に疲労困憊(ひろうこんぱい)していた。

彼女の元々の任務は、武士団空戦部隊の撃退という、達成不可能なものであった。

疲れきった彼女はサカイに体当たりを行い、衝突される前にかわし、サカイは彼女とズヴェーリを斬った。

血を吹き出し、リディアは単機で空の(ちり)となった。



そして地上では、砦の中で体勢を整え直した武士団。

彼らの戦いは再び、地上戦に戻るのであった。



第30話 終

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