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ズヴェーリ 英雄叙事詩   作者: 乘
第4章 新たなる“獣王”編
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第28話 最終決戦前夜 前編

第28話


最終決戦前夜 前編



武士団がカイ市に現れた頃から、既に4ヶ月の歳月が流れていた。

神威の森を進むその間武士団は、間接的にズヴェーリ達に守られる形になっていた。

そこを抜けた先で、待ち伏せされる事もなかった。

それは何故か…?。

その理由(わけ)は、防衛地域の広さに対しカラハット州正規軍は少なすぎたのだった。 最終防衛地域であるカイ市。

正規軍は全長約810kmの巨大都市に、僅か60万の兵士で臨まねばならなかった。

それは防衛だけにしか戦力を割けず、僅かに戦力を割いた虚を突かれ、軍が瓦解(がかい)する危険性を(かんが)みると、下手な手は打てないのであった。


そしてほぼ無抵抗とも言える戦力のワール市を、武士団は攻撃した。

12月、凍える雪の世界での出来事である。



カク「空から攻められる。

制空権は当然敵の手にあるが、余裕で奪取出来る。

我が方の空戦部隊は、勇猛果敢だからな。」


ツジ「閣下、騎馬兵も投入しましょう。

空戦部隊の消耗を僅かでも減らす事が出来ます。

それに…何よりもタケダが、騎馬兵を(もち)いてみたい様ですよ。」


カク「タケダが騎馬兵を…?。

それもそうであろうな。

チロット市で騎馬兵にしてやられて、命からがら逃げ延びて来たのだからな。

私の騎馬部隊を預けるので、指揮させてみよう。」


武士団は市全体を包囲した。

囲帥必闕(いしひっけつ)という手法で、敢えて一ヶ所に穴を開けてである。


かくして騎兵で突撃してきた武士団。

それを指揮するのはタケダで、彼はチロットでの経験から、騎馬部隊に心を奪われていた。

勝利には騎馬が肝要、その事実に気が付いたのだった。

雪崩れ込み、とにかくその速さで攻め立てるタケダ騎兵。

高低差の激しい鉱山の近く、上から下へ降りる様に攻める騎馬に、地元の警察組織や一様の軍隊もただ防戦一方であった。


タケダ「やはりチロットで当たった敵は、選りすぐりの選抜軍であったな。

ここの歩兵や騎兵達は、動きが鈍い!。」


ニシ「騎馬兵部隊、俺に続け!。

相棒のウンマ、ウラヌスと俺に敵う者など居やしないのさ!。」



彼はニシ。(西)

武士団1のウンマ乗りで、騎馬技術は武士団の中でも群を抜いている。

最強騎馬兵との呼び声が高い。

身長175cm。

胴短長脚のイケメン。


ニシの素早い攻撃で、各拠点は素早く破壊されていった。

時間の経過と共に、味方の死体が増えて抗えなくなってくると、包囲された街というバケツに唯一空いた穴から、心理的に追い詰められて、もう中には居られなくなった兵士という水は、その穴から漏れ出ていったのだった。

武士団は、そうやって逃亡する兵士らを増やし、戦力を更に減らす為に、追い討ちを掛ける様に空から降りて来る部隊が居た。


空戦部隊である。

“南方の帝国”時代、先の大戦を生き残った1人のエースパイロットも、この武士団に所属していた。



ツジ「グロームで行う筈であった作戦。

それを行おう。

今度は神風は吹いてはくれぬ様だが、よかろう。

我らが空戦部隊が、神風を吹かせてやろう!。」



空戦で最も活躍し制空権奪取に活躍したのは、一騎当千のズヴェーリ乗りであった。


サカイ「コタンコロ市での戦いでは、地味~にあの女にやられたんだよな。

あの女の魑魅(すだま)、かなり綺麗な見た目してたな。

まるで“白百合”の花みたいだった…。


あの場所で負傷したからか、上手く働けねぇや。

俺も下手くそになったな…。」


空から(ふた)をされたワール市、包囲網の唯一の穴から逃げ出し、散り散りになった敵の兵士ら。

街を制圧した武士団は情け容赦なしに逃亡兵らを追撃、それらを殺める事で武功を挙げていったのだった。


こうして殲滅(せんめつ)されたワール市には、激戦の後が残された。

切り傷や食い千切られた後の残る者、炎に包まれ皮膚が焼けただれた者。

彼等を供養(くよう)した武士団は、そのままその場所に駐屯し南下する為の作戦準備を開始したのだった。



同日、カイ市にその情報が届けられた。

ワール市には(あらかじ)め、戦闘を記録するカメラ等が、あらゆる場所に設置されていたのだ。

映像を通して、軍は武士団の戦法や指揮系統を分析した。


やがて訪れるであろうカイ市防衛戦。

その総司令となったゲレンスキーは、この4ヶ月間の間に解体されたヤナ連隊の中からドレイクの功績に注目し、彼の活躍に期待を寄せていた。



4ヶ月前


グロームでの落雷の直後、ドレイクは中佐に昇進した。

それは、彼の活躍を考えれば妥当なものだった。

そして彼は晴れて大隊長とったのだが、彼は独立大隊を率いる事となった。


独軍組織の構造の中で通常の大隊は、その上の連隊に率いられる。

そして連隊はその上の旅団の中に属する。

しかし、この独立大隊は連隊ではなく、旅団や師団の命令を直接受け、単独行動を取ったりする部隊である。

大隊は最小戦術的単位であり、局所で活躍し戦況を動かす事か

出来る、最小の部隊である。


目ぼしい昇進をしたのは、ドレイクのみである。

他の兵士の顛末(てんまつ)は、かなり酷いものであった。


ヤナ連隊長は、部隊が殲滅させられた事に対する責任から、弾劾(だんがい)裁判に掛けられた。

そして降格処分となり、PTSDを発症した後は療養の名目で軍務への復帰を一定期間禁止となった。

更にジノヴィ小隊はリディア曹長、ジェル軍曹を含む数名を残し、全滅。

ほぼ全ての兵士が、死したのだった。

ダーイナイプトンニーニ小隊の隊長は、彼女の兵士共々戦死したらしく、彼から戦術を教わっていたドレイクは涙した。



一方ジェル達は、命令違反に対する軍事裁判に掛けられる事になった。

これはジェルないし彼の分隊の、“お決まり”らしい。

ジェルとレフは正規の軍人である為に召喚されたが、アナトリーは民兵であった為カイ市で軍務を解かれ、無職となってしまった。


しかし、一人でトラウマ級の雷を思い出し辛くなる事よりも、彼はジェルに託された事を遂行しようとした。

それは、ユーリに会いに行くというものだった。

正確に言えば、ユーリを通して長老に会いにである。


帰還途中、ジェルはあの不自然な雷を気にしていた。

まるで意思を持って、あの街にのみ降り注いでいた雷。

ジェルの中で、オキクルミを気にしていたヤナ連隊長や、8月11日に、自身が長老にキレかけた時、ドレイクがそれを(なだ)めた事。

それらから、勘を働かせたのだった。


ジェル「このカラハット州は先住民や一部の“カムイ”と呼ばれるズヴェーリ達を、異常な位に親切にしている。

それらが…俺の思うよりも何か重要な作用をしているのか?。


アナトリー、あの雷も先住民やカムイに何か関係があると思う…。

あれは…普通の雷雲じゃねぇよ。


これは俺の勘なんだが、カムイって神様って意味なんだろ?。

雷はどこの神話にも出がちじゃねぇかよ。

関係があるのかどうか、長老に尋ねてきてくれないか?。」


アナトリー「そ、そんな。

俺は、長老に特別繋がりがあるわけじゃないですよ?。」


ジェル「お友達のユーリが居るだろうと思う…。

あのキモいガキんちょ、絶対に長老とベッタリしてる…。

ユーリを訪ねる(てい)で、長老に会って聞いてきてくれ。」


アナトリー「聞いてきてくれって…一緒に来てくれないんですか?。」


ジェル「無理だな。

俺達には…帰還したら行われる“お決まり”があるんだ。

頼んだぞ…アナトリー!。」



1人で()()づいて不安に駆られていてはいけない。

そう思ったアナトリーは、ユーリには会いたくなかったが、彼と長老に会う為に、オタスの杜へ向かった。



その時、オタスの杜ではこんな会話が繰り広げられていた。

末帰還の兵士を先住民会の特権で調査した結果、ウィルタの子孫であったイーゴリ・ダーイナイプトンニーニが、戦地に居た事が明らかになったのだと。


名前からして純血の先住民である事は確かだった。

そして、敵は武士団であり甲冑を身に付けている。

何か機会があり、それを着用したのだとシャクシャインは予想した。

彼等は事実を知らないが、(まさ)にその通りであった。

ダーイナイプトンニーニはポンヤウンペとなったシュウジよりも、より正確に“甲冑”と言える物を身に付けたが故に、カンナカムイが誤認したのではないかとも予想した。



アナトリーはオタスの杜を訪れた。

初めはその荒廃した雰囲気から、漏らしてしまった彼であったが、戦地に(あしあと)を残して来た彼に取って、もはやそこは何でもない町であった。

先住民達がそんな話をしていた折りに、アナトリーはやって来た。

そしてユーリや長老と話をしたが、彼が来る事をカムイを通して察知していたシュウジは、ユーリらに小芝居をさせる事で乗りきったのだった。


全くの無駄骨に終わったアナトリーは悔しくなったが、不気味でどこか怪しく気持ちが悪い長老宅の人々から離れようと、彼はさっさと帰っていった。



戦争が終わるまで、このカイ市の市外への外出禁止は終わらない。

アナトリーの心の中は、戦地に行きジェルやレフといった仲間達と戦う事を、真っ先に想像していた。



第28話 終

ニシとサカイは、実在の人物をモデルにしています。


ニシは西竹一(バロン西)、サカイは坂井三郎をモデルにしています。


迹は、「せき」「じゃく」と読みます。

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