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ズヴェーリ 英雄叙事詩   作者: 乘
第4章 新たなる“獣王”編
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24話 “闘獣”決勝戦 前編

一部、某スポーツ漫画のオマージュが入っています。

第24話


“闘獣”決勝戦 前編



決勝戦の会場を訪れたシュウジは、今日は最後に敗れる事が決まっている予定調和であると頭では理解していた。

しかし心の底から納得する事等は出来ず、そんな決まりを創った大人達を恨み、改めて何も出来ないという無力感を覚えて悔しさから涙を流した。

そして彼は3大トゥリーニルの誰かと対戦するせめてもの間に、心の底から闘志を燃やそうと思ったのだった。



会場は近未来的な装飾が施された設計の、巨大な建造物であった。

体育館の様なその広々とした建物内は、赤、青、緑、ピンク、紫、色鮮やかな数え切れないサーチライトがあり、それらが闘いを彩るのだ。


舞台の脇の方と中央、そしてトゥリーニルの搭乗口、舞台の上手と下手の方には、トゥリーニルが登場する時にその情報が刻まれた幕が垂らせる様に、準備されていた。


決勝戦は予選とは異なり、一組ずつ闘う。

僅か10数名の決勝進出者は、世界レベルの“闘獣”に通用する程の有能な者達ばかりだ。

優秀なトゥリーニルを排出するカラハット州である事を(かんが)みれば、既に世界に通用するトゥリーニル達である事は明らかであった。


シュウジはその第1回戦で闘う事になった。

第1回戦の相手は、サクラギという男であった。

赤髪が特徴的な若者で、10台後半に見えた。

その若さはつまり、努力のみならず才能で登ってきた事を証明していた。


しかし、それはシュウジも同じである。

彼は先住民でありながら、彼のズヴェーリはカムイではない。

カムイには基本的に、名前の最後にカムイが付く。


シャクシャインのトゥリーニルはトミカムイである。

ユジノハラで闘ったタロンジ、彼も先住民で彼のズヴェーリは、アッコロカムイであった。


つまりは強者と言われる者達は、この先住民とカムイの関係を利用しているのだ。

そしてそれこそが、このカラハット州が“闘獣”の強豪たらしめる正体であった。


シュウジと、この島から見れば外来種であるプラーミャ。

彼等は血も(にじ)む様な努力をしてきた。

彼等がここまで登ってこられたのは、才能と努力の結晶だった。



シュウジとサクラギはお互いの若さを知って、少しの間見詰め合っていた。

その位、この決勝戦に出場するのは手練れの年寄りばかりなのだ。

少しして、遂に闘いが始まった。

決勝戦の開幕である。


シュウジ「行け、プラーミャ!。

お前の速さを生かして、電光石火の一撃を浴びせるんだ!。」


サクラギ「プラーミャ、敵のプラーミャを倒すぞ!。

俺達ならやれる!。

俺達は、強い!。」



シュウジのプラーミャと、殆ど体格が同じであるサクラギのプラーミャ。

しかし…速さは同じではなかった。


シュウジ「プラーミャ!!。」


サクラギ「運動能力が強みなんだ、俺は!。」


シュウジのプラーミャは一撃を加えようとした矢先、それをフェイクで意表を突かれ、背後に回られると、逆に背中を引っ掛かれてしまった。

直ぐ様体を反らせて2度目の攻撃を交わしたとはいえ、シュウジのプラーミャは速さで負けた事に腹を立ててしまった。


シュウジ「落ち着いていこう、プラーミャ。

俺達は、ユジノハラ州予選を勝ち抜いて、ここまでやって来たんだ。


初戦から結果を残してきた俺達に、勝てる訳がねぇよな!。」


シュウジは彼のプラーミャに、今度はこちらが反撃しようと相手を挑発しようと伝えた。

サクラギのプラーミャは、それを予想出来ずに、完全にやり返された形となった。

しかも両手で引っ掛かれ、倍返しと来たサクラギは、怒りから彼のプラーミャにとにかく暴れさせるという暴挙に出た。


感情的に成ってとにかく暴れまくるサクラギのプラーミャに、シュウジのプラーミャは思いの(ほか)苦戦した。


全ての競技や格闘技に共通する事は、冷静に正確な一撃を加えられるか、という所である。

それは“闘獣”でも同じであり、当てずっぽうでも数撃ちゃ当たるという思考に(おちい)れば、最終的には敗れてしまうものなのである。


禁とされるそれを、カラハット州の決勝戦という大舞台でやる等、前代未聞(ぜんだいみもん)であった。

そう、サクラギは“闘獣”の素人(シロート)なのであった。

ただ彼のプラーミャと同じくして、その驚異的な学習能力と身体能力を活かして、短期間で決勝戦迄登り続けてしまったのである。



サクラギのプラーミャは炎の(かたまり)を撒き散らし、暴れていた。

シュウジのプラーミャが近づいて来ると分かると、すかさず爪を立てて来た。


まるで計画性を感じられない、本能で動いているかの様なその攻撃に、シュウジのプラーミャは闘い方を見失った。

頭を捻り知恵を(しぼ)るシュウジは、とある事を思い出した。

計画性がなく本能だけで動くズヴェーリ…。

過去に出会した事があった。


それは、防空壕の中での出来事である。

本能でよそ者を排除しようと、ズヴェーリが襲いかかってきた過去。

奴もまたその迷いのない速さで、プラーミャの小柄な体格でなければ危なかった。


シュウジはその経験から活路を見出だした。


シュウジ「あの時は奴を倒そうなんて考えては居なかった。

追い付かれてしまったから、とにかく足止めをしようとしただけだった。

そうだ…倒そうなんて考えなくて良いんだ。

俺はただ、奴を場外へ誘導できれば良いんだ!。


奴が本能で動いているのなら、挑発してから逃げ回れば良い。

それだけだ!。」



シュウジは、暴れる敵の(ふところ)に入り込むようにプラーミャに命令した。

身軽さを用いて、ギリギリ攻撃を当てられない所を動き回るシュウジのプラーミャに、サクラギのプラーミャは攻撃を当てられず更に感情的に成った。


幾度となく真っ赤な炎の玉が飛び交う舞台上。

そこには、体が触れる事のないギリギリの距離を保ちながら動き回る、2匹のプラーミャが居た。

体力勝負をしつつ、シュウジのプラーミャは相手をイラつかせる様に、当たりそうで当たらない距離を保ち続けた。

激情家のズヴェーリならば、ここで不貞腐れてしまう事もあるだろう。

しかし、サクラギのプラーミャは根性を見せた。

シュウジのプラーミャを追撃しだしたのである。


シュウジはこの時を待っていたのだった。

シュウジの言った逃げ回ればいい、この言葉から意を既に汲んでいた彼のプラーミャは、場外すれすれを逃げ回る。


必死に追撃し、敵を追う事に執着心を見せるサクラギのプラーミャ。

シュウジは、敵のプラーミャが完全に追いかけっこに夢中であり、何も疑ってはいない事を確信した。


シュウジ「プラーミャ、一瞬だけ足を遅めに!。

そして…!。」


足を遅めた彼のプラーミャは、後ろを追いかけるサクラギのプラーミャの手が届く距離であった。

目の前のプラーミャ目掛けて、手を伸ばし、飛び込んだサクラギのプラーミャ。


シュウジ「しゃがめ!。」


シュウジの言葉を聞いたサクラギは、シュウジの策に気が付いた。

しかし、時既に遅しであった。

トゥリーニルの命令通りにしゃがんだプラーミャ、そして直前放った炎の玉をかわされ、それに手を伸ばす形で、サクラギのプラーミャは場外へ落ちていったのだった。



審判はシュウジの勝利を告げた。

サクラギ舞台から離れて、後ろを向いていた。

サクラギには出資者の巨漢の男が居て、彼はサクラギの異変に気づいて近寄った。

そして彼は泣いているサクラギの頭に手をおいた。

闘いに敗れたにも関わらず、彼はサクラギを責めずに慰めの言葉をかけていたのだった。


そしてシュウジはそれを見て思った。

これこそが、“闘獣”の醍醐味(だいごみ)であると。

よく闘って決まる勝敗に、心を動かされる。

彼は本当は勝った喜びよりからはしゃぎたかった。

しかし、全身全霊の“闘獣”をしてくれたサクラギ。

気がつけば、彼をじっと見詰めてしまっていたのだった。

先ほど迄の勇姿とは打って変わって男泣きするその姿に、誰もが目を離せなくなっていた。


24話 終

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