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ズヴェーリ 英雄叙事詩   作者: 乘
第3章 青山戦争編
24/36

第23話 ユーリ

※元々『“闘獣”決勝戦』として投稿いたしましたが、変更しました。


今回は、説明が多めです。


※一部文言を付け足しました。

第23話


ユーリ



オタスの杜で先住民達の“英雄”ポンヤウンペに成る事を選んだシュウジは、最後に“闘獣”決勝戦に参加する事を許して貰った。

決勝戦で闘い、最後は3大トゥリーニルとなる事が確定している先住民に負ける様に言われていた彼は、そんな事を決めた大人達に失望した。

しかし、幼い10歳の少年にどうにか出来る事ではなく、彼はただ流されるだけであった。

ポンヤウンペとなった彼でも、既に決まった八百長の前には成す術はなかったのである。



オタスの杜で彼は、ポンヤウンペに成る為に必要であった能力を継承した。


シュウジ「継承って何を?。」


ユーリ「長老が持っている能力をです。

カムイと対話する能力が、長老にはあります。 」


シュウジは、長老にそんな能力があるのだとは知らなかった。


ユーリ(いわ)く、元はウィルタという先住民族の儀式に必要な祈祷帥(きとうし)の能力であったらしい。

ウィルタの最高神ボオに伺いを立てる役目が、ここオタスの杜で、“島外の者達”に恨みを持った先住民が混合しそれから、全ての生き物のカムイと対話出来る能力に成ったらしい。

この能力を継承する事で、ポンヤウンペは全てのカムイと対話し命令する事が出来る様になるらしかった。

そしてポンヤウンペとなれば、もう1つ新しいものが見える様になるらしい。


それは、先住民とカムイの間にのみ存在する輝きである。

それが何かは、先住民とカムイの歴史を知らなくてはならない。

13世紀頃に島にやって来たアイヌ民族は、この島に生息する固有種のズヴェーリ達や、一木一草の自然に対してカムイ(神様)として感謝し、祈りを捧げてきた。

特別な扱いをされるカムイ達は、世代を跨いで徐々にそれを理解していった。

似た服装をした、堀の深い顔立ちをしているこの人間達は、自分達に害のない存在であるのだと。


これでカムイとアイヌの両者間には、共生関係が芽生えた。

つまりこの両者の間には、他のズヴェーリと人間達の間には存在しない、千年近い変わる事のなかった共生関係の賜物(たまもの)である、特別な(きずな)があるのだった。



トラゾウは、先住民会に於いて純血の先住民しか知らない様な、長老=祈祷帥という事実を、純血ではないユーリが知っているのか不思議に思った。


それに対してユーリは、過去にシュウジ宅でヤスノスケが電話していたのを、盗み聞きした事があったのだと答えた。


ヤスノスケは相手をシアンレクと呼び、相手はヤスノスケをヤヨマネクフと呼んでいた。

どういう事かと疑問に思い聞き続けていると、2人の会話は長老曰く、シュウジがポンヤウンペの候補最有力であるとの内容だった。


ポンヤウンペという名前が出てきた事に驚いたユーリは、彼らの話す『少年である事』『特別な鎧である甲冑を身に付けている』との特徴を語っていたので、2人の会話は信用出来るのだと思った。

その流れで、彼は長老が祈祷帥であり、先住民会の象徴である事を知ったのだった。



この話を聞いてまだユーリの素性を知らないトラゾウは、何故ユーリが先住民の神話に登場するポンヤウンペや、その特徴を知っていたのだと疑問に思い、尋問(じんもん)する様に問い(ただ)した。


するとユーリは、自分の半生を静かに語り出した。



過去


ユーリ・スタローナエヴィチ・スクリーチン

彼は、14年前にアレクサンドロフスクカラハットスキー市内、貧困層が暮らす地域で生まれた。


父親は“北方系”の男で、彼は父親を戦争で失った事で統合失調症となり、戦後の混乱がまだ完全には治まり切らない時期に、1人の現地人の娼婦を(はら)ませた。

その娼婦というのが、ユーリの母である先住民の女性であった。


2人の間に生まれた子供に対し父親は、“北方系”の伝統的で良くある名前“ユーリ”と独断で命名、そのままВодка(ウォッカ)の飲み過ぎでアルコール依存症となり、DVを繰り返した後に蒸発した。


ユーリは母親の実家に帰ったが、立て続けに母方の祖父母が倒れた事で、幼い彼は田舎であるナチナ町の孤児院に預けられた。

6歳までそこで過ごし、孤児院の中ではアレク市という曲がりなりにも都会で過ごした微かな記憶を話す事で、周りに友達も増えていった。


になると里親に引き取られた事で友人達と無理やり引き離され、その経験から人間不信になり内向的な性格となってしまったのだった。


しかし、小学校に上がり10歳の時、当時1年生だったシュウジと図書館で出会い、今まで自分を気遣い優しく接してきた大人達や、同じ様な境遇で互いに()れ物に触る様な接し方をしていた、孤児院の友人達。

彼等とは全く異なる、失礼極まりないが本心だけで動くシュウジに、ユーリは心を直接揺さぶられる思いもしたのだった。

それからシュウジを通して、彼が彼の父親に教養として教わっていた、先住民に伝わる神話を学んでいった。

天地開闢(てんちかいびゃく)や“英雄叙事詩”を学ぶにつれ、更にもっと知りたいという好奇心に、彼は襲われた。

それからユジノハラ市にある図書館へ出向く様になり、引きこもりが解消していったのだった。

そこでカラハット州の近現代史を含め、お目当てであった神話に着いても学んでいった。


そんな時だった、彼は図書館の隅の方、(ほこり)を被った一冊の書籍を見つけた。

そこには、ポンヤウンペの名前があった。

その本に書かれていたポンヤウンペの特徴や物語を知り、強い少年に憧れを持った彼は、先住民の血を引く自分ならポンヤウンペに成れるのではないかと、夢を見たのだった。


そして、明らかに“南北系”ではないシュウジの顔から、彼が先住民であると推測した。

であるからして、神話を教養として教わるのだと。



11歳の時、初めてアイナと会った。

その時彼は、普段は年上ならば必ず敬語を使うにも(かか)わらず、明らかに年上であるアイナに敬語を使わなかった。

彼の中で、先住民の血を引き“英雄”ポンヤウンペに成れる者以外は、全て自分よりも下の人間だと見下していたのだった。

しかし、アイナに積極性を褒められて、彼女には心を開いたのだった。


同日、ヤスノスケが語る故郷の文化である『習字』から、彼の事を“南方系”だと勘違いしたユーリは、彼の嫡子(ちゃくし)であるシュウジも所詮は“南方系”の人間であると捉えると、彼の事を見下した様な態度が目立つ様に成っていく。


それまで彼はシュウジを先住民だと考えて、自分と同じ様にポンヤウンペに成れる人間だと考えていた為、年下だが敬意から敬語で話していた。

その流れから、突然敬語で話すのを辞めると不自然なので、敬語は継続しながら、態度が悪く成っていった。



しかし、12歳の時に彼の夢と切望する願いは、潰えるのであった。

ポンヤウンペの事に更に詳しくなりたかったユーリは、里親に生みの母親に会う事を了承して貰った。


そして彼は、先住民に口伝(くでん)されていた神話を聞いた。

そこで、ポンヤウンペに成れるのは純血だけだと知った。

夢を砕かれた少年を慰める者は、どこにも居なかった。


そんな時に“闘獣”州王者決定戦を視て、彼は自分にはこんな激しい闘いは出来ないと、内心悲観していた。

しかし、シャクシャインの闘いぶりには、感動し興奮していた。

そして彼はこう思う様になった。

『ポンヤウンペを支える人間に成りたい。』ズヴェーリに世界一詳しくなり“獣王”と成ってから、やがて現れるポンヤウンペを支えたいのだと。


そんな折りであった。

ヤスノスケからシュウジに勉強をおしえてあげて欲しいと頼まれ、彼の家を訪れた時。

ヤスノスケの電話を盗み聞いたのだった。


そこからのユーリは顕著であった。

ポンヤウンペになる可能性が最も高いと踏んで、“獣王”を育てようとしていたが、ポンヤウンペになる人間が、目の前に居たのだ。

彼は敬語でシュウジに接しながら、彼への態度を改めていったのだった。



現在


彼は自分の半生の全てを語った。

それは純血ではない先住民ではないが、ポンヤウンペへの思いは本物であるという証明であった。


シュウジは何故ユーリが自分に敬語なのか、ずっと疑問だったその理由を知れて、少しスッキリした気持ちになった。

そしてユーリは最後に、シュウジに向けてこう言った。


ユーリ「アイナは、僕がシュウジに敬語である理由を、僕がシュウジに恋をしているからだと、勘違いしてましたよ。

あの時は、妙に何かを見抜いた顔でアイナが話し掛けてきたので、本当に焦りました。」



ここでは彼は言わなかったが、彼はシュウジが旅に出たいと言い出した時に、すかさずアイナを誘った。

それは、彼女を犠牲者にする為である。

また彼はオゼロ・アインスコエ湖でアイナが雷に撃たれそうに成った時、イやシュウジには内緒で、眠るアイナを敢えて起こさない様にしたのだった。

しかし、その時は小屋が盾になり、失敗した。


2度目の落雷ではアイナが落雷に合ったものの、アイナが死んでしまう事を前提としていた為に、『死者は居なかった』と聞いて、動揺してしまったのだった。

彼のたった1人の戦いは終わって、これからは先住民会という仲間達が、彼の夢を支えてくれるのだ。

ポンヤウンペを支える為に、“獣王”に成るという夢をである。


ユーリ「シュウジ、これからは一緒に頑張っていきましょう。

“獣王”に成る、それが僕達の夢ですから!。」



シャクシャインは、準備が整ったと先住民達に告げた。

彼はシュウジを、儀式の祭壇の壇上に誘導した。

シュウジは階段をゆっくりと上がっていき、壇上に上がると全員を見下ろした。

緊張感から辺りをキョロキョロすると、壇上の回りには小さな松明(たいまつ)が炊かれていて、そこ側にはセワという名の、神様を(かたど)った人形があった。

これはオタスの杜でアイヌらと混合した、ウィルタの人形である。

更に、今は同じ1つの先住民である彼等らは、ウィルタの太鼓であるダーリを叩き出した。

鳥の絵が描かれたダーリを、一定の拍で叩き続ける。

それにあわせて祭壇横の長老は、徐々にその祈祷の声を大きくしだし、シュウジは緊張感と炎の熱さから来る疲労から、徐々に恍惚(こうこつ)としだした。

そして気がつけば彼は、気絶していたのだった…。



第23話 終

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