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ズヴェーリ 英雄叙事詩   作者: 乘
第3章 青山戦争編
23/36

第22話 選ばれた運命

今回は7000文字程度とかなり長めです。

序章位の長さです。

第22話


選ばれた運命



シュウジとユーリは、テロの混乱の後、ユーリの勧めでオタスの杜を訪れていた。

長老は、ユーリが困った時に助けてくれると言ってくれていて、二人は存分にそれに甘える事にしたのという経緯だった。


しかしシュウジの心は不安定であり、心を殺す様に忙しくしていなければ、ふとした時にアイナが頭にちらつき、不安に駆られてしまう状態だった。

長老宅に泊めて貰える事に成ったのだが、シュウジは大して長老と話をする事もなく、日がな1日、プラーミャと外出していた。


オタスの杜は老人等が多く住む田舎町で、住宅街や個人商店等しかない。

しかし、大きな川が近く、こういう場所こそ天災等で人が離れる時に不届き者が湧き出て来る場所なのであった。


そういう人達を見つけては、シュウジはプラーミャと共に闘い彼等を痛め付けた。

反省するただの不良も居たが、大概の大人達は諦めが悪く、逃げ出すまでにかなりの怪我を負わされる等していた。

シュウジは、少し狂暴になっていたのだ。


ユーリはそんな彼を遠目に見ていたが、止めはしなかった。


ユーリ「シュウジは強い。

彼なら…僕の夢を叶えてくれる筈だ…。

彼なら…“英雄”に成れる…。

僕の目に狂いはなかったんだ…。」



カイ市では連日、ニュースで青山地区の戦闘の模様が流れていた。

カイ市市民の皆が、正規軍による武士団の侵攻阻止に期待しているのである。


カイ市では、地震とテロに依る街の破壊で心に大きな衝撃を受けた。

しかし青山地区での連勝で希望を抱くと、その心は娯楽を求めだした。


市民A「あーあ、今年は“闘獣”の決勝は観られないのかなぁ。」


市民B「こんなご時世じゃ、開催されないよ。

でも、こんな時だからこそ観てみたい気持ちもあるよね。」


市民達はテロにより開催中止となっていた“闘獣”の決勝戦を求めていた。

そしてその声は開催委員会の耳にも入り、開催委員会は市の内外から出資者を募り、夏休みの終わり頃に待望の決勝戦が行われる事に成った。


シュウジはその知らせを聞き、出場権利を持つ彼は出場する事にした。


そんな事をしてる場合じゃないと止めるユーリに、シュウジは言った。


シュウジ「俺、今じっとしてらんないんだ。

アイナを思い出したら、不安になっておかしくなりそうだから…。

ユーリと長老には黙ってたけど、俺は街に出て悪い大人達を痛め付けてた。

アビーさんに自暴自棄になるなって言われたのに…。

俺が今すべき事は、ここで不安になる事でも自暴自棄になる事でもない!。

“闘獣”決勝戦に出場する事だ!。

だって、“獣王”になるのが夢だから…!。」


大会まで2日間、彼はプラーミャと共に練習に励むつもりであった…。

しかしその日の夜、長老から明日大事なお客人が来るから家に居てくれと言われてしまった。



翌日の朝、早くに目が覚めたシュウジは、カーテンの隙間から入り込む日差しに照らされた。


近くの台所からは、長老が朝ごはんを作ろうと野菜を切る音が聞こえた。

ザクン…ザクン。

包丁が野菜を切断し、まな板に当たるその音が、妙に心地良かった。

寝室を出て、長老におはようございますと一言。

挨拶を済ませて洗面所へ行き、そこで諸々を済ませたら、長老に許可を貰って近所を散歩した。


まだ誰もいない時間、プラーミャと二人でこの町を歩き回った。


何でもない坂道や、今は止まっている路面電車。

洋風の建物。

大して何もない街をただ歩いた。

近所の杜からは(せみ)の鳴き声が響き渡っているが、それもあと数日で終わる。

夏休みの終わりは、いつも寂しく憂鬱(ゆううつ)であったが、こんなにも憂鬱な夏休みも珍しいと彼は思った。

朝日も沈み出した頃、ユーリに見つかった。


ユーリ「こんな所に居たんですか?。

帰りましょう?。」


シュウジ「おう。」


ユーリ「1人でこんな遠くまで行こうなんて、本当に大きくなりましたね、シュウジ。」


シュウジ「…おう。」


そして帰宅すると、朝御飯があった。

それを3人で食べながら、シュウジは長老に話しかけた。

何故、ここまで自分達に親切にしてくれるのかと。


長老「私は長らく人々に、魔術師だと気味悪がられてきて、陰鬱(いんうつ)だった。

でも、ユーリ君は違ったの。

私や、私の愛するカムイ達に経緯を持っていて、多くの若者達が興味を持たない歴史というものに明るく、私の心を穏やかにしてくれたからだよ。」


自分が今、ここに居候(いそうろう)させて貰えているのがユーリのお陰だと知ったシュウジは、ユーリの存在にありがたさを覚えた。

そして同時に、いつも自分の側に一緒に居てくれてるのがユーリだと気が付き、自分の中で、ユーリが精神的支柱に成っている事に初めて気が付いた。

ユーリがただのひ弱なガリ勉ではなく、れっきとした大人であると感じたのだった。

シュウジは自分も子供のままではいけないと思って、ユーリの様な大人になる為にはどうすれば良いのか思案した。

そして彼は、ユーリの真似をする事にした。


シュウジ「長老、俺にも神話を教えて下さい。」


ユーリ「シュウジも神話は知っている筈では?。」


シュウジ「そうだけど、何でも良いからとにかく別の事をしていたいんだ。」


そういうシュウジに長老は、待っていたと言いたげな顔で、彼に神話を教え始めた。

神話とはつまり、“英雄叙事詩”をである。

そして長老はこの前のユーリに話したオキクルミの下りの後、オキクルミの双子の弟である、ポンヤウンペについても語った。


長老は語り終えた後に、神話とは何かを教えてくれた。

神話とは、抗えない自然や人間等の驚異に対抗する為、先人達が残した知恵なのだと言ったのだ。

つまり言い方を変えれば、神話は中のお話は後世にも必ず起こる事を、警告しているのだと。


この“英雄叙事詩”も例外ではなく、(いわ)くオキクルミはアイヌ民族のカムイを(たた)える創作であり、ポンヤウンペがその、警告というものであるらしかった。


オキクルミ関してはオキクルミとはそもそも、この島にしか存在しないカムイである。

その希少な種類のカムイという現実に、作り話を付け加え事で自分達の歴史を壮大なものにしているのだと長老は語る。

そして本当に伝えたい部分は、ポンヤウンペの物語であるらしくその内容は、オキクルミに比べれば非常に壮大さに欠ける物語であった。


ポンヤウンペはある時に美人の許嫁(いいなずけ)が、父親である、空を高速で翔ける蛇のカムイ、カンナカムイにちょっかいを出されていた。

それを見ていたポンヤウンペは怒り、カンナカムイと対決した。

そして、カンナカムイは負けて自分の居城まで帰っていったという。

長老は、この手の話は現実に置き換える読解力が必要だと言って、それを解説し出した。


長老「許嫁とは最愛の女性を指し、それがカンナカムイに襲われ命を失うが、ポンヤウンペは敵討ちをするという風に私は解釈している。


空を高速で翔ける蛇のカムイ

それはつまり細く一瞬しか姿を現さない、雷の事を指すのだよ。

カムイはこの国で一般的にズヴェーリと呼ばれる生き物の他に、自分達の暮らしに直接恵みをもたらしてくれる海や、一木一草の自然、その全てが含まれている。

また人の手ではどうにもならない雷等の気象も、同様に扱われてきたのだよ。

生き物であろうが自然であろうが、その全てがカムイなのだよ。


…話が逸れたね。

カンナカムイは元は雷の事を指すが、この話では雷の様に人の手ではどうにもならない不幸を指すと考えている。

そう、8月11日のテロだ。

そのテロに依って、ポンヤウンペは許嫁に当たる最愛の女性を失い、テロリストと戦う事になるのだろうね。

私はそう考えていた…。

しかし違ったね。

カンナカムイが直接襲いに来た。」


1人で話続ける長老が、シュウジには不気味で陰険な人に思えた。

しかしそんな不信感をよそに、長老は話を続けた。


長老「ポンヤウンペの特徴なんだがね…。

それほど大きくない少年でね、ハクヨペと呼ばれるアイヌの伝統的な鎧とは異なる、特別な鎧を着用しているんだよ。

性格は大胆不敵で、それでいて許嫁を守ろうとする所に、人を思いやる心があるんだよ。」


長老が妙に鋭い視線で、シュウジを見つめていた。

彼はその事に気を取られていて、長老の言葉の真意を理解できていなかった。

何も言わずきょとんとしているシュウジに、ユーリは言った。


ユーリ「ポンヤウンペは、まるでシュウジの様ですね。

特別な鎧である“甲冑”を身に着けている少年。

そして、防空壕の中でズヴェーリと闘う大胆不敵さに、アイノネの事を思いやる心がありますから。」



シュウジは、ユーリの言葉を冗談だと思って笑い飛ばした。

相変わらず、冗談が面白くないガリ勉だなと。

しかし彼を見つめる二人の目からは、冗談ではない本気の視線が向けられていた。


この目を、前に誰かに向けられた事がある。

それも、1人ではない…。

動揺する心では、その誰かを思い出す事が出来なかった。

そんな時だった。

お客人がやって来たのである。


長老「よくおいでなさったね。」


シャクシャイン「失礼しますぞ、長老。」


シュウジは思い出した。

自分にさっきの目を向けていたのは、シャクシャインであったのだ。


シャクシャイン「アイノネが我が家で言っていたアイナちゃん。

彼女の冥福をお祈りするぞ、シュウジ君。

いや、ポンヤウンペよ…。

そして感謝しよう、君のお陰で私の計画を叶える事が出来る。」



シャクシャインの言う計画とは、それはかなり残酷なものであった。


計画は3段階に別れており、第一段階がズヴェーリ研究所のヤヨマネクフの協力でキムンカムイを秘密裏に捕獲し、それを当時から青山地区でデモ活動が煽動する等して、州自治体と対立していた当時のNIsカンパニーに掴ませる事だった。


彼等はこのズヴェーリによる地震を、必ずや対州自治体の切り札にするだろうと予測し、ここは読み通りとなったのだった。


計画の第2段階。

それがポンヤウンペの協力であった。

ポンヤウンペは実在し、全ての生き物であるカムイを操れる唯一の“人間”であり、この存在があれば全てのカムイを味方につけられ、勝率が上がるという事であった。


何の勝率なのか…。

その答えが第3段階、先住民会の集団蜂起であった。

先住民達に依る対州自治体の蜂起であり、今行われている武士団対州自治体の戦闘は、両勢力を弱体化させる為の戦いでありその後に漁夫(ぎょふ)の利を得る事が、本来の目的であったらしい。



ここで再び扉がノックされ、もう1人の客人が入ってきた。

それはトラゾウであった。


トラゾウ「お待たせしました長老、シャクシャインさん。

どこまで話されましたかな?。」


シャクシャイン「丁度、計画を話した所だシアンレクよ。」


トラゾウ「その先住民の名前じゃ、私の事なのかどうか、ユーリ君やポンヤウンペにつたわりませんよ。」



ユーリは、トラゾウが先住民である事に驚いた。

エガ・トラゾウという名前が、どう考えても先住民ではなく、“南方の帝国”風の名前であったからだ。

しかしシュウジを思い出せば、なんら不思議な事はなかった。

何故なら、彼もまたヤマベ・シュウジという“南方の帝国”風の名前でありながら、ポンヤウンペであるからだ。


カムイの子供とされている為、純血の先住民の子供でしか成る事は出来ないポンヤウンペ。

先住民は戦後に混血化が進み、純血の先住民そのものが少なく、だからこそその希少性からポンヤウンペを探し出す事が容易だったのだ。



そんな風に感心していたユーリの横でシュウジは怒り心頭であった。


シュウジ「シャクシャインさん、あんたおかしいよ。

地震を起こさせた?。

あのキムンカムイだって俺の目の前で人を殺していたし、その地震のせいで、どれだけの人が死んだと思ってるんだ?。

それに、地震から始めてテロを起こそうっていうNIsの考えは、上手くいかなかった。

でも、テロの前に切り札として地震を起こそうって考えがあったから、テロが起きたんだ!。

つまり、あんたがテロを起こしたんだ!。」


シャクシャイン「そうだが?。

仕方ないだろう。」


シュウジ「何が仕方ないだろうだ…!。

頭おかしいよ…あれだけ悲惨な光景を目の前で見といて、それでまた再現しようってのかよ…!。」


シャクシャイン「仕方ないだろう、シュウジよ。

被害にあった人間達は、自業自得だ。

この島の悲しい歴史を何も学ぼうとせず、ただ都会に吸い寄せられて来た烏合(うごう)の衆じゃないか。

何も知らず、何も考慮せず、ただ目の前の享楽や仕事だけにしか興味を持てなかった者達が、自分達の居る島の環境を知らず、それに飲み込まれるんだ。

つまりは学ぼうとしなかった代償、自分で選択し訪れた運命だ。」


シュウジ「訳分んねぇよ…。

“北方系”のチェリミンスカヤさんを汚いとか言ってた癖に、あんたの方がよっぽど汚ねぇよ!!。」


シャクシャイン「シュウジよ。

人は自分の生まれに縛られるものだ。

(わし)は、アイヌの子として生まれた。

アイヌの両親に似た姿形をしていて、伝統装束を見に(まと)い、そしてカムイを信じてその恵みに感謝し生きてきた。

しかし“島外の者達”はその全てを否定したのだ…。

だからこそ、その悲しみを背負った他の先住民の異民族達とも、我々はオタスの杜で混合したのだ。

報いを受けるのは、自業自得なのだよ…。」


シュウジ「だからって…。」


トラゾウ「シュウジ君。

シャクシャインさんの言う通り、人は生まれに縛られるものだよ。

人を縛る生まれというものはそれが能力や容姿、価値観を半分決めている。

つまりは人生の半分を決めていると言っても、過言ではないんだ。

生まれた家の地位や、家庭の財力等の程度に合わせて、育つ環境も決まる。

そうすれば、(おの)ずと親や育った故郷(まち)に居た人達と似た考えや道徳観を持ち、似た選択をする。

そして気がつけば、似た人生を歩んでいるものだ…。


私は私の先住民という生まれに伴って得た特権で、3大トゥリーニルの地位に甘んじている。

勿論、努力しなかったらここまで来られなかったから、運だけでここまで来たわけではない。

だが、生まれの運は大きかったろう。


しかし私はこう思う。

このまま、甘んじては居られないのだと…。

私は…自分を変えたくば今の自分を作った環境を変えて、目指す世界に生きる人々から、選択の仕方を学ぶしかないのだと。

前の自分と同じ状況に置かれた時、違う選択が出来る新しい人格を創り上げる気持ちでだ。


先住民は争い事は神話の世界にしかなく、“戦争”という言葉がない。

そんな平和な民族なのだ。

そして私はこの島を“大国”から取り返し、先住民の為のカラハット島にしたい。

その為には、恵みを与えてくれるカムイに感謝する原始的な暮らしではなく、この“大国”のやり方を真似て、貪欲(どんよく)に戦いを行わなくてはならないと思っている。

再び、先住民の為の島を手に入れる為に。

その為に、“戦争”という言葉が生まれない程に、争いをしなかった先住民の在り方を捨てる必要があるのだ。


その頃には、先住民が裏で優遇される決まりの大会ではなく、先住民のみが参加する大会で、アイノネは実力を発揮して、3大トゥリーニルと成ってくれるだろう。


そしてリクも、実力で勝ち上がったアイノネという、リク自身が遺した努力の結晶を誇りに思うだろう。」



リクが死んだ事でさえ、仕方ないと言わんばかりのトラゾウに、シュウジは泣きながら問い掛けた。

リクの死が悲しくないのかと…。


するとトラゾウは答えた。

それが彼の運であったと。

目的を果たす時に生じた犠牲であり、決して無駄ではなかったと。



シャクシャイン「シュウジよ、お前は何故、旅に出る選択をした?。

…ズヴェーリ研究所のヤヨマネクフから聞いたが、君は“獣王”になる為に旅に出て、闘っているんだろう?。

“闘獣”の3大トゥリーニルや王者の実態を知った今、純粋に“闘獣”で結果を残して“獣王”に成りたいとまだ思っているのか?。」


シュウジ「そ、それは…。」


ユーリ「シュウジ、“獣王”になれる条件を覚えていますか?。

ズヴェーリを使って、人類に多大な貢献したり感動を与えた者に、その称号は与えられるんです。

ズヴェーリを思いのままに操つって、テロリストである武士団や未だ差別が残るこの世界で、多数派であるが故に堂々として、声をあげられなかった先住民達を見下し続ける忌々(いまいま)しい侵略者を、島から追い出すんです。

そしたら、世界は必ずシュウジの姿に感動して、シュウジは“獣王”になれる筈です!。」


憧れであったシャクシャインと、精神的支柱のユーリに説得され心がやつれきったシュウジに、トラゾウが最後の釘を刺した。

その目を見てシュウジは思い出した。

自分をさっきのユーリ達と同じ目で見ていた人を。

そしてトラゾウはその時と同じ目で、同じ事を尋ねてきた。


トラゾウ「シュウジ君。

ここに居る人達は、自分で自分の行動を決めた人達だよ。

私はあの日、君も無関係ではないと告げた筈だ。

シュウジ君、君は何の為に戦うんだい?。」



彼らの求める答えはただ1つ、英雄ポンヤウンペとして、先住民の為に戦う。

しかし、幼い少年にはその言葉を言える勇気も、否定する勇気もなかった。


そんな時、最後の客人がやって来た。


長老「よく来なさったね。

ヤヨマネクフ。」


ヤスノスケ「はい、長老。

…シュウジ、会いたかったぞ。」


ヤマベ・ヤスノスケ、その先住民としての名前がヤヨマネクフであった。

ヤスノスケは、大人達に囲まれ説得される恐怖と疲労から、涙を我慢しきれなかった息子を抱き締めた。

背中を叩くとシュウジは泣き出した。

しかしすぐに泣き止む息子を見て、彼は自分の息子の成長をその肌で感じたのだった。


シュウジ「なぁお父さん、1つ聞きたい事がある。

あの日、“旅立ちの日に”俺に言ったカイ市には行って欲しくないって言葉。

あれは、キムンカムイの地震やテロを知っていたからなの?。」


ヤスノスケ「あぁそうだ。

あの時はお前はポンヤウンペの候補の1人に過ぎなかったから、死んでしまうかも知れないと思ったんだ。

あの時のお前は、甲冑を身に付けていなかった。

父さんが、取り上げてしまったからだ。


だがお前は父さんの居ない所で、甲冑をまた身に着けた。」


シュウジ「それじゃあ、オキクルミの件も、ただカイ市で被災しない様にテキトーに思い付いた琴だったの?。」


ヤスノスケ「あぁそうだ。

オキクルミは世界的な関心があるズヴェーリだが、取り分け今シュシュ湖に行く必要はなかった。

とにかく、お前に無事で居て欲しかったんだ。」


シュウジ「そっか…。

お父さん。

俺がポンヤウンペに成ったら嬉しい?。」


ヤスノスケ「あぁ。

“英雄”ポンヤウンペの父親に成れるなら、そしてお前が夢を叶えられるのなら…。」



その言葉を聞いて、シュウジは腹を(くく)った。


シュウジ「俺、ポンヤウンペに成る。」



第22話 終

オキクルミやポンヤウンペは、アイヌ民族の神話であるカムイユーカラ『※カラハット島のモデルである樺太(からふと)島ではハウキ』の英雄叙事詩に実際に登場するカムイです。

しかし、この2柱は兄弟としてではなく、全く別の人物であったり、あるいは同一人物の別称として登場したりします。

なので、兄弟の設定は創作です。


ポンヤウンペの物語は、作者がインターネットで読んだ記事から一部引用しています。

ですがその語り手の名前等の情報を忘れてしまったので、悪しからず。

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