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ズヴェーリ 英雄叙事詩   作者: 乘
第3章 青山戦争編
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第19話 帰省

第19話


帰省



アレクサンドロフスクカラハットスキー市を出発し、アナトリーはもうすぐグローム市に到着する。

そんな時、彼は遠くから北上し、こちらに近付く何かに気が付いた。


ズヴェーリの群れに見えるそれに、乗客の少女は喜んでいた。

車内の呑気(のんき)で平和的な空気は、とある乗客の一言で壊れた。


乗客A「ちがう、あれはカラハット武士団だ!。

(にしき)御旗(みはた)を掲げている、大軍勢の武士団だぁぁ!!。」


乗客B「武士団という事は、もう(いくさ)は始まっているのか!?。

我々の境遇を正してくれる、正義の戦を始めてくれたのだ!。」


乗客は狂信的に万歳と叫びだし、アナトリーには不気味な光景に思えた。


時間が経ち、電車はグローム市に到着した。

すると、同じ様にグローム市にやって来たさっきの狂信者達に対し、市民は怒り心頭(しんとう)であった。


グローム市民「おいおいアレク市の皆様方よ、どの面下げてこの街に来やがったんだ?。

とっとと帰れよ狂信者共!。」


怒れる市民はアレクサンドロフスクカラハットスキー市から来た狂信者を、感情に任せて暴行し追い出した。


しかしアナトリーはそんなものを見ても、慣れた顔をして居た。

グローム市とは、そういう街だからである。

そこから彼は徒歩で生家があるグローム町へ向かった。

家への帰路(きろ)に就き、見慣れたくすんだ町並み、離れてみて初めて懐かしく心に響いてくる、何でもない町を歩く。

やがて現れた生家の入り口に立ち、開かれた扉から顔を出した叔父と対面する。


アナトリー「ただいま。」


叔父「お帰りなさい。」



叔父はアナトリーの親代わりの人物であった。

その叔父と食卓を囲み、彼はアレク市の話や、そこからグローム町に来る迄の間に起きた出来事を話した。


武士団の軍勢に歓喜した乗客、そしてそれに対して怒りを(あらわ)にしたグローム市民の話である。


すると叔父は教えてくれた。

彼等アレク市の人々は、アナトリーが単身でカイ市へ引っ越しをした後に、NIsカンパニーのNo2の男が実権を握りそこから洗脳されたのだった。


洗脳の手段というのが、アレク市を中心に青山地区内とカイ市での賃金や労働環境の是正を訴えるデモであった。

カイ市の州自治体に聞こえる様に、当時既に存在が大企業となっていたNIsカンパニーが資金援助をし、全ての活動費用や宣伝費を負担し、かなり高額な援助を行ったのだった。


そもそもNIsとアレク市を中心とした青山地区の繋がりを見れば、戦後ただのド田舎であった青山地区に20年程経って大企業に成長したNIsが、当時世界有数の経済都市となっていたカイ市からアレク市に本社を移動し、州自治体の方針である青山の観光地化の事業を一手に担った所から始まる。


青山は戦時中に“北方の大国”が支配していた地域で、戦後にカイ市と名を改めた“南方の帝国”領であった敷香、大国の言い方でポロナイスクと呼ばれていたという街。

そこを経済都市に昇華(しょうか)させ、そこに金持ちのブルジョワ達が引っ越しし定住していく中に、そうできなかった貧乏人達が青山に取り残されていく事となった。


そしてそれが20年余り続いた後、NIsは青山へやって来て、廃れた青山の民衆に職を与えて間接的に治安を回復、同地区の発展に貢献(こうけん)したのであった。


それから更に20年程度経過し、青山地区の民衆は世代を越えて基本的にはNIsカンパニーに感謝している。

それが本社所在地のアレク市では顕著であり、街との繋がりが強くなり過ぎていってしまっていた。

そこに、数年前に創業者のキノシタがアルツハイマー型認知症を患い、お飾りとなってからは当時No2だった丸刈りの男が実権を握りだし、そこからデモの実質的な斡旋を行い青山地区の人々はNIsカンパニーに心酔していった。


しかし、その後だった。

彼等はやり過ぎたのだった。

作業員達を立派な武士とする為に、企業が秘密裏に軍事的な訓練を執り行う様になったのであった。

その理由、それは青山地区の民衆には同地区の賃金や労働環境の是正を求めるデモが認められなかった時、武力行使を(いと)わないという姿勢を見せつける為だけだとしていた。


しかし、それは特に彼等の影響力の強いアレク市では洗脳状態にする事が出来たが、それ以外の地域では、逆に企業を懐疑視(かいぎし)する民衆を増やす事になったのだった。

最早、アレク市以外の地域ではNIsカンパニーとアレク市民は異常者であり、今回のテロを見るとただの犯罪者と成り下がっていたのだった。

その結果が、アナトリーの見たアレク市の狂信者達であり、それに怒りを露にしたグローム市民なのであった。



叔父「なぁアナトリー、お前の見た武士団の軍勢は北上していたと言ったな?。

それってもしや、最も近い南下を諦めて、神威の森を抜けてワール市からカイ市へ向かう事にしたのではないのか?。」


アナトリー「何で南下を諦めるんだ?。」


叔父「お前、ニュースを見てないのか?。

数分前からずっと、チロット市で正規軍が武士団の“1部隊”を撃破したと報道している。」


アナトリー「そうだったのか…本当に、戦争が始まってるのか…。

神威の森を抜けるとしたら、それに一番近いこのグローム市を必ず()りに来る!。

逃げよう、叔父さん!。」



一方正規軍ヤナ連隊も、数騎放っていた斥候(せっこう)に依り敵である武士団の本隊が北上している事を確認していた。


ラインホルト「斥候の情報を元にここから一気に北上、敵より先に、中核市コタンコロ市を獲るべきです。」


ヤナ「しかし、それではシュシュ湖を守る兵士と連携が取れなくなる!。

敵が数人で南下してきて、オキクルミだけをわざわざ襲いに来ないとも限らんぞ!?。」


ルーカス「とはいえ、それもたかが数人での話。

こちらが連隊長を含500程度の部隊を残して行けば、問題はありませんでしょう?。

残る2千数百名の全部隊で、コタンコロに進軍しましょう。」


ヤナ「なるほど…。

現在、青山地区内の広範囲に及ぶ偵察を斥候に行わせている。

それにより安全が確保されれば、私もすぐに合流しよう。」



そうしてルーカス・ラインホルト両大隊は北上、コタンコロに駐屯した。


そして布陣をし終えた時、北から迫る行列があった。

それは、グローム市の避難民の列であった。

彼等は武士団を避けてとにかく南に逃げようとして、コタンコロまで下りてきたのであった。

車両の列を迎え入れた正規軍は、彼等に非常な現実を告げた。

それは、北上する武士団の1部がこのコタンコロ市に向かっているというものであった。

そして、すぐそこに迫っている為、余計な混乱を避ける為にこの街から避難民を逃がす事は出来ないというものであった。


そこで兵士は、チロット市での戦いを見せ付けた。

写真には、武器を捨てた兵士を虐殺するコウサカらの姿が写し出されていた。

こうして“テロリスト”カラハット武士団への憎悪を煽った。

すると、元々武士団にテロリストという認識を持っていた避難民の1部は、同胞を殺した復讐心と正義感から意を決して民兵(みんぺい)となる事を望んだ。


アナトリーも同様であった。

ここに居ても金に困る為、給料が出る民兵に成ろうと。

そして、子供の頃に彼等に対して覚えた鬱憤(うっぷん)を、ここで晴らそうと決めたのである。



ドレイクの頭の中にある作戦、戦闘の流れを作戦会議に赴くルーカス大隊長に報告。

そしてそれはルーカスを通してヤナに採択され、そのまま実行される事となった。


民兵達には、街で買収したウンマを乗りこなす訓練のみが行われた。

そして北西の方角より近付く敵影を確認し、コタンコロ付近で交戦状態に陥った。



19話 終

モデルにしている国の時代背景等とは全く無関係な完全なる創作です。


コタンコロとは、先住民であるアイヌ民族の言葉で、地上を司るカムイ(神)を意味します。

そんな名前の街は実在しませんので、コタンコロ市は創作です。

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