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ズヴェーリ 英雄叙事詩   作者: 乘
第1章 幼馴染み編
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第1話 旅立ちの日に

第1話


旅立ちの日に



3人は当日の明朝、懐かしの公園に立ち寄って話していた。

夏休みの期間中に行われる“闘獣”州予選に参加する為に旅に出るので、(しばら)くはここにも戻って来られないからだ。

というのも、この国の夏休みは6月から9月1日までの3ヶ月間あり、この日はまだ7月の半ばである為、あと1ヶ月半は残っていたのであった。

高台にある公園で、ここにある2つ並んだブランコでよく遊んだ思い出があった。

夏以外は雪が降るか、そうでなくても常に寒いこのカラハット州でも、子供達は元気に風を切って遊んでいた。

話の内容は、生中継を視た日にユーリが覚醒したというものだった。



日が登ると、3人はズヴェーリ研究所に向かった。

この研究所は田舎町にあるが、ここにしか居ないズヴェーリを研究する国営施設であり、非常に権威のある所であった。

そして研究所に向かったのには訳があった。

アイナの父親が勤務していたのだ。

年頃のアイナは反抗期で父親に旅の事を告げておらず、ユーリとシュウジが代わりに報告に行こうとしていたのだった。


アイナ「ねぇ、本当に行かなくちゃダメかしら?。

ママには言ったし、置き手紙もしてきたからそれを読んでくれれば…。

直接言わずとも伝わると思うんだけど。」


ユーリ「直接言わないと心配しますから、僕達が伝えてきますよ。

しょうがないから、アイナは外で待っていて下さい。」

研究所に入ったシュウジとユーリの二人は、受付でアイナの父親を呼んで貰おうとした。


ユーリ「すみません、人を呼んで貰いたいのですが。」


受付「分かりました。

おや、そこに居るのはシュウジ君ね?。

分かったわ、お父さんのヤマベさんを呼んで欲しいのね!。」

実は、シュウジの父親もここに勤務していた。


ユーリ「あ、いえ!。

父親は父親でもアイナの父親、マミヤさんを呼んで欲しいんです!。」


受付「あら、そうなの。

分かったわ、待合室で待っていて頂戴。

ついでにヤマベさんも呼んでおくわ!。」


ユーリ「あ、あぁ…。

お気遣い感謝します…。」

二人は待合室で椅子に座っていた。

すると、ドアを叩く音が聞こえてドアが開いた。


シュウジ「何だ、お父さんか。」


ユーリ「おはようございますヤスノスケさん。」


ヤスノスケ「おや、俺だけか。

どうしたんだ、旅行に行くんじゃなかったのか?。」

彼はヤマベ・ヤスノスケ(山辺安之助)

ズヴェーリ研究所の副所長で、シュウジの父親。

堅実で優しく、研究所中から尊敬と親しみを与えられている。

中肉中背でシュウジと同じく堀の深い顔をしている。


シュウジ「お父さん、旅行じゃなくて旅だよ。

この2つには絶対に越えられないカッコ良さの壁があるんだからね!。」


ヤスノスケ「そ、そうか…。

あぁそうだユーリ君。

旅行…じゃなくて旅の計画を教えて欲しい。

夏休みの期間中に州予選に出るのであれば、ここから北に向かったらすぐの旧都ユジノハラ市に行くのだろう?。

そしたら帰って来るのかい?。」


ユーリ「いえ、ユジノハラの様な近場だけでは満足せず更に北に行って州都カイ市まで行きます。

シュウジには、そこまで勝ち進める能力がありますから。」


ヤスノスケ「カイ市に(まで)行くのか…。

本当は行って欲しくはないんだがな…。」


シュウジ「どうして?。」


ヤスノスケ「う"っう"ん。

そうかその計画なら、任せられそうだな。

シュウジ、ユーリ君。

そしてここには居ないが、勿論アイナちゃんにもだが。

君達には、カラハット島の西側にあるシュシュ湖に行ってオキクルミの現状を報告して貰いたい。

シュシュ湖は、青山(せいざん)地区の入り口の一つだ。

カイ市からなら電車で一本で行ける(はず)だ。」


ユーリ「オキクルミって…世界に一匹しか居ないあの絶滅危惧種の事ですよね…?。」


ヤスノスケ「そうだ。

シュウジの能力があれば、必ずカイ市まで勝ち進んで行ける。

それなら、カイ市に(おもむ)き、1日だけ使ってシュシュ湖へ行く事も可能だろう?。

報告というのも、君達が持つスマホで撮影してくれれば良いだけなんだ。

どうだろうか、頼まれてはくれないだろうか?。」


シュウジ「別に良いよ。

このお父さんに、俺にスマホを買い与えた事を後悔させない様に、少しは役に立つ所を見せないとだし!。」

シュウジは少し前にスマホを買って欲しいと両親におねだりした。

当然、当初はまだ早いからと両親から言われていたが、その場で泣き(わめ)き、そしてスマホは勉強の為だと寝ている両親の耳元で(ささや)く等して、最近ようやく買って貰ったのだった。


ある日、父親から小さな箱を貰ったシュウジは、何か分からず中身をごそごそと取り出してみると、中にはスマホが入っていた。

欲しかったスマホが手に入った事で彼の頭の中は、一日中自由に遊び回ってからご飯をたらふく食べ、また好きなだけお菓子を(たしな)んだ上で暖かい布団に包まれて眠った時と同じ様な、何にも変えがたい幸福感を覚えた。

しかし、手に入れたスマホで彼は勉強を余りせず、主にゲームやSNS、動画視聴に費やしていた為に、旅から帰った後に没収(ぼっしゅう)される事になっていた。


ユーリ「オキクルミの現状を報告するのは良いですけど、どうして僕達なんですか?。

研究所の職員の方が適任な気がしますが?。」


ヤスノスケ「そ、それはだな…。

さ、最近、カイ市周辺で地震が頻発しているだろう?。

それには、ズヴェーリが関わっている可能性があるんだ!。

だから、その調査で人手が足りていないんだ。

だから、君達にお願いしたい。」


シュウジ「ズヴェーリが地震に関わってるって…ズヴェーリはそんな事も出来るんだ。

だから父さんは最近、よくカイ市に出張してたんだね。」


ヤスノスケ「そ、そういう事だ!。」


シュウジは内心、父親がどうしてここまで取り乱しているのかが分からなかった。

何はともあれ二人はヤスノスケの用件を引き受け、その後にやって来たアイナの父親に話をつけた。


そして3人は、ようやく故郷ナチナ町から足を踏み出したのだった。



第1話 終

シュシュ湖は架空の湖です。


ナチナ町も架空の町です。


山辺安之助は実在の人物をモデルにしています。

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