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ズヴェーリ 英雄叙事詩   作者: 乘
第3章 青山戦争編
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第18話 チロット市攻防戦

第18話


チロット市攻防戦



チロット市とアレクサンドロフスクカラハットスキー市の直線距離は30kmていどである。

正規軍先鋒のジェル分隊は出発から13km行軍してたのだが、その2km先に武士団は居たのだった。


つまり会敵(かいてき)した地点は比較的チロット市寄りであり、単純に考えれば武士団が先に進軍を開始したという事になる。

更に敵は数も多く進軍速度は正規軍よりも遅い為、その分速くに進撃していた事になる。


つまり、ヤナ連隊は既に存在がバレていたのだった。


そのまま進軍して衝突せずに、チロット市へ後退したのは正解であった。

その場で衝突していれば数の差から単純に正規軍兵士1人辺りが相手にする武士団の武士の数は3人であり、不利である。

それに、外には野生のズヴェーリの驚異もある。


チロット市という街に籠り武士団を街の中に入れない様にする事で、自分達は野生のズヴェーリを相手にせずとも良いが、武士団は野生のズヴェーリの相手をせねばならないので、正規軍兵士が相手にする武士の数が減るのである。


しかもそれだけではなく、チロット市は青山地区の最南端にある街なので、先の大戦時に“北方の大国”の前線基地の1つであり、街は防壁に囲まれた城郭都市(じょうかくとし)であった。


青山地区の野生のズヴェーリは危険な存在であり、対ズヴェーリという形で防壁は残っているのであった。


ドレイク「この城壁があれば、武士達は入ってこれない。

つまり、我々は攻め放題だ。

城攻めには敵の3倍の兵力を有する必要がある下の下の策。

士官学校を主席卒業したダーイナイプトンニーニ小尉から、アレコレ教わっていて正解だったな。」



撤退こそは上手く行き損害こそ出なかったが、ヤナ連隊は迫る武士団に当初の作戦を変更する時間も奪われ、完全に出鼻を(くじ)かれる形となった。



最も武士団が多く布陣している北側にラインホルト大隊、そして敵の侵攻が予想される西側にルーカス大隊が配置された。


高さ30m厚さ5mの壁に並んだ兵士達とその兵器用ズヴェーリは、ドレイクの命令で一斉に火を噴いた。


上から狙われて手も足も出ない武士達は大勢が焼き払われ、燃え広がる大地の上に倒れていった。



武士団の将校となっていたタケダは、先手を打たれても慌てず、ドンと構えていた。


タケダ「私は部下を信用している。

共に寝食を共にして四六時中、酸いも甘いも共に味わった来た。

私が作業の合間に鍛練してきた猛者(もさ)達だ、慌てる必要はない。」


コウサカ「流石は元南側作業隊総責任者ですね。」


彼はコウサカ(高坂/香坂)

タケダの副将で、元作業隊副監督であった。

身長154cmで、シワもなく美少年の様に見える。

30代。


サナダ「コウサカ、しっかりとタケダさんを守ってくれよ。」


コウサカ「任せてよ、サナダ君。」



武士団に取って、損害は軽微(けいび)であった。

武士達は武人の誇りを叩き込まれており、その精神力と命令の忠実さは何処の軍隊よりも強かった。

その為、目の前に重なる味方の死体に恐れず、勇敢にウンマに(また)がり駆けていった。


それはまるで重力に引かれる水、砂糖に群がる蟻の様だった。



ジェル「我々も弓兵(きゅうへい)部隊に(なら)え、ウンマに跨がってないで、炎を吐き続けろ!。」



弓兵とは、古代の人類がズヴェーリと分かち合い自身の手駒とするよりも前の時代に用いていた、木材をしならせて尖った棒を飛ばすという非効率な遠距離武器である。

それに(ちな)み、遠距離攻撃に特化したズヴェーリによる遠距離攻撃部隊の事を、弓兵部隊と呼ぶのである。


ジノヴィ「武士団の連中め、空から攻撃を加えているではないか!。

リディア空戦(くうせん)分隊、出撃せよ!。」


リディア「了解、小隊長。

今回は、同小隊内でいつも負けてるジェル分隊より、活躍してやろうじゃないの。」



彼女はリディア・ウラジーミロヴナ・リトヴァク曹長。(Лидия Врадимировна Литвак)(白百合)。

リディア分隊の分隊長。

生まれながらの飛行ズヴェーリ乗りと言われる程、空戦に於いては突出した戦闘技術を持つ。

身長153cmで、色白の肌と小顔に筋の通った小鼻という、妖精の様な顔立ちである。

茶色いカールのショートヘアが特徴的。

白百合の異名を持つ。



空戦は飛行型のズヴェーリに体を固定して撃ち合いをする、文字通り空の戦いである。

騎兵と同じ様に(くつわ)に跨がるが、体を固定したり耐G装備を着用したりと、かなり用意の必要な戦闘体制。

外からは見れば相当機械仕掛けに見えるので、ズヴェーリとそれに指示をする兵士で、1機と数える。



天空を見上げると、晴天の霹靂(へきれき)の中で飛び回り、殺し合いをしている人々が居た。

敗れた者は血を拭きだし、炎に包まれながら、容赦なく地上に叩きつけられる。

雲の中にさえ入るこの空という戦場から重力に身を任せて落ちていけば最期、故郷の大地還る頃には身はバラバラになる。

血溜まりの中の肉片には、最早ズヴェーリも人もない。

あるのは1つ、土に残るまで残るという敗者の末路という事実だけである。


リディア「命がまた1つ()ちていく。

仕方ない事なのよ。

現実は弱肉強食なのだから。」


リディア分隊の活躍もあって優勢となっていた空戦は、その後にタケダが動かした2の空戦部隊の接近に依って、一気に劣勢となりすかさず退却を迫られる。


ドレイク「制空権を取られれば、城壁の優位性等なくなる。

初戦で我々正規軍を叩くのならチロットでの戦闘を予測し、城壁という利点を奪う軍編成で挑んで来る筈だ。

それは会敵した時から危惧していた。

だが、まさか本当に空戦に兵力の大部分を割いているとは思わなかった。


圧倒的兵力差がある時は、兵力の追次(おいつぎ)投入をするよりも一括投入の方が懸命だ。

だが、空戦となれば話は別だ。

大部分の兵士が本陣を守れなくなるという事は、一気にそこを襲われかねない!。」



タケダ「制空権を取り、空から街へ雪崩混んでやろう。

そして王手を掛けてられれば、奴等は四面楚歌(しめんそか)となる!。

そうすればその対応と市民の混乱で戦闘に支障を来たす。」


ドレイク「そうなれば、敵本陣への攻撃所ではない。

つまり、制空権を取られていないこの時が攻め時という事か…?。」


本陣を襲える可能性はある。

それに気が付いたドレイクは、ヤナ連隊長に直訴(じきそ)した。



タケダ「敵兵士がその事実に気が付く事もあろう。

しかし、街の外で衝突すれば、野生のズヴェーリとの戦闘も確実。

そしてそれに対応する部隊も含めれば、ほぼ全兵力を用いて出撃してくる事になる。

そうすれば街はガラ空きとなり、そこを奪えば奴等は帰る場所を失い全滅!。指揮官である私を()つ事も難しいく、悪戯に兵士を死なせるだけになるが…そんな蛮勇(ばんゆう)を持ち合わせている連中ではあるまい。


さすが私の片眼である策士サナダ。

ここまで考え込むとは!。 」



しかし、ヤナはタケダの読み通りにはいかずドレイクの進言を採用した。


武士団総数は一万であり、そこから通信や衛生兵を覗けば6割となる。

そこまでは正規軍も同様であるが、武士団は更にそこから半分が空におり、残る2000も死傷者が多数である。

つまり、強行突破を図ろうとすれば、数百の正規軍でも達成する可能性が残っているのだ。


城壁のお陰で無傷である事に加えて、彼等には“経験”があった。

カラハット正規軍の選りすぐりの兵士達、それがタスクフォースである。

そんな彼等は、いずれも戦場を生き抜いてきた本物の兵士達であり、一人一人が歴戦の猛者であったった。



ジェル分隊を始めとしたチャリオット分隊が高速の進撃を開始した。

チャリオットは、ウンマ二匹の馬力を一手に受けるその機動力が強力なのだ。



サナダは秀逸なチャリオット達を称賛した。

武士達が成す術もなく陣の奥深く迄侵入されていたからだ。

しかし、それ以外に騎兵の敵影(てきえい)が見当たらず、その理由がわからず混乱した。


チャリオットを食い止めようと、チロット市の方向に軍を密集していた。

タケダは敵の方向はチロット本面からであると限定していた為、気にも止めなかった。

しかし、それは甘かった。


突如地中より現れたジノヴィが、肉薄(にくはく)の本陣に突撃して来たのである。



数分前、ドレイクはチャリオットを陽動とした攻撃案をヤナに採択されていた。

地中を這う虫型のズヴェーリ数匹に穴を掘らせ、その後ろを酸素ボンベを背負って歩くという奇抜な作戦を執り行っていたのだった。


立派な髭の男を指揮官と断定し、1千余りの、ウンマを降りた歩兵が襲いかかった。


ジノヴィ「あの男が元南側作業隊総責任者のタケダだ!。

指揮官タケダを討ちとれぇ!。」

しかし、本陣まで駆けた兵士達2人は、勢い良く斬り裂かれた。

血飛沫(しぶき)と倒れ込む2人の兵士、そしてそこに(たたず)み血まみれの刀を1振り手に持つ男は、タケダに近付く事を拒む結界そのものであった。


コウサカ「ここから先へは、何人(なんぴと)たりとも通さん!。」


ジノヴィらは容赦なくコウサカの部隊に斬られた。

対ズヴェーリ用としても威力を発揮するその“刀”という武器は、“南方の帝国”が近接格闘の際に使用する独特な刃物であり、それは剣術というものが相まるとズヴェーリの牙や鉤爪(かぎづめ)でさえも切断しうる。


タケダに追いつこうと兵士達がうごきだした僅か数十秒の間に、コウサカらは敵ズヴェーリと兵士を斬り殺したのだった。

離れて彼等を燃やす事が出来れば良かったが、逃げるタケダに釣られてコウサカに近づいてしまった兵士達は、後続の友軍の攻撃を止める肉の盾となってしまい、成す術もなく斬られたのだった。

コウサカらが敵歩兵を包囲しながら近付いた事で、兵士らは全滅してしまう。


しかし、そうしてコウサカという猛将(もうしょう)を離した事で、チャリオット部隊は敵を突破して、逃げるタケダを追う事ができた。



レフ「敵指揮官を討てばこの戦いは我らの勝ちだ!。

進め!。

ウラァァァァ!!!。」


ジェル「リョーヴァ、タケダを任せたぞ!。

俺は…ジノヴィ小隊長らを救出しに戻る!。」


レフ「了解です!。」



ジェルは自分には目もくれないコウサカを素通りし、倒れる歩兵を助けた。


ジェル「小隊長、ご無事ですか!?。」


ジノヴィ「バカめ…指揮官を討ち取れという命令だぞ?。

そんな事をするから、君は昇進出来ないんだぞ?。」


ジェル「ダーイナイプトンニーニが言っていましたよ。

将、外にあれば君命(くんめい)も受けざる所なり。

大きく解釈すれば、部下を率いる程の権限を持つ兵士は、状況次第では命令違反をするという意味で、つまりこれは俺の正しさを証明する格言です。」



チャリオットが蹴散らした敵兵士も、タケダを追って戦場離脱。

かくして正規軍側の勝利で、チロット攻防戦は幕を降ろした。



第18話 終

チロット市は架空の街なので、そこが前線だったというのも創作です。

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