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ズヴェーリ 英雄叙事詩   作者: 乘
第3章 青山戦争編
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第16話 心の支え

第16話


心の支え



アナトリーは1通り青山を見渡した。

そして再び、アレクサンドロフスクカラハットスキーへ目を向けた。

すると、そこには見慣れない建物があった。

それは木材と金属が併用されている建物で、人やズヴェーリに引かれて動いていた。

遠くの方なのでハッキリとは分からないが、直径400m程度の巨大な(とりで)の様に見えた。



一方カイ市では、シュウジはアイノネの側に居てあげたかった。

しかしユーリにこう言われて彼の側を離れる事にした。


ユーリ「確かにアイノネ君はシュウジと居られた方が、少しは不安が和らぐでしょう。

でも、アイノネ君が本当に一緒に居て欲しいのは家族であるリクさんです。


シュウジが如何(いか)に彼に取って大事な友人であっても、出会って日が浅く未だ他人同然です。


それなら、シュウジがここに居るよりも、2人だけにしてあげるべきです。

警察は平時の活動に(てっ)する訳ですから避難民を(かくま)ってはくれず、どの道僕達はここには居られません。

だったら、2人をトラゾウさんに連れて帰って貰うしかありません。」


シュウジ「そうだな…。

俺が居ても、あの子為に何かをしてやる事なんか出来ないしな…。


ユーリ、お前施設育ちの癖に良くそんな事分かったな。

家族とか友人の垣根(かきね)って、俺達と大分感覚が違うだろうに。」


ユーリ「余計なのが周りに居たら集中して泣けないじゃないですか。

それだけの事ですよ…。


それよりも、シュウジ少し大人っぽく成ったんじゃないですか?。

この前迄のシュウジなら、あの子の為なんて言える人じゃなかったですよ。」


シュウジ「俺、何にも変わってないぞ?。」


ユーリ「いえ、シュウジは変わっていますよ。

より…適当にね……。」


シュウジ「テキトーになってるって?。

…冗談だよ。」



突然表情を変えて神妙にそう言ったユーリに、シュウジは気味の悪さを覚えた。

しかし、そんな事をきにするよりも先に、シュウジは行きたい所があった。

警察署を出たシュウジとユーリが、アイナを探してカイ・クラッシヴィ・トゥルニールの会場へ向かった。

そこは巨大である為に避難所にもなっていて、アイナはそこにいるだろうと思われた。


しかし、そこにアイナは居なかった。

昨日の嵐でドームに落雷があり、直撃を受けた屋根は抉れ会場内では火災や浸水で人々は狂乱し、複数人の重軽傷者が出たらしかった。

しかし、『死者は出なかった』らしい。

そしてアイナは今、病院に搬送されたらしかった。


その報告を聞いたユーリは珍しく動揺し、シュウジもまた事の重大さに衝撃を受けた。


街中に溢れた数多の(しかばね)やリクの亡骸を見ても、何処か他人事で何も感じなかった彼は、初めてここで何かを失う不安と恐怖に身震いした。


思えば、旅に出てから災難続きであった。

彼は防空壕に落ち、2人は雷に撃たれかけた。

そしてカイ市に来てからは初日に地震に()い、そして次の日にはテロに遭った。


頭の中は真っ白になった。

目に写るもの全てがガラクタの様に何の意味も成さないものになり、彼はその身を持って、さっきまでのアイノネの気持ちを理解した。

彼に取って、アイナは家族と同じ位大切な存在である事に、彼はやっと気が付いたのだった。


しかし彼はくよくよせず、すぐに病院へ駆けつけた。


そしてそこでアイナを見つけ、看護師に話を聞いた。

どうやら大きな雷の一撃によりドームの屋根が抉れ、そこから侵入してきた雨水が、避難民で溢れるステージ中に溜まってしまった。

皆が急いで雨水の侵入していない所へ移動し、あの数人という所で小さな雷が雨水に落ちた。

そして、数人が感電し、そのままま意識不明の重体になってしまったらしかった。


彼は、ベッドの上で気を失っているアイナを見て、自分が旅にでようと言い出した事を後悔した。


そして彼は、“旅立ちの日に”父ヤスノスケが言った言葉を思い出した。


ヤスノスケ「カイ市に迄行くのか…。

本当は行って欲しくはないんだがな…。」


父の言葉に従っていれば、夏休みに体験した全ての不幸は降り注がなかったと、彼は心底思ったのだった。

しかし時既に遅し、後の祭りであり、彼は幼い体には負担が大きすぎた外因的な胸の痛みに耐えきれず、発狂してしまいそうになった。


しかし、そうはならない様に理性を保った。

何故なら、同様の理由で声を荒げて暴動を起こす大人達が、アビー巡査に逮捕されていたからだった。


シュウジ「あんなに露骨な事したら、ダメだよな…。」


粗方(あらかた)方をつけたアビーはシュウジを見つけて側に来てくれた。

アイナが眠っている事を認識すると、アビーは悲しむシュウジをそっと抱き締めた。

彼女もギャリーを失って悲しい筈なのに。

彼女に取ってギャリーはそんなもの立ったのだろうか?。

いいやそんな筈はなかった。

彼女の腕には、今もギャリーとお揃いの腕輪が着いたままなのだから。



慰める彼女は、そっとシュウジに語りかけた。


アビー「アイナちゃん…かなりの重症ね。

そんなに泣いて貰えて、彼女は幸せ者だよ。

それに君は、彼女の姿が残っている内に大切な人だと気付く事が出来たんだから…。


どこかの誰かが、人生は今しかないんだから今を生きろと言ってたんだけど、私はこう思うの。

人生は、過ぎた思い出を思い出す時が一番幸せなんだって。


…ギャリーが言ってたの。

それは恋もおなじだって。

私はあんまり理解出来なかったけど…記憶の中で、してあげた事やして貰った事、二人で過ごした思い出を懐かしむ時が、一番の醍醐味(だいごみ)であり幸せなんだって。


だからねシュウジ君。

もしアイナちゃんがこのまま目覚めなくても、君は自暴自棄になってはいけないよ。

そして時々、彼女を思い出してあげて。

あなたが思い出してあげる時、彼女はあなたの心の中に息ずいているから。


そして懐かしめる思い出になるまでは、忙しくしていなさい。

その後必ず彼女と過ごした時間が、あなたの幸せな思い出になるから。」


小さくコクリと(うなず)くシュウジ。

涙を流しながら聞く彼女の言葉は、水が体の中にスッと浸透(しんとう)するかの様に聞こえていた。

そしてその言葉達が、体の中で波打つ様に木霊(こだま)していた。



数時間前、州自治体は数日前に急病で不在になった知事を残して、各省庁は独自の判断で非常時に於ける対応をしていた。

しかし、軍を除く全ての省庁は巨大経済都市のカイ市を崩壊させない為に、平時のままの活動を続けていた。

市民を避難させたる等して経済活動が少しでも(とどこお)れば、カイ市は直ぐ様財政破綻し、同市に経済的に依存しているカラハット州そのもほが崩壊する事に直結する。

故に、市民はカイ市の外に出る事すら禁止されてしまうのだった。



カイ市から出る事も叶わず、次またいつ天災やテロに被災するか分からない。

その不安は、確かに市民達の心を(むしば)んでいった。



第16話 終

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