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ズヴェーリ 英雄叙事詩   作者: 乘
第3章 青山戦争編
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第15話 青山

第15話


青山(せいざん)



カク「私は、NIsカンパニー専務取締役のカクであります。」


彼はカク(角)。

NIsカンパニー専務取締役で、NIsカンパニーのNo2である。

パッチリ二重が特徴的な穏やかそうな男で、身長は170cm。

常に香水を振り撒き、爪を手入れしている清潔感のあるお洒落なおじさん。

年齢60代。


カク「我々が本日のカイ市強襲を決行した理由と目的についてお話致します。

まず理由は、先の戦争の末期に我が方の外地(がいち)という領土ったカラハット島を“北方の大国”に依る不法占拠状態が、半世紀経った今日迄続いている事によります。


当時有効であった中立条約を反故(ほご)にしてカラハット島へ侵攻し、一般人を虐殺しました。

それは抵抗する能力のない我が国から、領土をせしめたいという身勝手な理由であり、戦勝国と言えども到底赦されざる非道です。

同胞が受けた苦痛と恐怖の理不尽さこそが、我々が本日の行動を起こすに至った理由であります。


ここに居られる戦後の高度成長を遂げた都会にお住みの方々の大半は、その事実に興味を持つ事すらなく、日々を過ごして居られるでしょう。

しかし、我々は同胞が受けたその痛みを忘れる事なく、本日を待ち続けていました。



次に、我々の戦争目的。

それはこのカラハット島ないし同島を含む州の領有権を、我々に委譲(いじょう)する事であります。


これを達成するには州自治体に我々の要求を承諾(しょうだく)して頂く必要がある為、州自治体との交渉想定しております。

もし何らかの形で交渉が破棄される等して、州自治体が一週間居以内に領有権の委譲を行わなければ、我々は武力行使を(いと)いません。


我々には、武力行使を躊躇(ため)らわない強い意志と十分な用意があります。

先日我々が本日の急襲を予告したにも(かか)わらずそれを無視して甚大(じんだい)な被害を(こうむ)る事になった州自治体には、今度こそ賢明な判断を下して頂ける事に期待しております。

以上。」


カクの説明に人々は静まり返っていた。

TV画面の中レポーター近くの人々から、微かに自分の身の上を心配したヤジが入り込み、それは伝染する様に警察署内てわも起き始めた。


市民A「い、一週間で島外を引っ越すなんて無理だ!。

嫌だぁ、まだ死にたくない!。」


市民B「折角(せっかく)助かったのに、もう助からないの…?。」


市民C「奪ったもんなら、返せば良いじゃないか!。

そうすれば万事解決だろ!?。」


市民D「おい待て待て!。

一週間以内に領土を返せる訳がないだろ!。」


市民E「戦争中の出来事だろ…?。

獲られた方が悪いんだよ!。」



喧騒(けんそう)に包まれた署内。

雨に濡れた体を少しだけ拭いただけの冷えた体は、(やかま)しく居心地の悪いボロボロの布に包まれている。

病院のベッドよりも圧倒的に劣悪な環境で、彼は何故だか眠りに落ちる事が出来た。


目覚めると、署内にリクの遺体が安置(あんち)されていた。

隣で泣き(わめ)くアイノネと、それを階段の側で見ているシュウジが居た。

アナトリーは何故だか彼の訃報(ふほう)に悲しみもせず、カイ市を離れる事にした。

理由は分からない。

現実逃避か(ある)いは動揺していたのか、はたまたその両方か。

それは彼のみぞ知る事だ。

とにかく彼はここには居られないと思った。

彼は新幹線に乗って、故郷へ帰省しようと思い至った。

場所は青山地区、グローム町へ。


シュウジ「何だ、外で口論してる。

兵士の声だ。

もう、NIsの連中は居なくなったのかな?。」


ジェル「俺達ばかり()き使われて、迷惑なこった。

そろそろ給料をあげて欲しい所だ。

…それで、次はどこだって?。」


レフ「分隊長、あんまり悪態ばっかり吐かずに!。

イライラしてるのは皆同じなんですし、ここは隊長らしくドジっと構えていて下さいよ!。」


彼はレフ・ミハイロヴィチ・リトネンコ兵長。(Лев・Михаилович・Литненко)(リョーヴァ/Лёва)

透き通った真っ白な肌にはシワ1つなく、また白に近い金髪に碧眼(へきがん)である為に、パッと見はアルビノにも見える。

前髪は唇に届かんとして、それは戦場を駆ける兵士には思えない。

年齢20代前半。

身長175cmで体重62kg。


ジェル「リョーヴァ、悪いがイライラを止められる程、落ち着ける状況じゃないんだか…。

努力はしよう。」


ハリス「分隊長、行き先は青山だとよ。

ここ中央区から約180km西北に北上だな。」


彼はユアン・ハリス伍長。(Ewan Harris)

常に煙草を吹かしている不健康そうな顔をした男。

茶髪の刈り上げでモヒカンの様にも。

髪も髭も所々白っぽい。

身長176cmで体重74kg。


ジェル「俺達も新幹線に乗って行けりゃ、安くて速いのだがな。」


ヴァーグナー「武装した兵士が公共の乗り物に乗れる訳がありません。」


彼女はアンナ・ザラ・エーリカ・ヴァーグナー上等兵。(Anna Sara Erika Wagner)

金色短髪の女性で、鼻が高い。

身長165cmで、お尻が魅惑的。

薄化粧でも分かる美形、20代後半。


軍人達は暫く談笑した後に、去っていった。


アビーは同僚の警察官達と話していた。

大都市カイ市を攻撃されて、既に尋常ではない被害が出てしまっている以上は交渉しかない。

しかし交渉等は無意味で結局はすぐに交戦状態に入るだろう。


警察庁長官のアレンスキーは何故市民の避難を命令しないのか等であった。

しかし警察官達は口を揃えて言った。

アレンスキーが存恤(そんじゅつ)する筈はなく、きっと市民を外に出すなと言うだろうと。


それは、カイ市はその巨大さ故に、市民が避難すると経済的に現状を維持する事が困難になり、すぐに破綻してしまう可能性があったからであった。


先の地震の直後も、経済活動を維持させていたのはそれが理由であった。

そしてそれは、現実のものとなった。



アナトリーは1人グローム市へ向う為に、カイ市内在来線での長旅に耐えていた。

彼は…自分の居場所を求めていた。


彼はカラハット鉄道が運営する島内縦断鉄道を利用するつもりだった。

しかし、今回の騒動で実質的にNIsの支配下である青山地区への電車は走っては居ないだろうと思った。

…しかし、新幹線は通常営業であった。


アナトリーは、カイ市や州自治体のお偉方達は銭ゲバだから、高名な観光地である自然豊かな青山地区への道を閉ざしては収益に関わる為だろうと推理し納得した。


アナトリー「カイ市で生まれ育った“北方系”なんざそんなもんだよな。

金の成る木は守る。

そこに住まう人々の事なんか考えてる訳がねぇよな。」


警察庁が他の省庁よりも先に、平時の活動をする事を宣言したのを電車内のTVで知った。

彼の言う通り、そこに住まう人々の事を考える事はせず、通常営業をし出したのだった。


同じ事を繰り返す電車内のTVに飽きたが、非常時通信制限が掛かり使用できなくなったスマホ中毒の患者は禁断症状にイライラ、ソワソワしながらも、数時間の長距離移動を耐えて見せた。


アナトリーは縦断鉄道の終着駅である、青山地区1の大都市アレクサンドロフスクカラハットスキー市へとやって来た。

多少廃れては居ても、未だに人口100万人の都市である。

子供の頃に数回やってきた憧れだった街は、今は市民が死んだ目をして、ひたすらにNIsの支配下で彼らに命令されるがままに過ごしていた。

洗脳されていると言っても差し支えない程、彼らの言いなりであった。

気持ちが悪くなり、すぐにグロームタウン行きの線に乗って、その場所を後にした。


その電車の中で目にしたのは、青山地区が青山と呼ばれる所以(ゆえん)であった。


そこには、平野に生え揃う草々と同じ様に、爽やかな風に毛並みを(そよ)がせながら走るズヴェーリ達が居た。

太陽の下、ズヴェーリは獣でありなぎら、ここでは自然と同じく生きている、自然の一部であった。

ビルやコンクリートもない雄大な草原に点在する小さな人里。

それすらも、それがなくては全く同じ景色になってしまう草原を彩る()わば抑揚(よくよう)となっていた。

遠くに見えるのは、島中に支流を持つポロナイ川。

山紫水明(さんしすいめい)なその川では、チェプカムイ(鮭型)が泳ぎ、地上にはホルケウ(狼型)等のズヴェーリが駆けて、ノンノ(花型)やシュシュ(柳型)が大地に根を張っていた。

それらのズヴェーリは最早動物の様な存在ではなく、植物の様な、自然の一部であった。


視線を電車の進行方向と同じく北に合わせると、数多のズヴェーリや動植物が(ひし)めき合う神威(かむい)の森がある。

この名前は、先住民族達の言葉で神様を意味するカムイから名前を取り、そう名付けられた。


目を東に向けてみれば、ロパチン青山地区の東側と南側に鎮座(ちんざ)するロパチン山脈があり、そのロパチン山脈の中心に(そび)え立つ骨嵬(くぎ)山のその魏魏(ぎぎ)たる存在感は、まるでこの青山を外部とは遮断し、誰の手も加えまいと立ちはだかる神の如きであった。


青山地区に入るには、このロパチン山脈を電車か歩きで越えるか、山脈の右側を迂回(うかい)して近海の油田から資源採掘をする都市であるワール市を更に北上して、島の北端から神威の森を通って入る方法がある。

他にも入る方法はあるが、一般人は立ち入る事は出来ない。

青山の東と南にあるロパチン山脈と西側の海、その間にある2つの

湖、タウロー湖とプラトーチノエ湖という海跡湖を抜けなくてはならないからだ。

しかしこの湖を抜ける事は出来ない。


何故なら、この2つの湖こそが絶滅危惧種オキクルミの住む、シュシュ湖であるからだ。



彼はこの青山の美しさに、スマホの禁断症状を忘れて見いってしまっていた。


グローム市グローム町迄はあと少しである。



第15話 終

アレクサンドロフスクカラハットスキー市は、実在の街をモデルにしています。

しかし、人口100万人は創作で、実際はもっと小さな街です。


ロパチン山脈は、実在するロパチン山をモデルにした創作です。


タウロー湖とプラトーチノエ湖は実在しますが、2つ揃ってシュシュ湖というのは創作です。


骨嵬(くぎ)は、アイヌ民族の呼び名の1つであり、山とは一切何の関係もありません。

余談ですが2つ目の漢字は、ガイと読みます。

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