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ズヴェーリ 英雄叙事詩   作者: 乘
第2章 カイ市編
12/36

第11話 家族と同志(きょうだい)

1000文字程長めです。

第11話


家族と同志(きょうだい)



河川敷での闘いの後、シュウジは二人と別れて繁華街へ向かった。

アイノネに馴染みの古着屋を教えて貰ったのだ。

そこでシュウジは店主にお願いして、サナダから貰った作業着を小さくして貰った。

それを着用してみて、腰にはもう一度子供サイズの服を巻いてみる。

するとそれは最早、甲冑そのものであった。


シュウジは喜んだ。

彼の様な少年は、こういうものを好みやすい。

その上、彼の父ヤスノスケは“南方の帝国”出身という事もあって、シュウジが幼い頃に執拗(しつよう)に甲冑等のおもちゃを与えていたのであった。


しかし小学校4年になり、一気に難しくなる算数を中心に彼の成績は落ちていて、そのせいで彼のおもちゃは一旦全て没収されたのであった。

これにはヤスノスケも心苦しそうであった事を、シュウジは思い出した。

しかし今の自分の古新合わさるお洒落な服装を前に、そんな事はどうでも良かった。

父親が居ずとも自分で手に入れたという事実も、より一層彼の愛着心を沸き立てた。



時は遡って午前11時頃。


ジェル「おい長老さんよ…。

折角救助してやったのに、またオタスの杜に帰らせろとは一体どういう事だ。

まだ半日しか経ってないのに、またあの危険な悪路を通ってオタスへ行けってのか!。

そうでしょう、ドレイク少佐!?。」


ドレイク「やめろジェル軍曹。

長老を叱り付けたとなれば問題になるぞ?。

特に…お前の様な“北方系”が先住民の長老を叱りつけてはな…。」



彼はルイス・ドレイク(Luis drake)

大きなパッチリ二重の(まぶた)との間に皮膚が見えない程に、黒い眉毛が近くにある。

身長186cm。

体重78kg。

日焼けのせいか茶色い肌。

8頭身で筋肉質な巨漢である。



シュウジは何も知らない都会を散策する程の気力が残って居らず、アイノネ宅へ帰宅した。

そこにはトラゾウとリクが居た。

トラゾウは帰宅したばかりで、リクは寝ていたらしかった。


シュウジは二人と話をした。

リクは昨日、11時代後半にユーリ達と共に中央区へ帰ってきて、まずアナトリーを病院に連れていったらしかった。

アナトリーの容体は軽い打撲と全治2週間の腕の切り傷であったが、万が一という事を考えて入院させたとの事だった。


今日の午前0時30分頃に帰宅したユーリとリクは、そのまま寝込みんだ。

2人を連れて来たジェル軍曹という軍人は、地震の際には軍に協力する様に依頼してきたらしいが、トラゾウは警察にも同様のお願いをされているからと断ったらしい

しかし、非合法に脅迫されて渋々承諾したのだと愚痴(ぐち)をこぼしていた。

シュウジは、軍人という自国を守る正義の味方がそんな事をするものだろうかと(いぶか)しんだ。


そしてそれから約11時間後の、今日午前11:30分頃に突然ジェルが再訪してきて、長老が何故だかユーリの同道を希望しているのだと伝えてきた。

ユーリはそれを承諾して、そのままオタスの杜へと向かったまままだ帰宅していないとの事だった。


次にアイノネの話をした。

何故アイノネがトゥリーニルに成ったのかという話を聞いた時、シュウジはユジノハラで聞いた3人の会話の意味を聞いた。


リク「僕達は人に会話を聞かれるのが得意らしいね父さん。」

と言って笑ってから、教えてくれた。

それがどれ程の事なのか、この時のシュウジはまだ理解していなかった。



トラゾウは“闘獣”州決勝戦の闇を話した。

決勝戦では、必ず島の先住民が3人勝ち抜けする様に出来ているらしかった。

それこそが、3大トゥリーニルの正体であると…。

そこには、先の大戦から続く根の深い問題があるらしい。

その3大トゥリーニルになれるのは純血の先住民のみであり、トラゾウの最初の子供であるリクは“南方系”と先住民の混血児であり、トラゾウは混血児が自分の後を継ぐ事は不可能だと知っていながら、リクを産ませたのであった。


トラゾウ「愛する子供の為なら、多少の理不尽でも通そうとしてしまう。

周りの期待や、道徳を裏切ってでもな。

親バカだな、私は。」


リクを3大トゥリーニルにする為に、彼の将来の選択肢を奪って、トゥリーニルの英才教育を施した。

時にはスパルタ教育と言われる事もあったが、それもリクは受け入れて確かな成長を見せていった。

しかし、やはりリクを後継者には出来ず、トラゾウはそこで腹違いの子供である純血のアイノネを産ませた。

母親が違う為、兄弟で“南方系”と先住民という違う系譜の名前をしているのだ。

トラゾウの意思とは反して、リクはアイノネの教育係として指導する事に精を出した。

混血という生まれせいで夢を絶たれた理不尽さ。

ぶつけようのない怒りを指導という形で、発散していたのだ。


そしてアイノネもまた強いトゥリーニルになったのだと、2人は語った。



アイノネが強いトゥリーニル。

そこに思い当たるふしがあったシュウジは、2人に河川敷での事を話した。


するとリクはニヤリと笑った。

そしてこう言った。

リク「アイノネの闘いは、ズヴェーリの特徴を生かして闘う正々堂々としたものだろう?。

それを好む子だ。」


シュウジは確かにそうだと思った。

柔軟な体でプラーミャの足に巻ついた際に、プラーミャの体を操って場外へ連れていけば、アイノネの勝ちであった。

しかしそんな事をせずに、あくまで戦闘不能に追い込む事に彼は(こだわ)っていた。


シュウジからそれを聞いたリクは、そうだろうねと言ってこんな話をし出した。



1年前


リクとアイノネは喧嘩していた。

リクは“闘獣”の指導中に、アイノネの闘いには闘う事に執着する余りに、敵を場外へ連れ出すという勝利方法を見失って、結果的に目的の勝利を得られていないのだと怒ったのだ。

しかしアイノネはそれは闘って勝てない、卑怯者(ひきょうもの)のする事と反論した。

そこに居たのは兄弟ではなく、“闘獣”を突き詰める師弟(してい)であった。



現在



リク「アイノネは最後に、こんな分からず屋の居る家になんか居られないと吐き捨てて、家でしたんだ。


僕の存在が苦痛になっていたんだと思う。

幼い弟に、僕は自分の味わった理不尽への怨念(おんねん)をぶつけてしまったんだ。

…家族の居る家は、これ以上小さく出来ない程の、最も密接な居場所だ。

そこに居る事が苦痛になるだなんて、こんなに不幸な事はないよ。」


感傷に浸るリクに、トラゾウが口を開いた。

アイノネは、外で居場所を見付けたのだと。



1年前



アイノネは家出して、街を彷徨(さまよ)った。

すると複数人の小さな少年が、寄って(たか)って1人の少年を虐めていた。

ヴァシリはトゥレンペで彼等を追い払った。

闘いのすぐ後のトゥレンペは傷がまだ癒えておらず、それで狂暴な少年3人を相手にするのは容易い事ではなかった。

何とか彼等を追い払い、(うずくま)る少年を助けた。

そして、出血し顔面アザだらけの少年の為に救急車を呼んだ。


助けられた少年というのが、ヴァシリであった。

その後仲良くなった2人はよく遊び、2人は良き相談相手に成っていた。

また2人には共通点があった。

2人共、ズヴェーリを通して夢を見ていたのだ。

アイノネに取ってはヴァシリもリクも、ズヴェーリを通して夢を見た仲間だった。

だからアイノネはヴァシリを弟と呼び、ヴァシリはアイノネを兄と呼んだ。

彼等は同じ夢を見た、同志(きょうだい)であった。



アイノネは、リクから言われ続けていた闘い方のダメ出しをされている事を伝えた。

するとヴァシリはこう言った。


ヴァシリ「純粋(じゅんすい)な疑問なんだけど、どうしてアイノネ兄は闘うの?。」


アイノネ「そりゃあ期待に答えたいからだよ。

あと、楽しいから。」


ヴァシリ「じゃあ期待に答えようよ。

そうしないと、期待して貰えなくなるよ?。

楽しいだけじゃ、お父さんの後を継いで3大トゥリーニルに成れない。

3大トゥリーニルに成れなかったら、夢の王者にも成れないよ!。」


アイノネ「分かってるけど…。」


ヴァシリ「じゃあ質問を変えるけど…。

どうしてあの時僕を助けてくれたの?。

お父さんやリク兄の期待なんかそこにはなかったよね?。


傷だらけのトゥレンペで、僕の為に“戦”ってくれた。

それはどうしてなの?。」


アイノネ「そんなの理由聞かれても分かんないよ…。」


ヴァシリ「僕には分かるよ。

僕を助けたかったからでしょ?。

もしかしたら、トゥレンペは戦いで傷を負って死んでたかもしれない。

それなのに、アイノネ兄は戦ってくれた。


そしてそれだけじゃなくて身寄りのない他人だった僕の為に、救急車を呼んでくれた。

その後に僕を友達として、家に招いてくれたりもした!。」


アイノネ「…!。」


ヴァシリ「もう分かったでしょ?。

アイノネ兄が闘う理由は勝ちたいからだよ。

戦いに勝って孤児だった僕を友達にしてくれた。

それと同じ様に、“闘獣”で勝って、その先にある自分の想像した通りの未来、"王者”になる未来を創りたいんでしょ!。」



幼い少年から的確に(さと)された事で腹立たしくなったアイノネは、怒って家に帰ってしまった。


そして怒り心頭のアイノネに、トラゾウは話を聞いた。

少し落ち着いたアイノネにトラゾウは言った。


トラゾウ「ヴァシリに怒ってしまった事は道理としては間違っているが、感情としては正しい。

お前はずっと1人で闘い続けてきた。

だから、誰にも理解できないお前だけの感情があるのだろう。


ヴァシリに謝らなくても良いんだ。

お前が謝れるその時迄。

自分が次にどうするかは、お前が決めてもいいんだよ。」


トラゾウはアイノネ自身に選択を委ねた。

彼は最初は悪い事をしたらすぐに謝るべきという、道理を教えようとも思った。

だが、それは野暮だと思って辞めたのだ。

今更言葉で諭さなくても、"闘獣”を通してアイノネに正しい価値観は伝わっている筈だからだ。

それ位アイノネの人生は、彼やリクが指導する"闘獣”で出来ていたのだ。

アイノネはそんな事も分からない様な、動物やズヴェーリではない。

彼に取って、アイノネは自慢の息子なのだ。

それを裏付けする様にアイノネは謝るべきと分かっているから、謝りたくない自尊心と葛藤して悩んでいたのだから。


その後アイノネがどうしたのかは分からないが、未だにヴァシリと仲良くしているのだがら、その結果は問っちめなくとも察せられるとトラゾウは言った。



トラゾウは、自分のアイノネへの優しさは彼の生まれへの贖罪(しょくざい)だと言った。

彼の場合は、決まった未来を目指すという運命であった。

その運命を背負った人生を受け入れ成長したアイノネは、強いのだと言った。


そしてリクへも申し訳なさそうな顔をしてこう言った。


トラゾウ「私の勝手でリクに夢を見させて、それを本人の関係ない理由で諦めさせたのだ。

こんなに酷い事は他にない。

…すまなかった。」


リク「もう良いよ、終わった話だから。

それに、僕も自分の都合でアイノネへ厳しい指導をした。

父さんの後を継げない悔しさと怒りから、アイノネにそれらをぶつけて、困らせてしまった。

僕もアイノネに謝らなくてはならないね。」



そして最後にトラゾウはシュウジに対して言葉を掛けた。


トラゾウ「私の(せがれ)達は、自分で自分の行動を決めたんだ。

君も無関係じゃないぞ…?。

シュウジ君、君は何の為に戦うんだい?。」



第11話 終

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