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ズヴェーリ 英雄叙事詩   作者: 乘
第2章 カイ市編
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第10話 8月11日

第10話


8月11日



軍用ジープを見つけた3人は、ただその両目から放たれるハイビームに照らされていた。

軍用ジープから降りた軍人はリクの事を知っていた。


ジェル「おいそこのガキ共、何をやって…お前は3大トゥリーニルの息子か?。

坊っちゃんがこんな所で何をやっているんだ?。」



彼はジェル・ボリセエビチ・ティーグロネンコ軍曹。(Дзер Борисевич Тигроненко)

色白で胴短長脚。

7:3分けの茶髪で、一重まぶたが特徴的。

身長170cm。

体重55kg。



ジェル「先住民の長老はお前達にも救助要請でもしたのか?。」


リク「いえ、先日長老からオタスの杜に来る様に言われていたんです。

地震の事で知っている事があるのだと…。」


ジェル「どういう事だか分からんが、とにかく長老を連れて避難しようか。

お前達も乗せていこう。

ここオタスの杜を含むポロナイスク区内の公共の乗り物は、全ての運休だ。

それくらい、今回の地震はヤバかった。」


深夜、リクとユーリは帰宅した。

そのままジェルとトラゾウは何やら二人きりで話していたが、暫くしてジェルは帰っていった。



8月11日、地震の起きた日から明くる日の午前9時頃。


昨日の地震は大勢の死傷者と被害を出したと、地元TV局のニュースは報道していた。

シュウジらの居た繁華街やアイノネ宅がある郊外等のある中央区は、頻発する地震を見据えて耐震性が極めて高かった為被害は最小限であった。


しかし主な被災地となった他の区や下町等では、

そうではなかった。

人間の野心により生まれた高層ビルで出来たコンクリートの森は、そこに瓦礫の山を加えて極相(きょくそう)を成した。


シュウジらは決勝戦控えている中で、警察に呼ばれていた。

実は今朝、中央区警察署からトラゾウが協力以来を受けていたのだ。


どうやら地震があった下町へ多くの警察官が救助や火事場泥棒対策で出払っており、その広さ故に元々慢性的に警官が少なかった繁華街を管轄する中央区の警官の不足分を、補ってくれるトゥリーニルを探していたとの事だった。


何故トゥリーニルなのかというと、一般人がペットとしてズヴェーリを飼える為に、犯罪者もまたズヴェーリを使って犯罪を行うのだ。

つまりそれに対抗するには警官もズヴェーリを使うしかなく、ズヴェーリを使えるトゥリーニルというのは、臨時で警官の代役を勤めるには丁度良かったのだ。


トラゾウはこの申し出を引き受け、後継者としていたアイノネや、アイノネの進めでシュウジも同行したのであった。


アイナはというと、何やらバレエの大会に参加する事になったらしかった。

今回の地震で怪我をしたバレエの踊り子の穴埋めを、その美貌から直々にお願いされたのだった。


地元の習い事教室でバレエの経験があったアイナは、それを承諾した。


その怪我をした踊り子というのがナターシャの知人であり、その繋がりでアイナにまで誘いが来たらしかった。


大会の名前はカイ・クラッシヴィ・トゥルニール(Каи красивый турнир)

直訳して、カイ美しい大会である。


この大会に出場するのはボリショイ(Вольшой)と呼ばれるバレエの英才教育を受けた大人達であり、アイナはそこに混じる事になった。


一方のシュウジは、警察署でギャリー巡査部長から指示を受けて、半日だけ任務を引き受ける事となった。

インターネットには根も葉もない偽りの情報が流れ、それを取り締まる事を中央区警察署は務めていた。

そうしていては巡回の手が足りないという事で、シュウジとアイノネはギャリーと、その部下のアビーの4人で巡回に出た。


ギャリー「あそこのガキども…昼間から呑んだくれてやがる。

そこから見ていてくれ。

やり方を覚えるんだ。」


彼はギャリー・レイノルズ。(Garry raynolds)

警察官の男。

筋肉質な体に、坊主頭が特徴的。

身長188cm。

体重96kg。

30代。


ギャリーは不届き者達と口論の末、彼の犬型のズヴェーリは、容赦なす鋭い牙で不届き者の腕に噛みついた。


()を上げた不届き者は降参し、お縄に掛かった。

これをやれと言うというギャリーにシュウジは絶句し開いた口が塞がらなかった。


そして4人は、アイノネも立ち入った事のない路地裏へ侵入していく。

そこには近づいても反応をしない人、奇妙な体勢で固まったままの人等、あらゆる人達が居た。


アビー「薬物中毒者達の危険地域に、子ども達を連れて来なくても良かったんじゃ?。」


彼女はアビー・ヴァノーニ。(Abbey vanoni)

3か国の混血であり、長髪の美人。

寝不足なのか、目の下に(くま)がある。

身長160cm。

ギャリーとお揃いの腕輪をしている。


ギャリー「それもそうだな。

だがもう遅い。」



談笑する二人の後ろを歩く少年達は、目の前に居る微動だにしない不届き者達の姿に、衝撃を受けていた。


しかし、そこに居たのは動かない者達だけではなかった。

突然、奇声をあげた男が、シュウジに飛び掛かって来たのだった。


男「ふぁ、ひゃあ、はああぁ!。

ふううぅぅわぁ、ふあああっわぁ!。」


その手には刃渡り12cm程度の刃物が握られており、シュウジはそれを押さえるのに必死で、背中をアスファルトに強打した。


急いでプラーミャを呼ぼうと考えたが、この男に噛みついて良いのだろうかという葛藤があった。

しかし、さっきのギャリーの姿を思い出して、迷いを断ったシュウジは、プラーミャに男の横腹を噛みつかせた。


人間に対する加減を知らないプラーミャはいつも通りの顎の力で男に噛みつき、男は更に奇声を大きくして倒れ混み、赤子の様に不規則に首を動かしていた。

その気持ちの悪い人間の姿を、警官達は必死に見せまいと覆い被さって気絶する迄顔を殴り続けた。


そんな事を続けてる事約5時間。

午後14:00時頃には二人は解放され、家路に着いた。

しかし道中でヴァシリと出会した。

ヴァシリは2人が決勝戦に出場するという事を知り、その練習としてアイノネとシュウジの闘いを見たいと言い出し、審判を買って出た。


辺りは崩れたビル等も多く、広場などなく、3人は河川敷へ向かった。


ヴァシリ「シュウジさんがどんなもんかは知らないけど、アイノネ(にい)には勝てないさ。」


彼はヴァシリ・グリゴーリエフ・パブリチェンコ(Василий Григорьевич Павличенко)

アイノネの唯一無二の親友。

幼い顔立ちに、大きな瞳が特徴的。

黒に近い茶色混じりの毛髪。

年齢7歳。

身長125cm。


シュウジとプラーミャはアイノネを見詰め、プラーミャはアイノネ目掛けて走り出した。

するとアイノネは、トゥレンペという異形(いぎょう)のズヴェーリで対抗した。

トゥレンペはどこが手足なのか分からなず、パッと見は生き物であるかどうかも疑わしい。

そのはんぺんの様な見た目で体格も40cm程度、これが地面を這って、とても気味が悪いズヴェーリだ。


そんなトゥレンペは風に飛ばされるビニール袋の様にプラーミャの顔に覆い被さった。


生き物は視界を奪われると、混乱して理性を失いがちである。

暴れるプラーミャに対してトゥレンペは首の筋肉を絞めながら、顔面に炎を吐き出した。


理性を失ったプラーミャには、これだけで効果覿面(こうかてきめん)であった。

顔から離れたトゥレンペはプラーミャの体を這いながら前足に張り付き、そのまま関節を操り、プラーミャは意に反した動きをした。


シュウジ「まずい、場外に連れていかれる!。」


しかしトゥレンペはプラーミャを外へ連れていく事はなく、散々プラーミャを(もてあそ)んだ後に、飽きたかの様に関節に圧力を掛けた。


軽い音が立ち、プラーミャは叫び声を上げた。

そのままプラーミャは気絶して、土の上に倒れ込んだ。


アイノネ「(まと)わり付く事が得意は為、憑神(つきがみ)とも言われるズヴェーリの特徴を最大に生かした闘い方。

これぞ、正々堂々とした闘いだよ。」


河川敷に響く“闘獣”の音は、地震の被害を受けて静まり返っていた町にとっては空谷(くうこく)跫音(きょうおん)の様に聞こえていた。


闘いが終わった3人の居る河川敷周り、橋の上や階段の上にはいつの間にか観戦者がいた。

辛い現実の中で見させられたその闘志に感動した人々が、そこに溢れていたのだ。


恥ずかしくなった3人は、帰る事にしたのだった。

人に拍手される快感を覚えたシュウジは、明日の夜行われる決勝戦が楽しみで仕方なくなった。



第10話 終

ボリショイとは、実在するボリショイバレエアカデミーの事です。


カイ・クラッシヴィ・トゥルニールは架空の大会であり、従って創作です。


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