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ズヴェーリ 英雄叙事詩   作者: 乘
第2章 カイ市編
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第9話 オタスの杜

第9話


オタスの(もり)



リクとアナトリーは、オタスの杜に行くらしかった。

しかしオタスの杜とはどんな所なのか、シュウジは分からなかった。


オタスの杜がどういう所なのか、アナトリーはユーリに尋ねた。

アイノネからユーリが博識だと聞いていたのだ。


ユーリは答えた。

オタスの杜とは、先の大戦で“南北の国”が北緯50℃に沿()って、島を北カラハットと南カラハットと分割し統治した時代に、“南方の帝国”に吸収された先住民達が、あらゆる文化を禁止されて強制的に定住させられた土地である。


カラハット南部の先住民であったアイヌ民族や中部と北部と広範囲に勢力を広げていたウィルタやニヴフ等が住まい、現在はアイヌ民族の儀式の1つであったをイオマンテという熊送り祭を元にした祭りが行われている地域として、有名との事だった。



シュウジは、アイノネは知っていたのだろうかと思って彼の方を見た。

するとアイノネは窓の外を見ていて、手を振っていた。


リク「どうかしたのか、アイノネ?。」


アイノネ「あ、うん。

あそこにヴァシリが居たからさ。」


ナターシャ「ヴァシリョークも少しは大きくなったわね。」


アイノネ「そうだね!。

おぉーい、ヴァシリィィ!!。」



シュウジは、ナターシャの言ったヴァシリョークというのがどういう意味なのか分からなかった。

後で聞くと“北方系”には愛称系というものがあり、友人同士ならば基本的にそう呼び合うらしかった。



そんな話をしていた時だった。

再び、揺れに襲われたのだった。

それは次第に大きくなり今朝とは比べ物にならない大きさとなり、アイノネは恐怖に震えていた。

車内という密閉空間ではそれが伝染し、集団ヒストリーを起こし掛けた。

次の瞬間、道路が割けて車は振動で大きく揺れた。

その瞬間、車内は静まり返った。

ナターシャが頭部をぶつけ、血を流しながら気絶していたからであった。


辺りに居た警察官を呼び、病院まで行く事にした。

警察官がバイクで補導してくれた事で、なんとかすぐに病院に辿り着いた。


ナターシャは幸い骨折等はなく、脳震盪(のうしんとう)により気絶したらしくそのまま入院となった。


今回の地震は過去最大のものであったらしく、これが今回の本震であると考えられた。

待合室で待っていたシュウジらの元にアナトリーとリクが居なかった。


二人は離れた所で話していた。


アナトリー「リク…。

俺がどうしてオタスの杜に行こうとして、お前を誘ったのか…。

それは、長老に呼ばれたからだ。」


彼はアナトリー・マカーリェビチ・ヴォルコフ。(Анатοлий Макариевич Волков)

目付きの悪い男。

特別見た目が良い訳ではないし、特別教養がある訳でもない。


黒髪の短髪で、青い目をしている。

身長174cm。

体重63kg。



リク「いきなり何を言い出すんだ?。」


アナトリー「長老に呼ばれたんだ。

地震の事で…知っている事があると。」


リク「一体どういう事なんだ?。

オタスの杜の長老が、地震について知っている事がある…?。

それを君に教えるなんて、君は一体何者なんだ?。」


アナトリー「何で長老が俺にそんな話をして来たのか、俺だって分かんねぇよ!。」



混乱する二人は、アナトリーが長老に話しかけられたというオタスの杜へ行ってみる事が最も手っ取り早いと考えた。

そもそもアナトリーは数日前、祭りで出される出店でアルバイトをする為にオタスの杜へ行った。

ただそれだけであったにも関わらず、長老に声を掛けられたのであった。


二人がオタスの杜へ行く事をシュウジらに告げると、ユーリも同道したがったのでそうする運びとなった。

長老に会える機会等そうそうないというユーリらしい物好きな理由だった。


ユーリを止めようとシュウジは考えたが、颯爽(さっそう)と去り行く3人を追う事は、怖がるアイノネとアイナの側を離れる事が出来ず、不可能であった。


やがて改めて迎えに来たアイノネの父トラゾウと共に、シュウジらはアイノネ宅へ向かった。



オタスの杜ではユーリが二人から、そもそも何故オタスの杜へ行くのかを尋ねてその理由を聞いていた。


アナトリー「ヤベェよな…。

カイ市中の人が、長老を“魔術師”と呼んでる。

知らない筈の事を知っているとか、ズヴェーリを意のままに操れるのだとか言われてる。」


ユーリ「“魔術師”、そんな異名を付けられている方なんですか。

ズヴェーリを意のままに操れる…憧れますね。」


アナトリー「憧れる…?。」


ユーリ「え、何か変な事を言いましたか?。」


アナトリー「いや、何も…。」


オタスの杜に着いた3人はその荒廃した雰囲気に驚いた。

オタスの杜は田舎なので建物の耐震性が低く、地震の影響で多くの建物が崩壊していたのだった。

街頭も折れ、暗闇の中で抉れた大地の上を歩く。

近くの森から聞こえる、狼や猪、そしてズヴェーリの立てる音。

それらは徐々に彼等の不安を煽っていった。


アナトリーは、ビビって少し漏らした。

それをユーリは無神経に声高(こわだか)に言ったので、アナトリーはユーリの事が嫌いになった。



一方アイノネ宅では、不安が抜けきれない幼い二人と少女の3人が、アイノネの寝室のキングサイズのベッドの上で、寄りかかっていた。


それを見たトラゾウは、3人をリビングに呼び出して連れて行き、TVを付けた。


トラゾウ「ずっと無音の中で過ごしてどんよりとしてたんじゃ、怖さも増すだけさ。

…とは行ったものの、どこもニュースしかやってないね。

それ程…未曾有の地震だったのだな…。」


TVには、カイ市の下町が壊滅している様子が写し出されていた。

そこには、アイノネ宅のある開発されたての都市部に程近い所もあり、シュウジは自分が九死に一生を得た事を実感した。


震源地は南区にある石油基地の近くであった。

ここに地震が直撃していれば、石油が爆発し、カイ市は地獄と化す所であった。


その時、またしても余震が訪れた。

TVキャスターは揺れる局内で白い安全帽を被り、揺れを伝えていた。

1日に3度も地震が起きた事で、流石(さすが)にカイ市市民トラゾウも(こた)えていた。

慌てて彼は、リクに電話を掛けた。

しかし繋がる事はなかった。



一方のオタスの杜では、地震の揺れにより倒壊したレンガ造りの建物に、アナトリーが下敷きになった。


リク「大丈夫か、アナトリー!。

ユーリ君も瓦礫(がれき)を退かすのを手伝ってくれ!。

1人じゃ大きすぎて無理だ!。」


アナトリー「手伝ってくれ…頼む…。

ユーリ…!。」


ユーリ「瓦礫が倒れて…下敷きに……。

もし、あの時…。

イさんも少し来る時間が早ければ、雷に撃たれて…小屋の一部の下敷きになって…。


あああああ、こんな時ばっかり頼らないで下さいよ!。

さっきは漏らしたった声に出したら、凄い形相で怒って来たくせに!。」


リク「ユーリ君、落ち着いてくれ!。

取り乱しちゃダメだ!。

賢い君なら、今はどうするべきかが分かるだろう!?。」


ユーリ「分かんないですよ!。

()いて言えば、冷静になる為にここではないどこかへ…。」



頭の回転が早い博識のユーリは、その頭の固さから冷静でありながら他人を省みる余裕を取り戻すまでには至らなかった。

あらゆる思考、選択肢が思い浮かび、混乱してしまっていたのだった。


???「こっちだよ…。

貴方をずーっと待ってたんだよ…。」


ユーリ「今のは一体…。

幻…聴?。」


アナトリー「おい、博識眼鏡のバカ野郎!。

森の奥なんて見てないで助けろよ!。」


リク「聞いてくれユーリ君。

君がしなかった事で、後悔はしたくないだろう…?。

早く瓦礫を退かすのを手伝ってくれ!。」



ふと2人を見ると、真剣な眼差しで自分に訴えかけてくる2人の姿があった。

ユーリは冷静さを取り戻し、非力ながら協力してアナトリーを助ける事が出来た。


地震の後に電話に気がついた3人は、トラゾウに折り返した。

リクは安心するトラゾウに、オタスの杜の被害を見れば助けは来られないと伝えた。

トラゾウは安心から一転して絶望に喫していたが、どうする事も出来なかった。



そんな時だった。

一両のジープが3人を照らした。

そのジープが何者なのか、リクはすぐに気が付いた。


アナトリー「あれは、軍用ジープだ…。

でも一両だけって、一体どうして…。」



第9話 終

オタスの杜は実在した土地の名前で、その歴史も史実です。


アイヌ民族、ウィルタ、ニヴフは実在の民族で、日本及びロシアの少数民族です。

他にも数多居られますが、省略させて頂きました。


祭りの下りは創作です。

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