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RTA?TAS?どっちでもいいけど無理ゲーだろ

作者: 田村 龍成

 やぁみんな、初めましてこんにちわ。

 俺は郷原昭則(ごうはらあきのり)35歳。フツメンの元サラリーマンだ。


 突然だけど、みんなも一度はあるんじゃないだろうか。


 腰ダメに両手を構え『KA〜ME〜HA〜ME〜HAaaa!!!』って言いながら勢いよく両手を突き出したり。


 コップの中に水を満タンに入れてその辺で拾ってきた葉っぱを浮かべて両手でこれを覆い『ハツッ』って言ってみたり。


 生まれて初めて食べたドラゴンフルーツを、もがずにそのままかじりついて悪魔を宿した事も俺は記憶に新しい。


 俺が死んだのもその一環だった。


 両腕を広げて走り行くトラックの前に立ちはだかり『俺を異世界へっ!!!』って言って轢かれて死んだ。

 正直ブレーキ踏んでくれると思ってたんだけどね。


 まぁそんな事はどうでもいい!


 俺はついに!


「あの、話聞いてます?」

「あ!はいはい聞いてますとも!なんでしたっけ?」

「ですから――」


 俺は今、天界っぽいところでロエルさんって人から異世界へ行って欲しいと頼まれ一つ返事で了承した。

 するとロエルさんは何やら説明を始めたんだが、俺はテンションがブチ上がり過ぎて耳に入ってこないところだ!


 だって!異世界だぜ?!

 テンションも青天井を更にぶち抜いてスペースインザファラウェイでしょ!

 いや、それはよく分かんないけど。


 まぁ、なんせアニメや漫画やラノベを死ぬほど読んで、死ぬほど興奮して本当に死んだ俺だ。


 今のこの状況は夢のまた夢を手に入れた至極の瞬間!


 あぁ〜俺という存在はこの為に用意されたものだったのか。


 そう考えると俺の旧友達に自慢したいところだな。


 小学校の頃の同級生達は俺の秘密の特訓を積極的に手伝ってくれたのか、遠目から石を投げてきた事も懐かしい。


 中学の頃の俺は、その特訓の成果もあって“気”を理解し始めた気がしてた。そんな俺の“気”に当てられたのか周りから人が居なくなってたな。


 高校に入ってからは本格的に体術を学ぼうと、三年間部屋から一歩も出ずにあらゆる武術の型の稽古をした。


 そんな過酷な稽古を終えようとしている時に、親から涙ながらに社会に出ろと言われた。

 なんで泣きながらそんなことを言うのか、はたはた不思議だったが俺は思った。

 これも修行だと。


 そして、その後も俺は人知れず特訓を続け今、ようやく極地へ至った訳だ。

 今まで手伝ってくれたり助言をくれた友人や親に感謝せねばなるまい。


「郷原さん!」

「はいはい!なんでしょう!」

「能力の話ですよ!」

「あぁ!チート能力をくれるって話ですね!」

「まぁ、郷原さんの世界ではそう呼ばれているみたいですね。とにかく今から行く世界では最強の力と魔力、更にはその世界にある全魔法の行使が可能となりますが――」

「最強!全魔法の行使!どチートじゃないですか!?」


 一体どんな力を使えると言うのだ!

 どんな魔法が俺に備わるって言うんだ!

 過酷な修行を乗り越え――


「聞いてください!」

「あぁ、はいはいすいません。テンションが上がりすぎまして」

「もう!ここにいれる時間がもうなくなってしまってるので、簡潔に説明しますからよく聞いてください!」

「ここにいれる時間?」

「はい。下界の人間が天界に存在できる時間は有限なんです」

「そうなんすね」

「そんな事はいいんです!いいですか!あなたには最強の力が与えられます。ですが時間が経つにつれてその力は弱まってしまいます。なので最速で”魔”を根絶して下さい。さすれば貴方が望むものをなんでも一つ与えられます」


 ロエルさんが言い終わると、俺の身体から白い粒子が湧いてきた。


 って言うか待て。

 時間が経つにつれて弱まる?


「時間制限、てこと?」

「もう時間ですね。そうです。ですが安心して下さい。失敗してもスタート地点に戻ります。そして、もうダメだと思われましたらポケットにボタンが――」


 ロエルさんが言葉を全て言い終わる前に、俺の意識は消えた。



 ◇◆◇◆◇◆



「うわぁっ!」


 こ、こは?


 意識が覚醒すると俺は見知らぬところで棒立ちしていた。


 なんだこの世紀末臭プンプンな場所は。

 空は紫、雲は灰色。大地は完全に死んでる。植物やなんかは枯れ果てて他の生物がいるとは思えない。


「なんなんだここは……」


 とか言って〜。

 おーけーおーけー。

 理解したぞ。

 ここが俺が救わなくてはならない世界。

 この魔に犯された世界を俺が、勇者の俺が、世界最強の力を持つ俺が救わなくてはならない。


 ここが、異世界。


 そして俺が、勇者。


 遂に、遂に……


「来たぞーーー!!!異世界だ!!!」


 よし。落ち着け。


 一度整理しよう。


 俺は最強。そして俺は勇者。そして俺はチート。そして俺は最強。

 いやいや待て待て。落ち着けてない。まずは深呼吸。


 すー、はー。すー、はー。


 オーケーだ。


 整理しよう。


 俺が強いのはもう分かっている。

 ロエルさんもそう言っていたし、俺の知識に最初からあるかの如く、魔法やら技やらが理解出来ている。


 背にはめちゃくちゃカッケー剣がある。

 コイツの名前も分かる。

 “神剣ストロングストソード”


 とにかくこれらがあれば何にも負ける要素がない事くらいまでは分かった。


 そして次は目的。

 それはこの世界の魔の根絶。

 とどのつまり、恐らくいると思われる魔王の討伐だろう。


 そして、もう一つ気になることがある。


 ロエルさんが最後に言っていた事。

 恐らく俺には時間制限がある。

 時間が経つにつれて俺は弱くなっていくと言っていた。


 そして、失敗するとスタート地点に戻るとも言っていた。


 失敗。即ち魔王討伐をしくじるという事。

 そうすると、俺はここに戻ってくるって事か。


 なるほど。


「ま、ありえないけど、な!!!」


 景気付けの意味も込めて一気に魔力を解放する。


 と、空の雲が一気に晴れて、俺を中心に大地が抉れクレーターが出来る。


「フハハハハ!!!これが!最強!魔王だと?この俺が一瞬で塵にしてくれるわ!!!」


 込める魔力を増やせば増やすだけ、そのクレーターがどんどん大きくなっていく。


「おっと、調子に乗りすぎた」


 魔力の解放を収める。

 すると、今消費した魔力が一瞬で回復するのを感じる。


「これはすごいな」


 これで失敗するなんて考えられないな。

 逆に失敗する理由を教えて欲しいくらいだ。


 よし。


 先ずは魔王を探さなきゃいけない。


 だけど、俺にはそんな必要もない。


「感じる。強大な魔を」


 魔王の気配が俺には分かる。

 正面のあの山の方だな。


「行くか」


 ぐっ、と地面を蹴る右足に力を入れて、走る!

 すると、クレーターの中心を更に深く抉りとり、とんでもない速さで視界の風景が飛んでいく。


 これは、すごいな!


 分かってはいたけど、このフィジカルにあの魔力。そして俺には全知全能と言っていい程の技や魔法が備えられている。


 何にも負ける気が、


「しないっ!」


 更にスピードを上げる。

 もはや新幹線並みの速さになってるんじゃないか?

 まだまだ上がるぞ。

 だが、これ以上スピードを出すと辺りの地形も変えてしまいかねない。


 俺は勇者。

 周りを気遣えてこその勇者!


 さっきのクレーターは確認の意味もあって仕方ない必要経費みたいなもんだ。


 そんな事を気にして速度を落としていても、もう目の前に件の山が、


「ん?」


 違和感を感じて目を凝らすと、山の麓に結界が張ってある。


「小賢しい」


 そのままの速度で走りながら神剣を抜く。


 そして、


「“神狼の轟牙(しんろうのごうが)”」


 抜いた神剣を下から切り上げるように結界を斬りつける。


 すると放った瞬間、斬撃が巨大化して結界が音を立てて壊れた。

 更には、巨大化した斬撃が空にまで伸びて空をも割ったような影響を及ぼした。


「すっげー」


 自分が巻き起こした現状を見て、思わず立ち止まって口にしてまう。


 おっと、これはいかんな。

 さっきまでしっかりカッコつけてたのに今ので全て台無しになってしまった。誰も見てなくて良かったぜ。


 しかしすっげーな。

 技を出す前からどうなるかは分かってたけど、実際に見るのと、知識で知っているのとでは全然違う。


 気を付けてやってかないと全てに対してオーバーキルになるし、魔王ですら瞬殺してしまうかもしれない。


 魔王はある程度苦戦して、最後に『俺の秘めた最後の力をぉぉ!!!』とか言って倒したいもんな。


「よし、気を取り直していこう」


 そう言ってまた抉るように地面を蹴り走る。


 しかしあの結界脆かったな。

 あと2ランクくらい落とした技でも壊せそうだもんな。

 あの分じゃ本当に魔王も瞬殺してしまう。


 ま、それでも全然問題なんだけど!


 ん?

 なんだあれ。


 山の方から無数の黒い何かが飛んでくる。


 敵、かな?


 速度を落とさず走り続けると、徐々に黒い点の正体が見えてくる。


 敵だ。


 ざっと2、300くらいいるかな?

 黒色の体の、明らかに“魔族”って感じの人たちが俺に向かって飛んでくる。

 その集団の先頭には、多分隊長的な人かな?

 派手な金色の鎧を身に付けた怖い顔した奴がいる。


 ん?


「うおっ!」


 危ねぇ!!


 なんだよいきなり攻撃してきやがった!

 火の玉みたいのをバンバン撃ってくる!


 多分当たっても痛みすら感じないと思うけど、普通にアレだよ。


 怖ぇから!!!

 全然普通に怖いから!

 あんな気持ち悪い奴らが敵意満々で、俺を殺そうと魔法ぶっ放してくるとか死ぬほど怖いから!


 こうなったら先手必勝!


「先手しゃないけど、“ジャッジメントノヴァ”!!!」


 魔力を込めて魔法名を口にすると、集団の中心で一瞬、ストロボのような光が瞬いた。


 刹那、轟音と共に白が黒い集団を塗り潰した。


 白い光が落ち着いた時には、もうそこには何もなかった。


 怖すぎて最上級魔法を使っちゃったよ。

 こんな魔法使わなくても絶対蹴散らせたけど、なんせ怖かった。


 仕方ないだろ!

 戦争を知らない生粋の日本人を舐めんじゃねぇ!

 外人に話しかけられただけで縮み上がる俺だぞ!?あんな黒いわけの分からん奴らに大挙されたら最上級魔法の一つや二つぶっ放すわ!


 よし、落ち着け俺。


 とりあえず恐怖は去った。


 慣れよう。この怖さに。


 俺は最強。俺はチート。俺は勇者。俺は救世主。


 よし落ち着いた。


 大丈夫。

 俺に勝てる奴なんてこの世界にはいないんだ。


 ドンと構えていこう。


 落ち着けたところでまた走る。


 しばらく何もなく、山を緩やかに登っていくと、また結界が見えた。


「しつこいな。“崩牙(ほうが)”」


 神剣を抜いてさっきと同じように切り上げる。


「なっ」


 今度は神剣が結界に弾かれた。


「なんだよ。これでもいけると思ったんだけどな」


 それともさっきより結界が硬いのか?

 見た目ではさっきと同じに見えるんだけどな。


 まぁいいや。


「“神狼の轟牙(しんろうのごうが)”」


 今度は一番最初の結界を壊した技を繰り出す。


「え?••••••出な、い?」


 なんで?


「“神狼の轟牙(しんろうのごうが)”!!!」


 …………出ない。


「なんでだよ!出ろよ!“神狼の轟牙(しんろうのごうが)”!!!……なんなんだよ!なんで出ない!?」


 意味が分からん!

 なんで!?


 魔力切れか?

 いや、間違いなく魔力は全快している。そもそも魔力が全快していなくても使えるはずだ。


 じゃあ使用制限?

 一度使った技は使えないとか?

 いや、ロエルさんは全てにおいて最強だと言った。そんな制限は考えにくい。


 しゃあなんで!?

 他に考え得る理由なんて――


 待てよ。

 制限?


「時間、制限だ」


 おいおいおいおいマジかよ。

 もう弱くなり始めてんのか?


 てゆうかテンション上がりすぎて時間制限がある事なんて綺麗さっぱり忘れてたぜ。


 てゆうかちょっと待て!

 冷静にやばくないか?

 普通にやばくないか?

 どう考えてもやばいよな!?


 弱体化が速すぎる。


 時間制限を忘れてた事を置いといても普通に厳しすぎる。

 今、剣技の最強技が使えなくなっているって事は最上級魔法も使えないとみた方がいい。


 これで魔王に勝てんのか?


 いや、分からない。

 これでも勝てるのかもしれない。

 今から速攻で結界攻略して諸々無視して魔王と戦えるならいけるかもしれない。


 でもそれじゃダメだ。

 分かんない時点でダメなんだ。


 俺は日本人。殺し合いなんてした事ないし、普通にビビってる。現にさっきの雑魚連中の攻撃にだってビビってた俺だ。

 まともな殺し合いで勝てるはずがない。


 だから必要なんだ。確実な安全マージンが。

 出来るだけ力を温存して、最速で魔王に辿り着く必要があるんだ。


「でももう無理だろ!」


 なんせ既に技をぶっ放しまくってる。

 弱体化を止める方法なんて知らないし、そもそもで出来る気がしない。もし出来るならロエルさんが教えてくれてるはずだ。


 いや、教えてくれてたのかもしれない。

 それを俺が聞いてなかっただけなのかもしれない。


 即ち。今考えても仕方ない。


 ん?

 そういえば俺がこっちに飛ばされる瞬間、ロエルさんがなんか言いかけてた気がする。


 なんだっけ?

 思い出せ。

 多分、きっと重要なことの気がする。


 なんだ?

 確か、時間制限がある話の流れでなんか、言ってた気が、する。


「んあぁぁ!思い出せん!」

「貴様がアインを殺したのか」

「ぇ」


 テンパっていると唐突に上空から声が聞こえ、情けない声が漏れた。

 見上げるとそこには金ピカの鎧を纏った、赤髪の黒い怖い顔をした人がいた。


「答えろ。本当に貴様のような奴が、あのアインを殺ったのか?」


 怖い怖い怖い怖い怖い。


 いつの間にこんな近くに。

 てゆうかめちゃくちゃ怒ってる。


 怖い怖い怖い怖い怖い怖い。


 殺される。

 ころされる。

 コロサレル。


 今からこの人に俺は殺される。


「ぉほ、“崩牙(ほうが)”ぁぁぁ!!!」


 出た!

 このレベルの技ならまだ使えるんだ。


 切り上げのモーションから地を蹴り飛び跳ねる。

 斬撃が届く、


 その刹那。

 不思議としっかり聞こえた。


「何故だ。こんな奴にアインが」


 その辺の石ころを見るような目。

 知恵なく飛び交う羽虫を見るような目。

 感情のない漆黒の目。


 そんな目を俺に向けてそう言った。


 俺は意識を失った。



 ◇◆◇◆◇◆



「うわぁぁぁ!!!……ハァ、ハァ、ハァ」


 気が付くと、


「スタート、地点」


 動悸がやばい。

 何が起きた?

 あの赤髪の奴にやられたのか?


 でもなんで、ここに?


 殺されたのではなく飛ばされた?

 いや、そんなはずない。アイツは少なからず俺に対してキレていた。

 確か、アイン?とかいう奴がどうのとか言って。

 多分俺が、最上級魔法で殺した奴の中にそんな奴がいたのかもしれない。


 そんな事今はいい。

 なんで俺がここにいるのかだ。


 思い出せ。ロエルさんが何か言っていたはずだ。


 スタート、地点?

 あ!確か、失敗したらスタート地点に戻ってくるって言っていた!


 失敗。イコール、死、か。


 死ぬと、俺はここに戻ってくる。


 という事は、また今から魔王討伐に向かって、殺されたらここに戻ってくる。

 成功するまで何度でも、何度でも。


「なんだよ、それ」


 冗談だろ。


 過酷すぎるだろ。

 あの死の感覚。アレを何度も何度も成功するまで繰り返せって?


 ふざけんなよ。

 もう二度とごめんだ。あんな感覚絶対に味わいたくない。


 あの言い表せない恐怖。

 伝えるにも伝えようのない悪寒。

 何にも変えがたい絶望。


 無理だ。

 あんなの、もう無理だ。


 あぁ。心が折れるってこういう事なんだ。

 足に力が入らず、へたり込んで立てそうもない。


 こんな神剣なんて貰ったって意味ねぇじゃんか。

 どんな魔法が使えたって、どんな技を使えたって、俺がこんなじゃ意味ねぇじゃんか。


 逃げたい。

 もう、嫌だ。


 逃げるにも何から逃げればいいんだよ。

 てゆうかそもそも立てないし。


「ん?」


 役にも大地にも立てない足を何気なく見るとズボンのボッケに膨らみがあるのを見つけた。


「なんだ、コレ」


 ボッケをまさぐって取り出すと、太めのペンみたいな形の、


「スイッチ?」


 急速に頭が冷えるのを感じた。

 同時に思い出した。

 ロエルさんの最後に言いかけた言葉。


『安心して下さい。失敗してもスタート地点に戻ります。そして、もうダメだと思われましたらポケットにボタンが――』


 そうだ。コレがそのボタン。

 失敗、イコール死。その死の前にこのボタンを押せば、ここに戻ってこれるんだ。


 このボタンを押せば死ななくて、済む。

 このボタンがあればあんな思いをしなくて、いい。

 このボタンさえあればまだ俺は戦える。


 安心したら落ち着いてきたぞ。


 てゆうかちょっと待て。

 何が『安心してください』だ!死んでもスタート地点に戻れる事がなんの安心になるんだよ!

 あんな思い二度とごめんだ!

 ふざけやがって!


 落ち着いたら腹も立ってきた。


 でも、これならまだやれる。


「よし!」


 気を取り直せ!

 やるぞ。そもそもやらないとこのループは終われない。やらない選択肢なんてハナからないんだ。


「……うん。まだ立てない」


 おーけー。

 そうしたら作戦をまず練ろう。


 とにかくトライアンドエラー。


 幾つか案を出してそれを片っ端からやっていく。

 ダメだったらボタンを押して戻ってまたトライ。これをひたすら繰り返す。

 やっていくうちに分かる事も増えていくはずだ。


 よし、考えよう。



 ◇◆◇◆◇◆



 遂に。


「よくここまでたどり着いたな。まずは褒めてやろう」


 やっと。


「我が“大四魔将”を打ち倒し、終ぞこの我にたどり着いた。これは称賛に値する」


 俺はここまで来た。


「して、どうだ。我の軍門に下らぬか?この魔王ダームの右腕として迎えよう」


 コイツが魔王。


「悪い話では無いだろう?今から我に挑むという、貴様の自殺に付き合ってやらんでも無い。だが、些か建設的な話では無いとは思わぬか?」


 半端じゃないプレッシャー。

 見るからに魔王。

 3メートル位の巨体。真っ黒の肌に更に漆黒の双眸。とにかく放っている魔力が今まで見たどんな奴よりも濃くて重い。


「ふざけないでください!ゴーたんはアンタなんかに屈さないのです!」

「全くだ。珍しく意見が合ったな。私のマスターはダームに下るほど小さくはない」

「誰があなたのマスターです!そもそもアインは元々アッチ側だったです!ゴーたん!アタシはまだこの人信用してないです!」


 うん。うるさい。


 コイツらは俺が仲間に引き入れた協力者。


 トライアンドエラーを249回繰り返しているうちに協力者が絶対的に必要な事に気付いた。


 そうして仲間になってくれたのが、どっかの国の囚われ幼女王女のコリルと魔王軍大四魔将の一人のアイン。


 まぁ、話せば長い。

 非常に長い。


 だが、コイツらはとにかく有用だった。

 コイツらが居なければ100%ここまで辿り着けなかった。


「拒否、という事でいいのだな?」


 魔王が苛立ちながら問う。


 とにかく疲れた。

 だからもう終わりだ。


 俺は魔王の言葉に答えず、歩く。

 ゆっくりとした動きで神剣を抜く。


 そして、


「“神狼の轟牙(しんろうのごうが)”」


 この世界に来て何度も振るった。一番使った技。流れるように体が動き、魔王の体に届く。


 魔王は何も出来ない。

 それがこの技の能力。

 技を行使する対象を”神狼”の威圧で麻痺させる。


 249回のループで学んだ一番大切な事。

 この技は一度のループ中一度しか使えず、魔王を倒すのにうってつけの技であった事。


 この技と、この技を使えるだけの魔力を温存してここにたどり着く事がこのループの必勝法だった。


 249回目のループにしてやっと、それが叶った。


 そして、勝負は一瞬でついた。


 魔王の体に吸い込まれる様に神剣が叩き込まれた。


 魔王は断末魔も発する事叶わず塵となった。


 これで、


「終わった」

「やったです!!!流石は私のゴーたんなのです!」

「やるとは思っていたが、まさかダームが一太刀で消されるとは。ん?誰が貴様のものだ!戯け図に乗るなコリル!」


 終わってもなお、うるさいな。

 まぁ、いいや。やっと終わったんだ。


 もう、これで――


「キャ!なんです!?この揺れは!」

「いや、そんなことよりこの気持ちの悪い魔力は、なんだ」


 激しい揺れ。

 山頂にあるこの城を、山ごと揺すられているかの様な大揺れ。


 ちょっと待って今度は何!?

 終わりじゃないの?

 魔王倒したぜ!?


 あ、ただの地震か。

 なんだ、そうか。


「クククク。ダームを屠ったか。この世界にまさかダームを倒す者がいようとはな。計画が大きく狂ってしまった」


 突如どこからともなく、腹の底に響く様な嫌な声が聞こえる。


「ただの地震じゃねぇのかよ!?今度は何!?」

「マスター!外だ!」


 アインが城のバルコニーを指差し叫ぶ。


 確かに外にすげぇ嫌な感じがする。

 アインに促されるまま、俺はバルコニーへ向かい外に出る。


「貴様がダームを倒した勇者か。仕方ない。一からやり直しにはなるが、私が直接殺してやろう」


 空に顔があった。

 悪魔を想像したら多分あんな感じになるんじゃないかな。そんな顔が空を埋め尽くす様なサイズで喋ってる。


「あんた、誰?」

「私の名前は“魔神オールダーク”お前が消したダームの産みの親だ」


 ま じ ん だ と 。


 ロエルさんが言った魔の根元て魔神の事だったのかよ!


「久々の下界だ。楽しませてくれよ。勇者」


 いやいやいやいや、無理だろ無茶だろふざけんなよ!


 もう魔力も残ってねぇっつうんだよ!

 そもそもアレとどう戦えってんだよ!

 っていうかそもそものそもそも絶対に間に合わねぇって!

 ここまで来るのに何回のループを要したと思ってんだよ!

 これ以上の何を端折っても魔力も時間も足りねぇよ!


 こんなんもう、無理だろ。


「どうした?来ないのか?ならばこちらから行くぞ」


 空にある魔神の口が開き、口の中が禍々しい光を発している。


 うわぁ。もうさ、


「……これRTA?TAS?どっちでもいいけど無理ゲーだろ」

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