魔王 対 呪いのビデオ
どうも魔王だ。最近異世界から勇者を召喚するのが流行ってるらしい。
流行りに乗っかるのは気に入らないが、何もしないで魔王の間に居て、ただ玉座に座っているのも暇過ぎるので、俺様も誰か適当な奴を召喚してみようかな。
右手の指先で丸い円を描き、空間に穴を開ける。その空間を異世界に繋げて安定させる。うむ、初めてやってみたが意外とすんなり出来たな。
あとは、いきなり空間に穴を空いて驚いている女を念動力で浮かせてコチラに連れてくる。
「わ、わわわわわわぁ・・・」
うるさいなぁ、うるさいと殺したくなるんだよなぁ。
"ドシン!!"
「きゃあ!!」
あぁ、尻から落としてしまった。まぁ、どうでも良いか。
「い、痛いなぁ・・・だ、誰ですか御兄さん?ビジュアル系のバンドマンですか?」
ビジュアル系のバンドマンとはなんだ?俺のこの銀色の長髪と、銀色の装飾品をこしらえた特注の黒いスーツが、それと酷似していると言うのだろうか?
「お前こそ、その見慣れない服はなんだ?」
「わ、私は高校生ですから、これは学生服です。」
よし、面倒だ。もうコイツの世界を理解しようとするのをやめた。
というか、さっきからコイツ微妙に反応が悪いな。!マークが一回も出てないじゃないか。悩みでもあるのか?少しコミュニケーションを取ってみるか。
「おい、人間。暇潰しに今からお前を八つ裂きに引き裂いてやる。」
もちろん八つ裂きにする気は無いが、これでリアクションを見てみよう。
「あっ、はい。どうぞ。」
・・・やはり反応が悪い。
「なんだ悩みでもあるのか?」
「実は私、呪われてるんです。」
「何?詳しく話せ。」
「私の世界には『呪いのビデオ』と呼ばれる見たら7日程で死んでしまう呪いのビデオがありまして、私は興味本意でそれを見てしまい、今日がそのちょうど7日目なんです。」
「呪われてるなんて自分で分かるのか?」
「ビデオ見たときに、テレビの中から白装束の長髪の女が『ぎ、ぎぎぃ』とか言いながら出てきたんです。私はそれを見ただけで気絶してしまって、目を覚ましたら何も居なかったんですけど、間違いなく私は呪われちゃってるんです。」
「ほぉ。」
正直、ビデオだのテレビだの意味が分からんが、百聞は一見にしかずだな。
「では人間、その呪いのビデオとやら俺にも見せてみろ。俺より恐れられる存在など世にあってはならぬ。直々に抹殺してやる。」
「ほ、本当ですか?でもビジュアル系のバンドマンさんじゃ、悪霊には勝てないかと・・・」
「お前は何を勘違いしてるか知らんが、俺は魔王だ。ビジュアル系のバンドマンでは無い。とにかく準備しろ。」
俺から言われて女は、自分の世界とこっちの世界を行ったり来たりして、準備を始めた。もちろん俺は玉座に座って何もしない。だって魔王だから。
「線が届かないな、コードリールが押し入れにあった筈だけど。」
うむ、面妖な四角い黒い箱が出てきた。これはなんだ?
「この黒い箱はなんだ?」
「ブラウン管のテレビです。『呪いのビデオ』見るので雰囲気味わいたくて中古で買ってきました。」
あぁ、駄目だ。やはり一つ聞くと更にワケの分からない単語が出てくる。もう何も聞かない方が良いな。
「準備できました。あとはこの『呪いのビデオ』を再生するだけです。それではいきますね。」
女は緊張した面持ちでテレビとやらに『呪いのビデオ』とやらを差し込み、何やら操作をしてからコチラに走ってきて、我が玉座の後ろに隠れて座り込んでブルブルと震えていた。たくっ、俺に会った時にもその様な反応をしろよ。
テレビというものは呪い師の使う水晶の様に何かを映し出す道具らしく、ガラスの面に白黒の木々が映し出された。その後に古びた井戸が出て来て、何やら映し出されているものが歪み始めた。
「おい、この後に白装束の女が出てくるのか?」
「ひぃ!!・・・は、はい。そうです。」
怯えすぎだろ。この程度のことで。
暫くすると井戸から手が伸びて、ゆっくりと白装束の黒い長い髪の女が這い出てきた。小物のクセに勿体ぶるな。
俺はパチンと右手の指を鳴らして、白装束女を魔王の間に瞬間移動させた。
「ぎっ・・・ぎぃぃ?」
白装束女は最初は戸惑っている様だったが、すぐに調子を取り戻してコチラに這い寄ってきた。遅い、俺を待たせるなんて万死に値するが、ここは少し我慢してやろう。
「ま、魔王様!!怖くて動けないんですか!?気持ち分かります!!」
コイツはうるさい。黙って見ていろ。
ゆっくりと白装束女は玉座に近づき、俺の足を掴み、次に膝、次に両手で首を絞めてきた。
"ぐぐぐっ・・・"
中々の力だな。それにしても髪の隙間から見える顔が、どす黒くひどく醜い。見ていて吐き気がする。
「ぎぎぎぎっ・・・」
耳障りな鳴き声だ。いい加減にしろ。
俺は思いっきり白装束の女の顔を右手でぶん殴った。
"ボガァ!!"
ぶっ飛んだ白装束女は、床にワンバウンド、ツーバウンドしてからテレビにぶつかり、仰向けに倒れてピクピクと痙攣していた。
興醒めだ、こんなに弱いとはな。これ以上時間は掛けない。
俺は新たに白装束女の真上の空間に穴を開け、テレビごと白装束女を浮かび上がらせた。
「ぎぎぎぎぃ!!」
白装束女はジタバタと動いて抵抗しようとしたが、無駄なあがきだ。行き先ぐらいは伝えておくか。
「貴様が行くのは冥界だ。貴様より格上の悪霊、怨霊なんでもござれといった楽しいところだぞ。せいぜい可愛がってもらえ。」
ニタリとオレが笑うと、白装束女は恐怖で顔を歪めて、そのままテレビ共々冥界へ旅立って行った。
俺は冥界に続く穴を閉じて、先程の女の方を見た。これで分かったろ?誰が一番恐ろしいかということが。
しかし、女はポーッと顔を赤くして、恐怖とは別の尊敬に似た眼差しで俺を見つめていた。
「魔王様、格好いい・・・白馬に乗った王子様みたい。」
どこがやねん。
なんだこの女?さっきの白装束には何の恐怖も感じないが、この女には鳥肌が立つ。ヤバい予感がするので、これは元の世界に早々に帰そう。
"ガシッ!!"
俺の気持ちを察してか知らずか、女は俺の右足にしがみついて、黒く淀んだ目で見つめてニコリと笑う。
「もう一生離さない♪」
・・・悪霊より人間の方が恐ろしい。