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あれから1ヶ月。
驚く程に何も無い。
こういうのって、“ヒロイン”登場1週間で何やかんやあって、もう、どうなっちゃうのぉ~?! “関わらない”が目標だったのにぃッ!!
みたいな状況に陥る気がしていたのだけど、そんなことは無い。全くない。
もちろん、それを期待していたわけでも願っていたわけでも無いので、文句はありません。
至って平和にモブライフを満喫しております。最高です。
昨日も今日も第二王子とその周囲は麗しい。
眼福。
生きてて良かった。
そして、“ヒロイン”はと言うと、至って真面目に授業に取り組んでいる。放課後、先生に相談に行くほどだ。(ジャック談)
せっかく、王立クロライト魔法学園に入学したからには、好成績を残したいと言うことなのだろう。実に堅実である。
国内一のこの学園を好成績で卒業すれば、貴族出身でなくとも良いところに就職出来る可能性が高い。“光魔法”が使えるなら尚更。それを、期待されての入学でもあるし。
と言うわけで、この1ヶ月でそれなりに周囲の信頼を勝ち取り、一緒に過ごす友人も出来たようだ。友人が出来れば、貴族社会の面倒な“暗黙の了解”を教えて貰えるだろうから、地雷を踏む可能性は、さらに減る、はず。
一応、学園では“平等”を謳っているが、では全くその通りに行動して問題ないか? と、問われれば否である。
もちろん、高位貴族がその地位を持って下位貴族に言うことを聞かせたりと言うことを表だって行えば、問題にはなる。“平等”ではないと。
しかしながら、そういうことではない。
あからさまに高位貴族を厚遇し、下位貴族を蔑ろにすることも無いが、完全に平等に扱うことは不可能なのだ。少なくない取り計らいや忖度は存在する。間違いなく。
確かに、身分の差は存在するし、学園での行動はその後の社交界での立ち位置に繋がるので、むしろ 身分を頭に入れつつ行動しなければならないのだ。
“平等”の名の下に、考えて行動することが求められる。勘違いしてはいけない。そう言う刷り込みである。
まぁ、その“平等”を勘違いする生徒は少なからず存在し、痛い目を見るのだけど。
簡単に言えば、学園の外の地位を持ち出されちゃ、授業とか生活とかままならないでしょ、面倒だから、とりあえず“平等”ということにしよ。と言うわけらしい。(ジャック談)
まぁ、確かに高位貴族が権力を持って授業や、先生に口出されてはたまったものじゃないし、進まない。先生を公爵家や侯爵家など、他に文句が言えないほどの家柄から選出しなければいけなくなるし、とても現実的とは言えない。
それでも、親や子から文句が少ないように、貴族出身の先生の方が多いが。
そんな感じでこの学園は、独特とも言えるルールにまみれている。
下位の者は弁えなければならない、と。
上位の者は、その権力をひけらかすことなく従えよ、と。
見えないルールに則って、滞りなく勉学に励みなさい、と。
難しい。
どこに地雷があるか分からないと言うことをなのだ。一応の伯爵令嬢である私だって読み切れないルールだ。
とにかく“偉い人”には近付かない。出来るだけ逆らわない。それを一番に過ごしている。だから、攻略対象キャラに関わりたくないのだ。間違いなく、この国で偉い人たちだから。間違いは許されない。代償はでかい。
平民のヒロインが、知らなくても仕方ないと言えば仕方ないのだ。
でもまぁ、それにしてもだ。
と言うか、乙女ゲーのヒロインってその視点で見ると楽しいけど、外から見るととんでもないな。
悪役令嬢の転生物が流行るわけである。
私には関係無い話だけど。
*****
「なぁ、ミアはさ、無性にどこかに行かなきゃいけないって思ったことある??」
次の授業の準備をしていたところ、隣に座っていたジャックがぼそりとそんなことを言う。
「どいうこと?」
一体その質問は何だと私は素直に首を傾げる。
「まぁ、そうなるよね。……何か俺の友だちが無性にどこかに行かなきゃいけないって気持ちになるらしいよ??」
どういう症状だろう。
無性に焼肉食べたいとか? 家に帰りたいとか? そう言うのならちょっと分かるけど何か違うと思うし。
「……トイレとか?」
やっぱり意味が分からなくてそう言ってみれば、「そう言うんじゃなくて!」と、怒られてしまう。
うーん、そりゃそうか。
ということは焼肉云々ももちろん違う。
何だろうう虫の知らせ的な? 何か意味があることなのだろうか。
「その場所に何か意味があるんじゃない?」
「やっぱりそう思う?」
適当に返せば、そう頷かれてしまう。
いや、知らんがな。
結局何が言いたいのか。
「それで? “何か”は何だったの?」
「いや、それが分からないから困ってるらしいよ。そこに行っても特に何も起こらない。でも、次の日になると行きたくなる……」
「……何それ、怖い」
思わず素の反応を見せてしまう。
まぁ、ジャック相手なら今さらだけど。
「……あれ、でもそれって……」
私は最近聞いた噂を思い出して、もしかしてと思う。思わず呟けば、ジャックは私の言葉を促すように首を傾げる。
「最近、ランドルフ様が放課後、訓練場に必ず居るって、ご令嬢方が騒いでいたの」
「うん?」
「シルヴァン様の方よ。そんな風に注目が集まるようになれば場所を変えると思わない? 鍛錬で訓練場を使わなければいけないなんて決まりは、無いもの」
私の言葉にジャックは少し考えるように、口元に手を置く。
噂になっている時点で、訓練場に多数のご令嬢が詰めかけているのは容易に想像出来る。差し入れだとか、形ばかりの訓練をしてみたりだとか、観覧だとか。だけど、“女嫌い”な所のあるシルヴァンが、そんな注目されてまで毎日訓練場に居る意味は無いはずだ。
鍛錬なら、手合わせでもしない限り訓練場なんて使わなくても大丈夫なはずだし、現に今までそんな噂をされたことが無かったはずだ。見つからないようにしていたに違いない。
それなのに、なぜ?
急に注目されたくなった?キャーキャーと言われたくなった? そんなバカな。
「それって、シルヴァン様も同じってことか」
たぶん、私と同じ結論に達したのだろうジャックがそう言って私を見る。
「たぶん……」
確証なんてあるわけないので、曖昧に頷くしかない。
それに、それが分かったところで解決策はないし、気のせいと言われればそれまでだ。
それにしても、どういうことなのか、さっぱりだ。
特定の場所に行かなければいけない気持ちになるだなんて。
「……」
何か引っ掛かる。
何か分かりそう……。
……他は?
第二王子ルーファスとユリシリルとアルバートは?
そう思ったところで、チャイムの音が鳴って、気が逸らされてしまう。
今日の放課後、探してみよう。
そっちのことに囚われて、ジャックが最初に言ったことはすっかりと忘れてしまう。
結構大切な情報を言っていた気がするのに。
閲覧ありがとうございます。




