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“彼女”が編入して来て1週間が経った。
平和だったようにも思うし、ギスギスとしたものだったようにも思う。
私?
私個人としてはもちろん、差し障りなく。穏やかな日々だ。
食堂のご飯は美味しいし、カフェの紅茶もケーキも美味しい。
授業にも困ったことはない。
とりあえず、“彼女”は今のところ問題を起こしてはいない。たぶん、虐められていると言うこともないと思う。嫌味や嫌がらせは多少あるかも知れないから、安心とは言えないけれど。
“彼女”は、巷のロマンス小説よろしく無遠慮に第二王子やその周りに突撃することも、婚約者のいる令息に言い寄ることも無い。まぁ、当然っちゃ当然なのだが。
たまにあるらしいのだ。
彼女のように編入することになった一般家庭の庶民が、野心を持って行動することが。事実は小説よりも奇なり。
実際、見目麗しい男爵令嬢が、顔立ちの整った高位貴族を手玉に取る事件が発生したこともあるらしい。
まさしく、小説みたいな話だ。
だからこそ、“彼女”が必要以上に警戒されることになったわけだけど。
その心配をよそに、“彼女”にそんな様子は見られないみたいだ。
“彼女”の方は。
やっぱり男はバカだと思う。
そんな事実は小説よりも奇なりみたいなことが起こるのに、なぜ近付くのか。
それ相応の覚悟があるのか。自分は大丈夫、ただの親切だとでも思っているのか、ただのバカか。
彼女に話しかける男子は絶えない、らしい。ただのバカだとしか思えない。
彼女の対応がごくごく常識的なものであることから、問題にはなっていないけど、“彼女”が勘違いしたらどうするつもりなのだろう。と言うか、普通なら調子に乗る。
あわよくば貴族のご子息とご縁が! なんて思ってしまっても仕方ないと思う。
こんな立派な学園に通うことになったのだ。
少なからず期待するものだろう。
身分の差と言うものを、よく分かっていても、“本気”になっても良いことなんてないと分かっていても、もしかしたら……なんて夢を見るのは、果たして悪いことなのか。
初めから騙してやろうとか、さすがに良くないけれど、玉の輿に乗りたいって気持ちも分かるというか仕方ないというか。
どっちもどっち。
騙す方も騙される方も、ね。
しかもきっかけを与えたのは、どちらから? って思うと。
“彼女”の状況を見ると、ね。
そう思わずにはいられません。
あれは、あわよくばって思ってもおかしくないよ。
まぁ、彼女はクラスの重苦しい空気と自分の立場を理解してしまっているのか、その状況に困惑しているみたいだけど。
その反応も分かる。
怖いよね。身分の違う男に話しかけられるのって。無碍にも出来ないし、あまり愛想良く応えてもすり寄ってるとか思われたり、勘違いされたりしても、困るし。八方塞がりとしか言いようがない。
そう、彼女のおかげか、表面上は問題なく過ぎている。火種は微妙に燻っているけれど。
彼女がゲーム通りに、攻略対象と仲良くなり始めたら一体どうなってしまうのか心配である。
出来れば、バッドエンドは見たくない。
それにしてもと、思う。
思ったよりもゲームの中って穏やかに時が流れていたのか。
未だに攻略対象と接触した気配が無い。
こっそり会ってるのかも知れないけれど、全員だなんて……。策士過ぎない? それに、シルヴァンって、最初からそんな場所に連れてけるほど軽くないし、アルバートだってそんなのを気にするタイプじゃない。結構人目を気にせず口説いてきた気がする。
そう考えると、知り合ってないと言うのが正解だと思う。
あくまでゲームに似た世界と言うことだろうか。
ゲームの強制力みたいなものは無いと考えて良さそうだ。
うーん、と言うことは、ヒロインと攻略キャラのイチャイチャは見れないのか。残念。ゲームの強制力がありそうなら、ひっそりと出歯亀するつもりだったのに。
ん?
覗きは悪趣味? 知ってる、知ってる。
でもそれを誰に言うつもりも無いし、心に秘めてガッツポーズするだけだから許して欲しい。
あれ、こんな邪なやつがいるからダメなのかしら。いや、そんな影響力があるとは到底思えないので杞憂だわ。
まぁ、私はあくまで傍観者なので、何をするわけでも無いし、出来るわけもないし、期待するわけでも無い。
“彼女”には、彼女の人生と言うものがあるのだ。私の“萌え”を押し付けるわけにはいかない。
とりあえず、逆ハーとか考えるアホヒロインじゃなくて良かった。手堅くて良かったと心底思う。
今後、彼女の人柄云々によって無自覚逆ハーを築くかは、未知数だけど。“ヒロイン”だから、油断は出来ない。
それくらい乙女ゲーのヒロインと言うやつは、無敵なのだ。一国の王子が盲目になるくらいには。そう言うものなのだ。
まぁ、でも、彼女自体が浅慮じゃない限りその有り得ないエンドは無いだろうけど。きっと、手堅く一人選ぶだろう。
そこまでは、どうしようもない問題だ。
思っていたような波乱は起きず、嵐の前の静けさのように穏やかに時は過ぎていく。
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