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「で? 4年に上がる前から妙にソワソワしてたけど、その原因は彼女ってこと?」
なんてことだ。
私はそんなに分かりやすかっただなんて。
ニヤリと笑いながら私を見るジャックに、私は上手く視線を返せない。
貴族お得意の腹芸なんて身に付いてなんてない。
普通に顔に出るし、動揺もする。
そりゃ、それなりの場であれば取り繕うくらいの教養はある。
けれどもここは、学園のカフェで、目の前には相当気安い友人が居て。
つまりは、取り繕う必要もなく、完全に無防備で。
つまりは、バレバレである。
その通りだと、白状したようなものである。
けれども、理由を話せない。
彼女のことを気にしていることがバレるのは、構わない。物語みたいで面白いじゃないとでも言えば、それで納得して貰えると思う。
私が、そう言う大衆小説が好きなことはバレてるし、だから“彼ら”の“ファン”なのだと説明しているし。
だけど、その前から彼女を待っていただなんて。
何で彼女が来ることを、知っていたんだって問われたら。
そんなの、そんな理由話せるわけがない。
私は普通に生きたいのだ。
波風立てずに過ごしたいのだ。
頭が可笑しいなんて思われたくない。
夢見がちと、笑われるのは構わない。けれども前世云々は、やばい。
ジャックは、ベラベラとそう言うのを吹聴する人間では無いが、これはそういう信用問題とは別だ。
困った。
そして、すぐに切り替えせない自分の不甲斐なさも情けない。
「そろそろ何か起こるかなって、起こるといいなって思ってただけよ」
ふぅと、なんでもないように息を吐きながら答える。
カップを手にし、ゆっくりと紅茶を飲む。
……カップを持つ手も、声も震えなくて良かった。
ジャックの頭にハテナが浮かぶのが見える。
「“彼女”を待っていたわけじゃないのよ。卒業に向けて、誰か彼か仕掛け始めるような気がしていただけ」
「……仕掛ける?」
「そう。卒業してしまえば接点が無くなるでしょう? 今のうちに縁を繋いで起きたいと考えるご令嬢もご令息も多いわ。つまりは、何かが、起きる。それってそれこそ物語みたいじゃない??」
出来るだけ無邪気に、夢見る感じで言葉を紡ぐ。
そんな私をジャックは呆れたように見る。
この目には慣れたものだ。
私があくまで彼らの“ファン”だと、物語のようで素敵だと言う度に向けられる視線。
これなら恋に恋する娘の方がマシだと言わんばかりの手痛い視線だ。全く同意。
物語に憧れ、実際そのような人を見て焦がれるのではなく、物語のようだと憧れの視線を送る。痛い。痛すぎる。
何でこうなったのかしら。
普通ってどこに行ったのかしら。
いつの間にこんな痛い設定が付いたの。
……もとから?
…………違うと思いたい。
普通に格好良いからってだけにすれば良かったのだ。きっと。恥ずかしいから近寄れないとか、それっぽい感じにして。
……それはそれで、辛いな。
どちらにしろ、手痛い視線には変わらない気がする。
そう言うやつだ。
「君はそこまで悪趣味でも、愚かでも無いと思うけど」
「あら、ありがとう。呆れられているとばかり思っていたわ」
「いや、呆れてはいるし、変なやつだと思ってはいるけど」
素知らぬ振りで、お礼を告げればため息を吐かれる。
何が言いたいのか。
そりゃぁ、積極的に事件が起きればいいとか、それを面白がるつもりもないけど。
でも、何やかんや起きるのは知っているし、それを少しだけ楽しみにしてしまっているのも事実。
傍から見れば無責任で、悪趣味なのだ。それは、間違いない。ジャックはそうじゃないと思ってくれているみたいだけど、それは事実だ。
「意外と私を高く買ってくれているみたいだけどね。……私は十分に悪趣味で無責任だわ」
だって、私からすれば、ゲームの再現なのだ。
ワクワクもしよう。
期待もしよう。
ここが全くのゲームの世界じゃないことも、リセットがきかない現実世界だってことも分かっているつもりだ。
キャラクターの彼らにもそれまでの人生があって、感情もある、今は私と変わらない存在だって、気付いてもいる。
そこまで盲目じゃないつもりだし、愚かでもないつもりだ。
けれども、私は聖人君子にはなれない。
正しくあれない。
切り離せない。
だから、愚かではあるのだ。間違いない。
きっと、悪趣味でもあるし、まだゲームの中だとでも思っている。それを否定できない。
そして、それを開き直ってもいる。
仕方ない、と。
たぶん、最低だ。
分かっては貰えない。
けれども、それは当然だと思う。思ってしまう。
だって、私とみんなは違う。
『特別』だなんて、主張するつもりは毛頭ない。だけど、分かってもらおうとすることは、間違っていると思う。この重荷を誰に背負わせる必要も無い。
最低でも悪趣味でも愚かでもいい。
それが、そう見えるのなら仕方ないのだ。事実には違いないから。
ただの、自己満足で、現実を見きれない夢見がちな愚か者なのだ。
だから私は勘違いしないように、関わりたくないのだ。自分が『特別』だなんて物語に入った気持ちになるのを、避けたいのだ。
私は間違いなく愚かだから、きっと勘違いしてしまうから。
そのために、これから起こることを見捨てようとしているのだ。
十分悪趣味で、無責任で、愚かだ。
「……でも、真剣に問題が起きればいいとか思っているわけでも、私が起こそうってわけでも無いのは、信じてほしいわ」
そう言って微笑めば、ジャックは何とも言えない表情になる。あら、わりと表情を作るのが上手いのに意外だわ、なんてちょっと愉快な気持ちになる。
「……君は、何を企んでいるの?」
恐る恐ると言ったように出てきた言葉に、面食らってしまう。パチパチと何度も目を瞬かせる、なんて驚き方をしてしまうくらい。
私はそんな大層な人間に見えた?
今の発言で?
何て言ったっけ?
あまり思い出せないわ。
「そんな風に見えるの……?」
驚きを隠せずに呟いてしまえば、ジャックは苦笑する。
「……まぁ、そんなことは無いだろうとは思ったけどね。そう見えなくもないから、思わず聞いてしまったよ」
クックと堪えるように笑うジャックに、揶揄われたのだと察する。
ムッとするが、少なからずそう見えたことは間違いなさそうなので、気を付けねばと思う。そんな難しいこと考えられるわけもないのに、そんな風に思われるのは、大いに困る。
危険人物扱いも困るし、策士扱いはもっと困る。そんな能力は無い。
「ひどいっ。私は正直な気持ちを話したのにっっ。興味本位で噂話をしたり、何か起こるかなって少なからず期待するのは、確かに悪趣味だなって、反省したのに……」
ううと、被害者感満載で嘆く。多少大袈裟に。わざとらしく。
「それを、そんな風に思われて揶揄われるなんて……」
「悪かったって。ちょっと不思議に思っただけだったんだって」
慌てることなく呆れたように謝るジャック。困らせるつもりは無いし、本気で嘆いていると思われても困るんだけど。だからこそ、大袈裟にわざとらしさも入れてるんだけど。それを分かる相手だとも分かっててやってるんだけど。
慌てるフリくらいはして欲しいものだ。可愛くない。
「私は純粋な“ファン”でしかないのに……」
純粋かどうかは、自分でも不明だが。
「ほら、ショートケーキでも頼んでやるから、ロールケーキの方が良いか??」
はぁとため息を吐いて、メニューを取り出し私に差し出す。
「分かってないわね! チョコレートケーキに決まってるじゃない!!」
にっこり笑顔で顔を上げ、チリンとベルを鳴らす。
「……だろうね」
と、これまた呆れた視線を向けながら、ジャックはメニューをしまう。
全部分かっていての茶番だ。
私はケーキが食べたい。お詫びと称して。ジャックはそれを分かっていて私に提供する。お詫びをする程じゃないと分かっていながら。
ついでに私が基本的にチョコレートケーキ一択なのも分かっていて、ショートケーキなんてとぼけてみせる。本当に可愛くない。少しくらい狼狽えるフリくらいしろ。
でも、まぁ、奢りで食べるチョコレートケーキは本当に美味しい。何やかんや誤魔化せたし。
学園のカフェと言っても、あくまで貴族が通う学園なのでシェフの腕は一流なのも、あるけど。
それだけじゃない。
“人から奢られる”それが、大事なのだ。
……私は十分、性格が悪い。
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