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サロン塔の侍女の案内で一つの部屋に案内される。
このサロンなのだが、表向きはみなが使えることになっているが、基本的には貴族しか使えない。暗黙の了解で、平民は使えないのだ。
そして、貴族の中でも位によって使えるサロンの部屋が決まる。
下位貴族向け、上位貴族向け、一部上位貴族のそれぞれの家専用、王族専用と分けられる。
通されたのは、もちろん下位貴族向けの部屋だ。
たぶん、彼女の友達に借りてもらったのだろう。それが、男子か女子かは分からないけれど、とりあえずヒロインは、このサロンを借りられるほどの伝手は持っていると言うことだ。
じゃなかったら、本当に校舎裏に来い的な感じか放課後、空き教室で、なんて事態になっていただろう。……うーん、それは、ちょっと、なぁ……と思う。
話を聞かれる心配もないサロンと言うわけで、少しは安心出来る……気はする。
うん、なんか緊張する。
侍女によって開けられた扉を前に、少し息を吐いて中に入る。
うん。
間違いなくヒロインだ。
可愛いゲームの通りのヒロインがそこに居た。
私を案内した侍女と中に居たサロンの専属侍女に、部屋から出るようにお願いしている。
二人が部屋を出たのを確認すると、私に向き直り、拙いながらもきちんとしたカーテシーをする。
「お呼び立てして申し訳ございません。本日は、こちらにお越しいただきまして、誠にありがとうございます」
おお、アホ転生ヒロインじゃない。
と、少し関心してしまう。
それに、こんなこと転生してないヒロインでもしたかどうか怪しい。
「いえ、本日はお招きありがとうございますわ。私、ミア・ウェンと申します」
私も、カーテシーを返す。
「私は、フェリーナ・ミルズと申します。……あの、こちらに来ていただけた、と言うことは、そういうことだと考えてよろしいのでしょうか??」
フェリーナは、カーテシーの姿勢を保ったまま、不安げにそう言う。少しプルプルしているのが、申し訳なくなる。
うん、辛いよね、この姿勢。
「そうですね。そう言うことです。……それよりも、座ってお話することにしましょう」
「あ、はい!そうしましょう!」
私の言葉に、フェリーナは少し安堵の色を見せて、姿勢を直す。私が座ったのを確認してから、自分も座る。それは、元々の性格故か、こちらの身分差に則ってかは、分からなかった。
それにしても、転生者と分かったら、そのまま「やっぱり貴女転生者だったのね!お話しましょ!」みたいになりそうなところを、こんな風にきちんと順序だてて話を進めるなんて、よっぽどきちんとした人なのか、警戒心が強いのか……。
「それで……?お話と言うのは……?」
話を促すと、彼女は少し緊張しながら、口を開く。
うん、やっぱりヒロインは可愛いな。
その上、性格も良くて周りとは違うってなれば、攻略対象がおちるのも頷ける。これは、まぁ……仕方ないのかなぁ……。
コントロール出来るもんじゃないからね。そもそも身分なんてものが厄介なわけだしね。
「はい、えっと……まず、私の話をしますね」
私はそれに頷き、これは話長くなるのかなぁと思い、紅茶が用意されたポットを手にして、カップに紅茶を注ぐ。フェリーナが、少し慌てたが、気にしないでと首を振って、話しを促す。
「私が前世を思い出したのは、14歳の時です。魔力暴走が起こった時に、その衝撃と共に頭に流れ込んできたのです。私はそのショックで三日ほど寝込んだらしいです。起きてからも、魔力暴走の恐怖と記憶の混乱で、整理するのに一週間ほどの時間を必要としました。幸い、表向きには魔力暴走が原因の療養となったので、そこまで不審に思われることはありませんでした。その後、少し性格が変わっても魔力暴走が原因……とみんなが思ってくれましたので、それも問題ありませんでした」
私は時おり頷きを返しながら話を聞く。そう言えば、魔力暴走って言葉だけ聞けば、それだけなんだけど、普通魔力暴走ってやつは、あれじゃないか?
ドカーンとかなって、周囲に被害を齎すやつじゃないか??
その辺、特にゲームで語られること無かったな。まぁ、主人公についてはそこまで掘り下げること無いしね。ただ、魔力を使うのが少しだけ怖いみたいな感じで、攻略対象と練習する、みたいなエピソードがあったような……。
「魔力暴走については、奇跡的に怪我人もおりませんでした。本当なら、多大なる被害が出てもおかしくはなかったのですが、私の属性が光だったらしく、魔力暴走で起こった被害は全て無かったことになったのです」
な、なるほど。
ドカーンってなったけど、光魔法のパワーも暴走して治癒とか再生まで力が働いた……って感じか。治癒ならまだしも再生なんて、とんでもないぞ。
「それでも、魔力を抑える魔法具と学園を卒業するまでは、いざと言う時のために監視みたいな人がついているそうです」
まぁ、当然の処置か。
でも、ヒロインの性格がそこまで暗くないのは、そういうことだな。被害があれば、普通ならもう少し怯えるし、自分に不安になる。でも、ゲームではそんなこと特に無いしな。
ま、あんまり引っ込み思案でも、話進まないしね。
んー、でも、監視付きの中、よく王族とか高位貴族の子息に近付けたなヒロイン。
やっぱりゲームはゲーム。
監視云々、無かったんだろうな……。
「監視は、面倒ね……」
監視付きって、気が休まる時無くない??
「うーん、私には気配も特に分からないですし、常に誰かが張り付いているわけじゃないので、窮屈さはさほど感じませんね。ふとした時に、気まずく思う時はあるけど。……でも、いざと言う時に何かの証人になってくれるかも知れないと思うと心強くもありますし……」
最後の言葉に引っかかった私は首を傾げる。一体、何を期待しているのか……??
「この学園で私の立場は、強いものでは無いので、何か罪を被せられたり因縁をつけられる可能性もあるので、そういう時に助かるかもしれないなぁってことです」
あぁ、なるほど?
「ところで、えーと、ウェン様……」
「ミアでいいですよ」
「ミア様……」
「周りに人がいない時は、呼び捨てで大丈夫ですよ」
「あ、はい。えとミアは、この世界についてどう思っていますか?」
それは、つまりあれよね?
乙女ゲームの世界か知っているか?ってことよね。まぁ、日本語の読める転生者だからと言って、みんながみんなそれを、知ってるわけじゃないからね。
超有名な漫画とかドラマじゃない限り。乙女ゲームなんて、そこまで、一般的なゲームじゃないし。
「私がやってた乙女ゲームにとってもよく似た世界だなぁと思っています。でも、題名とかは、よく、思い出せなくて。ただ、攻略対象と隠しキャラとぼんやりと話の流れを覚えているくらいです」
「やっぱり知っているんですね!私も題名とかは、思い出せないのですが、この学園の名前を聞いてそこに思い至りました。学園に入るまで、平民の私では王族である第二王子ルーファス様の名前しか確認出来なかったので、半信半疑でしたが、それを確認するためと推しに会うために、必死で勉強してこの学園に編入したんです!!」
私の言葉に、フェリーナは少し興奮したように、話した。
確かに、貴族である私ならば貴族の名簿等手に入るけど平民にまでそれは、手に入らない。よっぽど有名な人は、ウワサになることはあるけど、あくまでウワサだし、調べられて当主だろう。
だから、それを確認するためには、物語の舞台である学園に来なくてはならない。
例え、ゲームの内容通りになるかも知れなくても、気になるのは仕方ないだろう。私だって、チャンスがあるなら乗り込む。ましてやヒロインだし。
……高位貴族に絡まれる可能性と、バットエンドの可能性を考えたら、ちょっと悩むけれども……。
あと、たぶん、ジャックが言っていた通り、ここへの編入は決定事項でもあっただろうし、逃れられなかっただろう。
「それで、その……ミ、ミアの目的……は?」
おずおずと、不安そうにフェリーナは問う。
少し上目遣いなのは、計算か天然か。
うん、そんなに心配しなくても私、別に何も企んでないのに……。
なんで、そんな危険人物みたいな感じになったのかしら……。
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