38
つらつらと、失礼なことを考えつつ、マダムキラーに戦いてもいたのだけど、当のエリオネル君はやっぱりイマイチ分かってないのか、頭にハテナを三つほど浮かべながら、ケーキを口に運んでいる。
……やっぱり、エリオネル君は、奇跡のスルースキルを持ってるのかも知れないと、私は思わずため息を吐く。
「君にはそのままで居てほしくなるな……」
と、ぼそりと呟き、ため息を吐くのはフェリックだ。
多めの呆れと……後悔……?が混じるような態度。少しの期待、憧憬……?も見える気がする。
何か、誰かと重ねているように見える。
だから、らしくなく真剣なのかもしれない。
意外なところを見たと思う。
ゲームでは見られなかった一面に、何だか嬉しくなる。
これぞ、転生特典と言うやつじゃなかろうか。
例えヒロインじゃなくても、十分である。
むしろ、バッドエンドの心配も、その通りにしないといけないみたいな強迫観念も無いし、……つまりは、モブってラクでいいわね。よ。
バカにすることなかれ。
まぁ、でも私がヒロインになっても、ガッツが無いからダメな気はする。ヒロインみたいな正直さとか、優しさとか、清廉さとか皆無だし。だからと言って、腹黒くあざとくも出来ないし。たちまちモブになる自信あるわ。
悪役令嬢になっても同じかな。
死亡フラグ回避!って、必死になれるか自信ないな。
気高く完璧にとか無理そうだし、フラグ砕くのも自信ない。無自覚無双で溺愛とかも有り得ないだろうし。あれって、元々のコミュニケーション能力と頭の良さが必要よね。
無いわよ。
そんなの。
てか、なんで転生者はレシピなく料理とかお菓子作れんの??お菓子って特にグラム大事じゃない??すごくない?
それに、石鹸とか文房具とか。なんでそんなに、仕組みに詳しいの?!そう言う人に転生する権利が貰えるのね。きっと。前世頑張ったね特典的な。
そう考えると、納得と思う。
そうなると、なんで私が転生出来たのかは謎だけど、所詮モブ。神様の気まぐれだろう。便利な言葉ね、気まぐれ。
それで、貴族の娘になれたのだから、ラッキーと思う。
「そう言えば、僕、この前とっっても美しい人に会ったんですよ!さすが、王都にあるクロライト学園です!あんなに美しい人が実在するなんて、とってもビックリしました!!」
そう、嬉しそうに語るエリオネル君の言葉に、あら、誰だろう……?と思う。
イケメンも多いこの学園だけれど、もちろん美人も多いのですよ。
筆頭は、やはりソフィア様でしょうか。
「へぇ?それは、どんな人だったの~?」
あれ、フェリックは、それはもしかして、狙ってます?
どんな美女かって、期待してます??
「そうですね……。なんて言ったら良いのかよく分からないのですが、とっても高貴なオーラが溢れていて、とっても背が高くって……うーん、難しいですね……」
背が高いご令嬢ですか。
やはりソフィア様ですかね。
あ、クラリーナ様も背が高くてとっても美人さんですよ。騎士を目指している方で、こう、男装の麗人のような雰囲気もある素敵なお方です。道を踏み外すご令嬢が後を断ちません。もちろん、ドレス姿も似合う、ずるいお方です。
「あ!白金の髪がサラサラで、それがさらに現実離れしていてビックリしました!」
と、エリオネル君が言った瞬間、私とフェリックはピシリと固まってしまった。
何と……?
今、何て……??
「……エリオネル君……??そのお方とは、一体、どちらで、どのようにしてお会いになったのでしょうか??」
思わず敬語にもなりますわよ。
“美しい人”なんて言葉で、勝手に“美女”だと思ったのが悪いのだけれど、何故かそれは聞けずに、その時の状況を聞いてしまう。
いや、そちらも気になるけれど。
この子、何かしでかしてないわよね??
「……?どうしたんです?先輩??」
突然、敬語で話されればそりゃ、困惑しますよね。エリオネル君に逆に心配されてしまいまった。
「いいえ、ちょっと、ビックリしただけよ。そんな美しい方とどのようにしてお会いになったのか、気になって動揺してしまったのです」
「ミア先輩も、やっぱりそう言うの、気になるんですね!」
「ええ、そりゃぁ、人並みに」
「ふふ。えーとですね。この前、中庭を通り掛かったら、木の下で何やら困っている人がいまして、どうしたのかなーって、声をかけまして」
うん?
どこかで聞いたような話ね?
「そしたら、木の上にハンカチが引っかかってしまったみたいで。自分で取ろうとしてたみたいなんですが、やはり外聞が悪いので悩んでいたので、僕がとってあげたんですよ!」
エリオネル君は、楽しそうに話しているけど、私たちはそれどころじゃありません。
フェリックは、「何やってんだ、あの方は……」と、頭を抱えております。
それに、私もその話に言葉が出ません。
だって、それって、まるっきりヒロインのようなんだもの。
エリオネル君の役割は、完全にユリシリル。可愛い系の男の子が、男らしく木に登るなんて、言うギャップにくらっとくるシーンである。
いやいやいや。
なんで?
ヒロインじゃ、ないでしょ?その人。どうなってんの??偶然?
「木に登るのが良くないって、偉い貴族の方は大変ですね!」
これは、どう説明したものか……。
その人は、特別そう言うのを気にしなければいけない立場なのだけど。
うーん。
いや、確かに木に登るなんてのは、男女問わずはしたない、と言うか多分、登れない人の方が多いだろう。
登る必要が無いわけだし。
ほら、例えば、そこの頭を抱えてる人とか。
「……何か失礼なこと考えてそうだけど、俺、木くらい登れるからね?そこらのお坊ちゃんたちと一緒にしないでくれる?」
なんて、言われて驚く。
え?登れるの?なんで?
それに、馬鹿にしてるわけではなく。
って、そうじゃなくて。
それどころじゃないのよ。
「……他に何か話した?」
ふぅと、ため息を吐いてフェリックは問う。
確かに、それだけならなんの問題も無い。
……たぶん。
「……そう、ですね。とても感謝されたくらいでしょうか。僕よりも絶対、身分は高いのに綺麗な人は心も綺麗なんだなぁって、感動しました!」
そ、そうね。
立場的に、して貰って当然って感じでお礼すら言わない、なんてこともざらにあるわよね。……うん。
「あ、僕……名前も聞かなかったし、名乗りもしなかったんですけど、それってまずいですかね??」
「……」
その言葉に、私とフェリックは黙ってしまった。
どちらが正解だったかなんて、分からない。
とりあえず、言えるのはこの学園に白金……プラチナブロンドの髪を持つ人間はただ一人だ。
第二王子、ルーファス・ミスティア。
確かに彼は、高貴なオーラを纏っていて、背が高くて、それは美しい人である。
本来なら、気軽に話しかけて良い相手ではない。
まぁ、学園内のことであるし、不可抗力ではあると思うのだけど。
──エリオネル君、何でこの国の王子様を知らないのよ??
いくら田舎でも姿絵くらい出回っているでしょう?!
それに、プラチナブロンド及びブロンドは王家の色だなんて、一般的とも言える常識だと思うのだけど……どうして知らないのよ?!
大きな問題ではないけれど、……頭を抱えたくもなる。
閲覧ありがとうございます!




