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「……」
「……」
私は目の前に座る、困惑している少年を見る。
うん。
困ってる。
分かるわ。
私もよ。
そんな少年に、私も苦笑いを返すしか出来ない。
不甲斐ない先輩でごめんよ。
ここは、学園のカフェ。
辛い試験週間も終わり、一気に気の抜けた学園の中でも、一際賑わう場所である。
私はエリオネル君との約束通り、試験終わりに、ご褒美にケーキを食べに来た。
エリオネル君は、あの奢った日から来ていなかったようで、とっても嬉しそうであった。
私ももちろん、楽しみにしていたので、ウキウキしていたのだけども。
「何でいるのかしら?!」
我慢出来なかった私は、ジロリとこの気まずさの原因を睨みつけた。
「え?たまたま?」
きょとんとこちらを見る姿に、腹が立つ。
いやホント。
わざとなのか、素なのか分からないところが腹立つ。
いや、たぶん、絶対、わざとだけど。
「いや、一緒に居たご令嬢はどうしたのよ。デートだったんじゃないの?そちらを優先すべきでは?」
むしろ、そちらに行けよと願いながら、気まずさの元凶に視線を送る。
エリオネル君とカフェに来て、注文を済ませて、待っている時に、廊下を歩いていたフェリックが居て、何故かこちらにやってきたのだ。もちろん、女の子と一緒に居たと言うのに。
だから、ちょっと話してすぐ戻っていくと思ったのだ。
意味分からないし。
けれども、しっかり席に座ってくるし、メニュー広げて追加注文始めるわで。
私とエリオネル君は、ただただ困惑して彼の行動を見てるしかなかった、と言うわけなのだ。
エリオネル君に至っては、未だ彼が何者か分かっていないから、申し訳ないと思う。
廊下に近い席に座っていたばっかりに。
「デートよりも楽しそうだなぁって、来ちゃった」
来ちゃった。
じゃないよ。
突然、家に来る彼女か!
普通に連絡して!
普通に迷惑!
「それとも、デートだった?俺、邪魔?」
先程までのふてぶてしい態度から一転、おろおろとシュンとしてしまう。
止めて。
そんな、捨てられた子犬みたいな反応しないで。ホントずるいわ。あざといわ。
人間のポイントを知り尽くしてて怖いわ。この人。
「で、デート?!」
フェリックの言葉に反応したのは、私ではなくエリオネル君。
“デート”と言う言葉に困って本気でオロオロしています。
うん、これが天然のオロオロね。可愛いわ。
ごめんね。
ホントに。
「いいえ。ただの勉強お疲れ様会です。デートだなんて、エリオネル君に失礼ですわ」
「ふーん?」
フェリックは、探るようなとも興味無さそうとも言える調子で、こちらを見る。
……あれか、私がこんな可愛い子とカフェに居るのが、意外だって言いたいんでしょ!私もね、意外だと思う!
でもね、うっさいわ!私にだって可愛い友人の一人や二人いますのよ!ナタリーとかハンナとか!ナタリーとかハンナとか!
……ん?ジャック?あれは、友だちだけど、可愛くはないわね。薄目で見たら格好良いと言ってやっても言いとは思うけど。
なんて、つらつら考えていたら、
「お待たせ致しました!」
と、私とエリオネル君の分のケーキが、運ばれてきた。
試験後、2週間ほどの特別メニュー、試験お疲れ様メニューである。
ワンプレートに、5種類もの小さいケーキが盛り合わされている贅沢セットである。種類は試験の度に変わるので、その時しか食べられない労いメニューなのだ。
考えていたことも、全部吹っ飛ぶくらいの威力はある。
「ぅわぁ!ウワサに聞いてましたが、これは最高のご褒美ですね!!」
エリオネル君は、気まずさをすっかり吹き飛ばし、ケーキに夢中である。キラキラとした視線がケーキに向けられている。さすが。
「そうよね!このために頑張って勉強してると言っても過言ではないレベルよ!思う存分堪能しましょう!!」
私も面倒は無視して、ケーキたちに視線を向ける。
うん、美味しそう。
そして、可愛い。
そして、色んな種類が食べられるっていうのが良い。最高。
「いやいやいや、世界入んないでよ。ちょっと、普通、俺の分待ったりしない?」
「する必要が感じられないわ……」
冷ややかな視線を送り、にっこりエリオネル君に笑みを向け、「遠慮なく食べましょ!」と、フォークを持つ。
なんで勝手に乱入して来たやつのことまで考えて、行動しなきゃいけないの?合わせる必要は何処に??約束もしてないのに。
「……あの、先輩の……彼氏さんですか?邪魔なのは僕の方じゃないですか??」
と、フォークを持ちながら、こそりとエリオネル君が言うから、私はキョトンとしてしまった。
彼氏?
からす?からし?
……カレシ?
誰が、誰の??
どう見たらそうなるのかしら?
まさかこれと?
いや、釣り合わないでしょ。
めっちゃうける。
「そんなわけないじゃない!……私、不特定多数の恋人が居る恋人は、嫌だわ……」
いけない、つい本音が……。
「はは。厳しいねぇ」
「本音が出てしまいました」
いや、ホントに。ビックリするほどなめらかに、飛び出ましたよ。
嫌味でもなく。
「それフォローになってないからね?」
「フォローする気ないですからね。事実ですし」
「それは、痛いね。でも、事実であれば、許されるわけではないよ?」
「フォローされたいわけでもないでしょう。隠したいなら、もっと上手く隠せるでしょう??」
私の言葉にフェリックは、ため息を吐いた。
「鈍いわりに、変なとこ鋭いよね」
との呟きは首を捻るしかなかった。
動きか?鈍いって動きか?
まぁ、得意な方では無いけどね!
でも、ダンスだってちゃんと踊れるし(幼少期からの積み重ねのレッスンの賜物)、最低限の護衛術だって出来るもん。
……と、エリオネル君が相変わらず、困ったようにこちらを見ている。うん、知らないふりでスイーツを食べる空気じゃ、ないわよね。ごめん。
えーっと、この人。
とりあえず、エリオネル君に紹介して気まずさを解消して、ケーキを食べねば!と、思い……はたと困る。
この人、なんて説明すればいいのしら?
“友人”?“知り合い”?“クラスメイト”……じゃないしなぁ。
あ。
「あのね、エリオネル君、この人は、“先輩”のフェリック・ジェラルド様ですよ」
先輩と言う便利なワードを見つけ、紹介することにする。事実だし、相手との距離感を気にする必要のない素敵ワードです。
「ジェラルド……名門伯爵家の……あ、あの!僕は、エリオネル・ザビニと申します!!どうぞ、エリオネルとお呼びください!!」
エリオネル君は深々、頭を下げます。
でも、私と会った時よりも随分、落ち着いているようです。少し、慣れたのかもしれませんね。
ジェラルド家と言えば、建国から代々続く歴史ある名家なのです。うちの伯爵家とは、全然違うのですよ。
それなのに、こんなに落ち着いて……成長したのねと、感動してしまいます。
「フェリック。俺のことは“フェリック”と呼んでくれ」
顔を上げたエリオネル君に、フェリックは、そう告げる。
その言葉に、アルバートが『フェリックは、家名で呼ばれることを何より嫌がる』と言っていたことを思い出す。
とても、自然なやり取りなように見えるけど、ほんの少し被せるように言ったのは、家名で呼ばれるのを避けるためなんだろうかと、ぼんやりと思う。
ますます、名前が呼びにくくなってしまった。いざと言う時、なんて呼べば良いのだろうか。
「ねぇ、デートじゃないならさ、俺もご一緒して良いよね??」
にこにこと無邪気を装って、フェリックはエリオネル君に尋ねる。私では無く、エリオネル君に許可を得ることにしたようである。
……はぁ。
もう、大人しくケーキ食べるしかないわね。
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