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「大した情報は無いよ」
ふぅと息を吐いて、ジャックは続ける。
「ふつーの一般的な家に生まれて、ある日突然、魔力に目覚めて、魔法学園に編入になって……その時点で、この学園に来ることは決まってたみたいなんだけど、1年でそれがかなったのは、彼女の努力の結果じゃない?」
思ってるより詳しいし、学園に来る前の話を知ってるのは何でなの?!
「そんで、現在も真面目に勉強に励んでるみたいだし、何か目標でもあるのかね?まぁ、この学園をいい成績で卒業出来たら身分なんてものは、関係なくいいところに就職出来るけど」
まぁ、それが目標でしょうね。
せっかくなら、普通より良いところに就職したいと言うのは当然。貴族の愛人として過ごすよりずっと健全だし。
適度に相槌を打ちながら、話を促す。
「まぁ、その姿が健気で可愛いと男子の中では話題なのが、問題かな?自分から男子に近づく様子も、高位貴族の女子に近付く様子も無くて、そういうところもポイント高いって。たぶん、彼女としては、目を付けられて虐められたりしないようにって、ちゃんと考えてるからだと思うんだけど、それが余計に……ね」
「うわぁ」
編入してすぐの時に、彼女のクラスについて聞いた時のような声が出た。
「男って何でそんな馬鹿なの」
つまり、彼女は何やっても“可愛い”ワケだ。
ヒロイン……強い。
積極的に話しかければ、そのまま落とせるだろうし、弁えて話しかけなくても、男は虜である。すごい。
「うん、まぁ……その通りとしか。でも、彼女に積極性があれば、警戒した男子は多かったとは思う。でも、そんな様子はほぼ無いから、すっかり警戒心が薄れちゃって。どころかマジになりかけてるアホが数人居るっぽいね」
「結局、彼女はどうするのが正解だったのよ……」
と呆れてしまう。
「どうしようもないとしか。そもそもクロライト学園に来た時点である程度は、覚悟しないと……。仕方ないとしか言い様がないよ」
「そりゃぁ、そうだけれど。出来れば穏便に済めばいいなーとは思うわけじゃない?」
始めに“関わりたくない”と切り捨てた私が言うのも何だけど。それなら、悪役令嬢も救うべきではあるんだけど。
「うーん、どっちにしろ難しいんじゃない?男女問題があっても無くても、中間の試験結果が出れば、きっと彼女は注目されたはずだ。最悪、嫌がらせも増えるかもしれない」
「まだ、試験もしてないのに試験結果の話って……」
「人の嫉妬は恋云々以外にも存在するってこと」
まぁ、確かにジャックの言う通り、プライドの高い貴族が、平民に成績で負けたとなれば、恥と考えることも無くはない。加えてあの容姿。女ならさらに嫉妬が増すし、男ならさらに侮りたくなって怒りが増す。
なるほど。
ゲームでの嫌がらせはそう言うの類いの物もあったのかも知れない。いや、どうだろう。乙女ゲームだしな。うーんと、悩む。難しいとこりである。
「つまり、現在の状況は、かなり悪いの?もしかして?」
彼女はなにも起こしていないと言うのに。
攻略対象に接触してないし、他の男子生徒とも必要以上に仲良くやってる様子も無いだろうと言うのに。
浮かれて声かけまくっての嫌がらせなら、すこーし自業自得なところがあるから仕方ないって思うのに。何もしてないと言うのに、嫌がらせされるって、何とも理不尽としか言いようがない。
だからと言って、態度についてはどうにも出来ないし、というか十分大人しくしている感じだし、成績についても、わざと悪くなるようになんて言うのは無理だろう。普段真面目に勉強しているみたいだし。目標もあるみたいだし。
何とも理不尽である。
「いや、やっぱり下手な高位貴族と関わるよりはマシだと思うけど。その子にとっても国にとっても」
わりと冷静な声で告げるジャックの意見になるほど、と思う。
確かに、乙女ゲーム通りになれば、“国”の問題になるもんね。逆ハーなんて言ったらそれの最たるものだし。
「それと……心配なのは、今のところ彼女が仲良くしてる友人たちの爵位は、高くないってとこかな。所謂、庶民に近い男爵家の子が多いみたいだな。後は、大商人の娘が居るけど、かなり変わり者で有名で、貴族からの評判も良くない」
「つまりは、いざと言う時に盾になってあげられないってわけね」
「そ、流石鋭いな。でもなー。女同士でも嫉妬なりなんなりあるわけだから、やっぱり近付くのは難しいだろうけどな」
そうなんだよね。
いくら本人が、身分関係なく仲良くしようって思っていても、侯爵家以上の方々は周りがそれを許さなかったりするのよね。
自分たちの見栄のために、自分たちの、トップには高貴で居て欲しい、そんな下々とは話さなくても良い……みたいなね。もちろん、本人がそう言う性格のパターンもあるし、取り巻きのことなんて、どうでもいい。むしろ、邪魔だわなんて言うパターンもある。
まぁ、身分が高くても色々大変なのよね。色々。
「うーん、ソフィア様はどうなのかしら?彼女に対して何か思うところがあったりするのかしら?」
たぶん、ヒロインのクラスでの女子のボスは悪役令嬢だ。つまりは、彼女の意見は結構重視されるだろうし、クラスの雰囲気にも繋がる。彼女が、ヒロインを嫌がる素振りを見せれば、そういう雰囲気に繋がっていくのだ。
ソフィアのためにと言う大義名分で。
たぶん、ヒロインがされていた嫌がらせのうちの何割かは、悪役令嬢が関係していないものもあったんだろう。今の悪役令嬢を見ていたら、そう思う。
いや、ヒロインがルーファスに近付いたら、どうなるかは、分からないけれど。
「特にどうということも無さそうだな。シュトロハイム家は、貴族至上主義と言うわけじゃなく、領民を大事にするって代々評判が良いはずだし。だから、庶民だからって、バカにすることもないと思うよ?」
悪役令嬢が全然ゲームの設定と違うじゃん。と改めて思いながらその意見には賛成なのでうんうんと頷く。
つまりは、ヒロインがルーファスと近付かなきゃ、彼女は味方になってくれるかも知れないと言うわけだ。
やっぱり、ここはゲームと似ている違う世界なのだろうなと思う。
「それに、彼女が“フェリーナ・ミルズ”さんに嫉妬する必要も無いだろうし」
「……?」
「え?だって、彼女くらい美人なら他を羨む必要無くない??」
私が首を傾げたのが心底不思議だ、と言うように、ジャックは、その発言の理由を述べる。
なるほど。
確かにそうかも知れない。だけれど、人は誰しもコンプレックスというものがあるかも知れなくて、それは本人にしか分からないものだったりする。
そして、たぶん、悪役令嬢にとって、ヒロインは、コンプレックス的な部分を刺激する容姿をしているのだと思う。無意識的な部分で。
ソフィアとフェリーナは、美人のタイプが違うのだ。
ソフィアは近寄り難いタイプの正統派美人。
フェリーナは、庇護欲そそるタイプの可愛い系美人。
悪役令嬢だけあって、ソフィア様は、こう迫力のある顔なのだ。ツリ目がちの目と長年の淑女教育の成果で、表情があまり動かないせいで。
大してフェリーナは、タレ目がちのぱっちりした目で、感情豊かに話す。感情を隠すとかそんな必要が無いので、それを意識する必要も無い。
大口を開けて話さないとか、大声は禁止とか、そう言うことは注意されるけど、さすがに貴族の学園に通うってだけで、感情を表に出すのははしたないとまでは、教えられない。まぁ、分かりやすすぎるのは、危険だってことくらいは教わるかもしれないけれど。
とまぁ、そんなわけなので、ソフィア様が美人だからと言って、フェリーナに嫉妬しないと言うわけではないと思うのだ。
「乙女の心はそう単純じゃないのよ。馬鹿ね」
私は、呆れた視線をジャックに送る。
こいつアレだわ。
綺麗になろうと努力してるのに、「必要無くない?」とか言って、気を削ぐタイプよ。
「十分綺麗なのに?」とか、違う言い方ならまだマシなのに、下手な言葉で拗らすタイプよね。
乙女心をまるで分かってない。
残念すぎる。
やっぱり、安心安定の男だわ。
ジャック。
なんて、変なところで感心してしまうのだった。
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