30
「そんな勘違い出来るほどの要素がないと思いますわ」
笑ってしまった私に面食らってるアルバートに、我に返ると、んんと、咳払いをして気を取り直し、告げる。
私を名前で呼ばない……そんな微妙な要素で浮かれろって言う方が無茶だ。
『恥ずかしくて私の名前呼べないのね!照れ屋さん♡』なんて、思うわけもないし、そんな人じゃないとも思う。恥ずかしげもなく色々、言ってのけるし。
「そう?……まぁ、そうかもね……」
「でしょう?ですので、私のことなどそれだけどうでも良いのですよ」
分かってくれたことに安心して、私はにっこりそう言うと、食事に戻る。
食べないと、時間が無くなってしまう。腹ぺこで午後の授業を受けるなんてごめんだ。
正面を見れば、何故か微妙な顔をしたナタリーが。
んん?
どうしたと言うの?
首を傾げれば、呆れたようにため息を吐かれてしまう。
えええ?
私が何をしたと言うの?!
もしかして、この状況??
私、悪くないわよ!
私から声をかけたりなんかしてないんだから!
どっちかと言うと、私が騙されている気分なのよ?何の罰ゲームなのかしら?と疑問に思うくらい。
それ以上、アルバートからは、それについては追求が無く、当たり障りのない会話にシフトした。去ろうとしていたナタリーを引き留め、三人でランチを終える。
謎だ。
チャイムが鳴り、解散……となったところで、
「これは俺が片付けとくから、先教室戻ってなよ」
と、アルバートはにっこりとそう告げる。
「いえ、そこまでしてもらうわけには……」
と、断れば、
「君たちが女の子だってこと以上の理由は、無いけど?」
なんて、返ってくる。
強い。
タラシ強い。
フェリックもそうなんだけど、何なんだろうその気遣い。それくらい出来るよ?苦でも無いよ?
……これは、モテる。
騙されても良いってなるな……。
すげぇ。
と、いつも思う。
「では、お言葉に甘えて!」
と、ナタリーはあっさりと立ち上がり、『ミア行くよ!』と声をかけてくる。
「あの、では、すみ……ありがとうございます……」
すみません、と言いかけてお礼を述べる。
『こういう時は、“ありがとう”の方が嬉しいんだけど?』と言うフェリックの言葉を思い出したから、ではなく……その方が正しいと思ったからである!
私が立ち上がったのを確認すると、ナタリーは歩き出す。私はもう一度、軽く礼でもして去ろうと頭を下げる。
その瞬間、人が近付く気配がして、動けなくなった。……考えるまでもない、間違いなくアルバートである。
「次に会った時、同じことを言えるか、楽しみにしてるよ」
耳元で囁かれ、頭が真っ白になる。
すぐに気配が離れ、「ほら、友人が呼んでるよ」なんて、何事も無かったように言われても困る。
左の耳を咄嗟に抑え、何も言えずに俯きながら、逃げ去るしかなかった。
頭は真っ白だけど、間違いなく顔は真っ赤だった。
──攻略対象、恐るべし!
*****
後から考えると、あのシチュエーションは、ゲームでのものとよく似ていた。
配役がフェリックからアルバートになっているけれど。
食堂で『隣、いいかな?』と、話しかけられ、「どうぞ」と答える。
それから、『アルバートが、夢中の女の子が居るって言うから気になってねぇ』とか何とか言われて……。
こいつら、行動パターン同じかよ!仲良しか!それでよく今までトラブルにならなかったなぁ……と思う。
……。
それで。
フェリックの場合は、『可愛いねー。俺も気になっちゃった!』とかなんとか言われちゃうんだよ。
それで、絡まれるはめになるんだよ。
困ったことにフェリックに良い態度を取ると、アルバートの好感度が下がってバッドエンドに向かうのよね。本当に迷惑だった。
その上、良いタイミングで現れるから、こう……グラッと来るように出来てるのよ。ずるくない?ずるいわよね?
そのくせ、隠しキャラでもないのよ?
同じ役割の公爵子息は隠しキャラなのに!
マジで意味不明なキャラなのよね。
……と言うか、このゲーム、隠しキャラのチョイスが謎だと思うのよ。
シルヴァンの弟なんて、本編出てきた?!って感じだし、年上キャラ必要とは言え、教師のバーナードもこれと言って目立たないし。いや、優しくてキュンとくるシーンは、多々あるのよ?相談出来る頼りになる年上って感じで。ファンの人ごめんねって感じなんだけど、でも、ぶっちゃけコナーとかフェリックのが人気だと思うのよ。
……いや、フェリックが人気なのはあれだけど。違う方向だけども。
そうなるとあれなのかな。攻略出来ないからこそだったりするんだったら、それで良かったと言うことなんだろうか。どうなんだろうか。
二次元ならこう、ありっちゃありだけど、本人を知ってしまった今、その事実はあれだな。重いわ。こう、しまっておきたいわ。何でそんなことは、覚えているのか。辛いわ。
どうせなら、他の便利知識を思い出したいわ。
……醤油の作り方とか。
原料が大豆ってことしか覚えてない……というか知らないのね。きっと。醤油……作れれば、世界の食事情を牛耳れると思うのよね。いや、そんな大役いらないけど。
──あぁ、お米食べたい。
閲覧ありがとうございます。




