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「まぁ、スパイが自分からスパイだなんて言わないしねぇ」
私の言葉に、アルバートはにやりと笑いながらそう返してくる。
なぜ、私がスパイだと言う話に……?
話の方向が、とんでもない方に行ってしまったと思う間にアルバートは、話を続けてしまう。
「でも、特別なこともなさそうなんだよね。それが逆に怪しかったり?まぁ、どっちにしろ気になるよね」
んんん?
とっても嫌な予感しかしないわ。
「怪しまれるようなことは、1つもありませんが?」
……たぶん。
「そう?フェリックが“気にしてる”ってだけで十分、気になることだよ」
そう言われると辛い。
ただの気まぐれでしかないのに、迷惑だ。
「ジェラルド様が“気にかけている”女性など山ほどいらっしゃるでしょう」
だから、特別私を気にする必要などないはずだと思いながら言えば、アルバートは意外そうに眉を上げた。
何がそんなに意外だったのかさっぱりである。
フェリックの周りに、女の子が居るのは風景の一部のごとく当たり前のことだ。今さらそれを不思議に思うわけもない。私がそれを指摘したことが意外だったのだろうか。そこまで、身の程知らずに見えただろうか。……見えただろうな。
「それ、フェリックが許したの?」
「……?」
怪訝そうに言われたことの意味が分からず首を傾げる。それ……とは?
「名前……」
「名前?」
名前なんて言ってない。
そんな親しい間柄でもないのに、下の名前で呼ぶなんて有り得ないことだ。勘違いされては困るので、ファーストネームで呼べと言われても断固拒否するレベル。
まぁ、普段名前を呼ぶ機会など無いので、そんなやり取りすらしていないのだが。
「フェリックは、家名で呼ばれることを何より嫌がる。結構、有名な話だけど、知らないの?」
「し、知りませんでした」
そんな話、聞いたこと無いし、ゲームの設定でもあったか謎だ。覚えていない。しかも、普通、逆では?
「うーん?最初に名前で呼べとか言われなかった?」
そう聞かれて、思い出そうとするが最初って……?と疑問に思う。
会った時と言えば、そんな和やかに『俺のことは〇〇って呼んでね☆』みたいなやり取りが起こる感じでも無かった。
その後……と、考えるとその機会はあったように思うけど、そんなやり取りをした記憶にない。私もフェリックのことは名前で呼ぶことは無いし、フェリックも私のことを呼ぶことは無い。“君”だ。実に雑な扱いだ。
だから、そんな勘繰るような間柄では無いし、なることもないと思う。
「いえ……」
そう言って、首を振ればアルバートはますます不思議そうに首を傾げる。
「……じゃぁ、君のことは何と?」
「?……特には。“君”とかですかね?……その、ですから貴方が、心配するような感じでは無いので、名前で呼び合うことも無いのですよ」
そうでしょ?
お互いに名前すら呼ばないし、そんなことを話したこともないなんて、思えばそれは知り合い以下では無いだろうか。
それともあれか、知り合い以上ではあるけど、タイミングを逃して、今さらなんて呼んでいいか分からない状態的。うん。それに近いかな。
そして、私はそれを聞いたらなんて呼べばいいのか分からなくて、余計にプレッシャーがかかる。
ファミリーネーム禁止って、難易度高くない??
いきなり名前で呼べと?失礼すぎるでしょ。
『君に呼ばれる筋合いは無いよ』って、にっこり笑われる気しかしないんだけど。
普通に傷付くわ。
「と・く・に・は?本当に?あいつが?」
驚いたように聞かれるが、事実は事実。ウソを吐く利点もないので、頷くしかない。何をそんなに驚くことがあるのだろうか。名前を呼び合わないほどの関係ってあるでしょ?……無いの?普通、無いの?
私がコミュニケーション下手なだけ??
「君、実は男とか言う?」
は?
「いえ。一応、生まれた時から女ですけど。……そう見えます?」
地味だし、美人でも可愛くもないとは思っていたけど、男に思われるほどとは思っていなかった。……普通に泣くぞ。
「いや、見えないから困ってる。はー、マジか。ちょっと、これ想像以上だわ」
何のことかさっぱりだけど、“男に見える”の部分は、否定されたので安心した。女子の制服着て、髪も長いのに、男に見えていたら相当である。たぶん、男子生徒だって女子に見えるはずだ。だから、否定されて良かった。ホント、良かった。
……これ、聞いていいやつ?
面倒なやつ?
ほっとくやつ?
そう思いながら、ナタリーを見れば、首を振って『分からん』と伝えてくる。うう。
そして、順調にランチを食べ進めている。逃げる気だ。この前みたいに。私の視線に気付いたナタリーは、『当たり前でしょ』と、小声で呟きにっこりと笑う。
……まぁ、私も逆だったら、そうするけどね。
はぁ……。
未だに私とランチを食べに来てくれるだけ、有り難いと思わないと。フェリックが来るかも知れないと言うのに、付き合ってくれるのだから、十分に優しいのだ。来たら、すぐ逃げるけどね。
それでも、一人でご飯を食べる羽目になるよりもマシだ。逃げた三日ほど、虚しくてしょうがなかったよ。それもあって、早々に諦めたんだけどね。
情けないことこの上ない。
「へぇ。あいつがねぇ?そんなことあるんだな」
???
頭の上に、ハテナを三つほど浮かべて私は首を傾げる。
聞いていいのか分からないので、態度で示すと言うやつだ。教えていい話ならそれで、何か言ってくれるはずだし、ダメならはぐらかされる。それは、面倒なやつだから、掘り下げない。それでおしまいにする。
「あぁ、ごめんね。……あいつってね、女の子のことは、基本的に名前で呼ぶの。“君”なんて、ほとんど使わないし、使っても“貴女”かな?だから、珍しくって」
それは……周りの女の子のような扱いをするほどでもないからでは?
と、すんなり私の中で答えは出て納得してしまう。初対面から“君”だったし、状況的にそれ以外使いようが無かっただろうし、未だにその延長なだけだろうと思う。
考えているような特別性はどこにもない。
というより、普通逆では?
それに、結構周りに女の子いたけど、間違えもせずに名前呼ぶの?凄くない?間違えたら修羅場よ?私なら極力呼ばないようにするわ。すごい記憶力と、逆に関心してしまう。
やっぱりモテる男はそれだけの理由があるわよね。美人が一日にしてならず、なように。
「つまり、丁重に扱うほどでもない、と言うことでしょう?なので、深く考えすぎない方が良いと思いますが……」
「君はもしかして?と思うことは無いの?」
「もしかして……?」
とは?
「こんな風なことを聞けば、もしかして自分は彼の特別かも♡なんて、思うのは、仕方ないと思うけど?」
「私が?」
そんな馬鹿な。
百戦錬磨のあれが?
私ごときを、特別?
ありえなすぎて笑ってしまう。
ヒロインならまだしも。
ありえないでしょ。
思うのは、それだけ私がモブなんだなーって再認識するくらい。
逆なら少しくらい思うかもしれないけど。私だけ名前を呼ばれて、特別な呼び方を許されて、とかだったら、うっかり自惚れちゃうけど、今回の場合のどこに自惚れ要素が?
名前すら呼ばれないし、どう呼んでとも言われていない。それを考える必要が無い=どうでもいい……でしょ?
違う?
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