27『彼女がしることはない話』
ジャック視点よりの三人称表現です。
後半、視点がフェリックに移ります。
「……君は、男女の友情とか言う幻想を持っちゃってるタイプ?」
『それでも、そんなことは言えないな』
……そのジャックの返答に、フェリックはため息を吐き、苦々しい表情を隠しもせず、そう言った。馬鹿にしているのが、ありありと分かる程で、フェリックにしては、少し珍しい態度だった。
……何があったと探る必要も無い。
整った顔立ちに、それなりの家柄。幼い頃から女子がほっとくわけもなく、友情なんて生まれる隙があるわけがない。
オマケに、フェリックの周りの友人もとびぬけて顔立ちが良く、注目を浴びる存在のため、似たような状況で、男女の友情がマボロシでしかないと思うのも無理はない。
そんな環境に無かったのである。
自分を知らないか、自分を狙っているか、白か黒しか無かったのだ。
彼らは、それを躱すか跳ね除けるか、上手く利用するか、楽しむか、しか無かったのだ。
そんなわけで、フェリックは、男女の友情云々がとても嫌いだ。そんなものは、存在しないとハッキリと思っている。そもそも“友情”なんてものは、同性ですら危ういものであるのに、男女。……有り得ない、と言うのが感想だ。
ジャックとしては、そうしたフェリックの事情も考えも仕方ないなと思うものの、個人的には、男女の友情は無いことも無い……とは思っている。ただ、深追いはしないと言う条件付きで。
果たしてそれは、友情か?と問われれば、難しいところだとも思っている。
まぁ、かなり儚いものであるのは確かだ。結局、気持ちなんてものは簡単に変わるのである。
「いや?さすがにあんたに向かってそこまで甘いことを言うつもりはないよ?ただ、俺みたいなやつには、あるっちゃあるの。……友情ってやつ」
なので、否定はしないように、こちらの意見をやんわり伝えてみる。
そもそも、自分と相手には、顔面の差が存在するので、女子の態度がそもそも違うのだ。そう簡単に恋には落ちない。落ちてくれないのである。友情云々の見解の差は当然と言える。哀しい現実である。
「……それは、そう思い込みたいだけじゃないのか?」
「そうかもね」
分かり合えるものでは無いので、ジャックは適当に返す。
確かに、思い込みたい部分もある。だからウソも吐けなかっだわけだし。
まぁ、でも、哀しいでしょ。ゼロか恋しか無いなんて。そんで、恋なんてものになったら、それこそゼロかヒャクか。
……そんな危ういものよりも、このままの方がよっぽど良いのだ。友人と言う便利な関係が。
それ以上は、要らない。手に入れたいとも思わない。
それよりも、そうだな……こうやって、面白いことを連れてきてくれるのを、近くで見ていたいとジャックは、思う。
もしかしたら、いつか後悔するかもしれないけど、今のところ、誰が隣に居るのを想像してもちっとも気にならないのだから、強がりではないだろう。
「でも、それで良いんだよ。今のところ、困っていない」
「……俺としては、わざわざ俺に言いに来るソレが、友情だとは思えないけど」
ジャックがにこり告げれば、フェリックは呆れたようにそう指摘してくる。
それについては、どうなんだろうと考える。
自分の行動は、そんなに変だろうか。わざわざ注意しに行くのは、恋故以外にないのだろうか。
無い気がしてくるが、相手によるのではないかと言う気がして、ジャックは希望が沸いた。確かに、相手がこの人じゃなければ、こんなことはしない……面倒だし、と、自分の前に座る男を見る。
無駄に長い足を組む姿が、実に様になっている。たぶん、ソファにだらしなく座っていたとしても、絵になるだろう美貌を備えている。どう見てもモテしかない。実際、モテてるし遊んでいる。ウワサだけでなく、事実だ。
さすがにポイ捨てとか言う酷いウワサは、聞かないけれど、好きになってもロクなことにはならなそうなイメージしかない。
女癖云々抜きにしても、あまり良い性格とも言えないし。いや、女子には違うかもしれないけど。
うん。普通に心配になる。
俺、悪くない。
考えて自信を持ったジャックは、
「人によるでしょ。あんたじゃなきゃ、俺は何も言わない」
と、大分失礼なことを言う。
「心外だなぁ。俺は、そんなに悪人?」
けれども、フェリックは怒った様子も見せずに、茶化すように笑う。
「……弄んで捨てるな、と言いたくなるくらいには」
「俺、遊んではいるけど、弄んだことはないけど」
「それは、当人の捉え方によるかと」
「……」
「自分のウワサとかイメージは、一番よく知っているはずじゃない?まぁ、俺はウワサしか知らないわけじゃないけど。でも、だからこそ心配にもなるわけで。だから別に、そこまでの熱があっての行動じゃない」
フェリックは、じっと探るようにジャックを見る。
ウソも通用しない男に表情を伺われるのは、居心地が悪くて仕方ない。何もかもを見透かされる気分になる。……いや、気分ではなく事実、か?
「はぁー。はいはい、俺が悪いわけね?あの娘は、お前の友人だって言うのを、しっかり覚えておけば良いわけでしょ?」
しばらく、そうしていて、やがて呆れたようにため息を吐いて、半ばやけくそひ気味にフェリックが言い出す。一体、彼の中でどういう結論に達したのか、ジャックにはさっぱりである。
「いや、それも、そこまで言ってないな。ただの純粋な興味だとしても、“本気”だとしても、“本気”になったとしても……手加減してやってくれってとこかな」
「……十分、面倒な要求だと思うし、わりと必死だね?」
「それよりも、俺は結局どこまで本気なのか、気になるね」
その問答を続けるのは、面倒な気しかしないので、意趣返しとして言ってやれば、フェリックはそれはそれはにっこりとした微笑みを返してきた。
逆に怖い。
「さぁね?」
有無を言わさない圧力を感じる笑みだ。
それ以上の質問は不可。下手な詮索も許さない。言外にハッキリと、そう告げられる。
うわぁ。
ホント、あいつ何したわけ。
これ無理でしょ。ご愁傷さま。
ジャックは、友人に両手を合わせたい気分にかられながら、引き攣った笑みを返していた。
事態はジャックの想像以上だ。
ほんのじゃれる程度だと思っていた。強者の気まぐれと言おうか、そんなもので、何が始まることも無いだろうと。
そう簡単にロマンスが始まるような相手なら、もうすでに何冊か出るくらいの出会いはあっただろうに。
この人も、人の子だったんだなぁ……なんて、失礼なことを思うジャックであった。
そう、似たようなことなら何度かあった。
その度にされたこの手の質問へのフェリックの答えは、ほぼ同じ。
『そうだといいね』
それが。
あの反応である。
それに、どんな意味があるのか分からないけど、いつもとは違うと言うことはよく分かった。
──ウソ吐かなくて良かった……と、ジャックは心の底から思った。
*****
「ウソを吐いてまで護ろうとするのと、護りを捨ててまで、ウソを吐きたくないって、どっちの方が相手に対して愛があると思う?」
苦笑いを浮かべながら、その場を去ったジャックを見送り、フェリックは尋ねる。
近くで楽しそーに、聞き耳を立てていた友人に向けて。
「それはまた難しい質問だね。俺には何とも言えないかな。それに、ただウソを吐きたくない正直者かも知れないし」
フェリックの呟きを、問い掛けと正しく理解し、そのことに驚いた様子も見せず、男は苦笑しながらジャックの座っていたソファに腰掛ける。
「答えた人物を知っているのにそれを言うのか?」
「俺はあくまで、その質問に対しての一般的な感想を述べただけだからね」
にこりともせず返してくるのが憎たらしい。
「っとに、性格が悪い」
と、フェリックが呟けば、相手は「貴方には言われたくないなぁー」とにやつく。
フェリックは、自分の性格が悪いことは十二分に理解しているが、目の前の男には言われたくないと心底思う。
自分はよく、何を考えているのか分からないとか、敵に回したくないとか言われるが、フェリックは、こいつこそがそうだと思っている。
何を考えているのか分からないと思わせないところが、何よりも怖いと思うし、誰よりも敵に回したくないとおもうところだ。味方にいても落ち着かないとさえ思う。
フェリックは、思わずため息を吐く。
「で?どう言って欲しいの?……愛がありそうだから、止めといたら?って?……言うわけないよね。そんなこと誰にも計れやしないのに」
本当に、こいつの言葉は容赦ない。
話す相手を間違えたとしか言いようがない。
「貴方は否定するけどね。世の中、愛なんて物にはいくつも種類があるんだよ。だからね、そんな質問がそもそも無意味」
耳が痛い。
「それに、気付いて無いだろうけど、そうやって誰かに止めて欲しいとか、邪魔して欲しいとか、そう思う時点で、普段のフェリックじゃ無いからね」
あぁ、本当に話す相手を間違えた。
その紫の瞳で、何処まで人を見透かすつもりなんだろう。いつまでだって勝てる気がしない。
閲覧ありがとうございます。
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紫の瞳の男(以降紫)「俺はアルが騙される方が先だと思ってたぁー」
フェリック「んん?」
紫「あ、俺が気付いてるってことは、アルも気付いてるだろうね」
フェリック「は?」
紫「俺はもう少ーし様子見てから行きたいかなーって思うけど、アルは気になって仕方ないからそろそろ突撃しそうだね」
フェリック「はぁ?」




