26『彼女の知る由もない話』
ジャック視点の三人称表現です。
「フェリック!」
男子寮の廊下で、一人歩く姿を見かけたから、思わず声を掛けてしまった。
「最近、珍しく楽しそうにしてるらしいな?」
そんなつもりは無かったけど、都合良く周りに誰もいないのを見れば、最近、困りきっている友人の姿が思い出され、自然、動いてしまったのだ。
自分に出来ることなんてほぼ無いから、まぁ、自力で頑張れと本気で思っていたのだけど。……さすがに、度が過ぎていたら助けようくらいの良心は、あったが。でも、今の段階では、口出す感じじゃないよなぁって、思っていたんだけど。
……思っていたよりも、自分は彼女のことを気に入っていたらしいと気付き、自分でも驚く。
でも、まぁ、相手がこの人じゃぁね、心配にもなるか……と、すぐに思い直す。
ウワサが真実とは限らないけれど……この人に関して言えば、そのウワサの真偽は半分ってところだって言うことは、知ってしまっている。……つまり、半分くらいは本当なのだ。
友人に紹介したい男では、決してない。
全く、本当にどこで引っ掛けてきたのやら。
友人の姿を思い浮かべ、呆れてしまう。
「ジャックか……。珍しくって何だ?俺はいつでも楽しんでるよ??知ってるでしょ」
にやり笑いながら答えるフェリックは、相変わらず読めない。この美麗な笑みで全てを煙に巻いて、誤魔化してしまうのだ。
「そうだな。楽しんでるのは、間違いないだろうけど、あんたが楽しそうにしているのは、とても珍しい」
「……そう?」
「無自覚、か」
ジャックがそう呟くが、それがフェリックに届くことは無かった。
「……用件はそれ?それとも何か報告でもあった?」
「まぁ、用件ってほどじゃないけど、それだな……」
改めて聞かれると、反応に困る。
ほとんど反射的に声を掛けて、他に話題が浮かばなかったからそれを出してしまっただけだったのだ。ついでに探りを入れて、ちょっと注意と言うか何と言うかを、聞いてもらおうかなーってくらいの気持ちなのだ。
改まって話しをつけるほどの決意を、ジャックは持ち合わせていなかった。友人には、申し訳ない話なのだが。
でも、相手もそこまで重いものを期待はしていないとは思う。ちょっとくらい、助けてくれても、慰めてくれても、……甘いものを奢ってくれても良くないっ?!くらいは思っていそうだが。
気が向いたら……ケーキを奢ってやるか……面倒だな……と思うジャックである。
「長くなりそうだね?場所を変えようか??」
歯切れの悪いジャックをどう受けとったのか、フェリックはそう言って、移動を促す。
まぁ、こんな廊下で立ち話って感じでも無いだろうと、ジャックも大人しく続く。
「……それで?君の目的は??」
寮内にいくつかある談話室の一つに入り、ソファに座ると早々に、フェリックは、ジャックに問いかけた。
「目的ってほど、特に深い意味は無いけど。ただ……最近、あんたが追いかけているのが、俺の友人なんで、気になっただけ」
にこやかな笑みに妙なプレッシャーを感じながら、ジャックは正直に答える。フェリックに手を引けと言えるほど、友人とは親密な間柄では無いので、これが限界である。
「追いかけて……はは、確かにそうかもね。で?友人?……あぁ、釘を刺しにでも来たってこと?」
「釘……??」
「違うの?わざわざ言いに来るくらいだから、狙ってるのかと思ったけど」
「……ねらう……」
フェリックの思わぬ言葉に、ジャックは苦笑するしかない。確かに自分の行動はそんな風に取られても仕方ないのかもしれない。
「いや、そんな権利のある関係性も気持ちも無いかな」
「……俺は面倒はキライだから、人のモノは盗らないよ?」
「……」
「つまり、君に今ここで“あの娘は俺のだから手を引け”って言われたら、俺はその通りにするよ?」
じっと、フェリックの表情を伺い、その真意を読もうとするが、やっぱり分からない。それなりに感情を読むのは得意な方だが、フェリックは感情と言うか“考え”を隠すのがとても上手いのだ。
一瞬、そう言ってしまえば、それで話は終わるのだろうと思った。
だけど、すぐに、目の前のこの人にそれは、無意味だと悟る。
それに……。
自分の適当な判断で、面白そうな可能性を潰すのは勿体ない気がした。
友人には、本当に申し訳ない話だけど。
でも、まぁ、自分が撒いた種でしょう。俺が紹介したわけじゃないし。……と、ジャックは、一人開き直る。
「残念ながら、俺はただの友人なんで、それを言う権利はないね」
「……建前は良いよ。俺は気持ちを聞いてる」
建前……ね。
「んー。気持ち、ね。それが本心なんだけどなー。まぁ、……正直、結構気に入ってはいる。……取り立てて特別なことは無いけど、見てて飽きないし、何よりラクだしね。だけど、それだけ。今のところ、俺的にどうこうって気持ちは全く無いかな。……それより、もう少し俺は傍観者でいたいんだよねぇ」
うん、あいつが聞いてたらぶん殴ってきそうだなと、思いながらジャックは言う。大分失礼なことを言った気はする。けれども、正真正銘、嘘偽り無い本心である。
摘み取って自分のものにしたい、と言うよりは、彼女を近くで見ていたい……何か面白いことを連れてきそうだ……と言う思いなのだ。
なので、残念ながら自分と友人の間に友情以上のものが存在するとは思えなかった。あるのは、好奇心。向こうは、情報?
うん。
実に、利害関係がハッキリしている関係性だ。それ故の友情。中々に信頼出来るものでは無いだろうか。
「傍観者……ね。君も大概、面白い感性をしてるよね。……で、つまり、何?わざわざ俺に『あれは俺の友人です』って世間話しに来たってだけ?釘を刺すとか忠告するとか、脅すとかも無く?」
どこか呆れを含んだように、フェリックが問うてくる。
そう言われると、己の行動が不自然に聞こえるけど、咄嗟に動いてしまっただけなので、仕方ないと思うことにする。それに、友人が男に弄ばれて捨てられるかも知れないとなれば、黙って見ているのは、酷いのでは無いかと思う。そこまで、不自然なことはしていないはずだ……。
「まぁ、そうなる……かな?」
「俺はウソでもそう言えば、そうするつもりがある……と言ったら、どうする?」
笑みを浮かべること無く、真剣な眼差しを向けてくるのは、意外だった。
けれども、やはり真意は読めない。
ウソでも……ね。
そんな気はしてたけど。
どう答えるべきか、悩む。
フェリックに、ウソは通用しない。ほぼ100に近い確率で見破られる。だから、ウソを吐くのは無意味だと、ジャックは判断したのだ。
たぶん、今、ここで宣言してしまえば、その通りになるだろう。
そこまでの執着を向ける必要が、フェリックにはまだ無いはずだ。
でも……。
「それでも、そんなことは言えないな」
ウソでもそう言えば、言ってしまえば、俺は友人を守れるのに。助けてやれるのに。
そう思いながらも、ジャックはそれを言えそうになかった。
言ってしまえば、変わりそうになる関係が嫌だった。
あくまで友人でありたかった。
それに……自分の吐いたくだらないウソで、もしかしたらもしかする可能性を、潰すのは、気が引けた。
もしかしても、しなくても、友人には困った事態でしか無いだろうけども。
まぁ、その時は、とびきり美味しいカフェで思いっきりケーキを食わせてやれば良い……なんて、ジャックは、ぼんやりと思った。
閲覧ありがとうございます。




