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放課後。
今日は、隠しキャラたちについて確認してみようかなーなんて、思っていた。
そう、思って、いたのだ。
一応。
なのに、どうして私は……。
「チョコレートは嫌い?」
なんて、言いながら首を傾げているのは、フェリック。
私の机の前には、チョコレート。
それも王都で人気の高級チョコレート店の。
「いえ。大好きですよ。チョコレート。……ただ、このような高価なチョコレートとは、縁が深いわけではありませんので、緊張しましたの」
フェリックとはあまり関わりたくないが、別にウソを吐きたいわけではない。チョコレートに罪があるわけもない。
慌てて言いわけをして、目の前にあるチョコレートを見つめる。
そもそもこの世界でチョコレートは、高級なお菓子なんだけれど、これは、その中でもそれなりにお高いやつだ。
ほいほい食べられるものじゃない……はず。
我が家は、それなりの伯爵家だと思っていたけど……そうでも無いのかも知れないと思ってしまう。
だって、フェリックにとって、このチョコレートは、つまり……特におもてなしする利点の無い私に提供出来るぐらいの扱いなわけで。
それって、すごい価値観の違いを感じる。
それとも、女性に対してはみんな同じ扱いなのかしら?
だったらすごい博愛精神というか、紳士的と言うか、女タラシの鑑と言うか……。
「そう?遠慮なく食べて。甘い物が好きな君のために用意したんだ」
何で、知ってる?
と、思うけど今さらだと思い直す。
名前も知られていたし、たぶん色々知られていると思った方が良いだろう。何かアレだ。貴族独特の情報網なんてものを持っているのだろう。
怖い。
「……では」
色々、それはもう言いたいこととか疑問が浮かんだけれど、やはりチョコレートに罪はないので、一つ摘んで口に入れた。
口の中で蕩ける甘い幸福。
頭に浮かんだもやもやは、それだけで吹っ飛ぶ。
私はしばし、幸せに包まれる。
美味しい。
本当に美味しい。
それだけで、幸せ。
もう、どうでもいい。
めちゃくちゃ面倒で今すぐ帰りてぇーなんて思っていたけど、まぁ、いっかと思えるくらい美味しい。
チョコレートに罪はないけど、チョコレートは罪な存在だ。
「喜んで貰えたようで良かったよ」
フェリックがにこにこと、こちらを見るのが居た堪れない。
チョコレートに罪はないけれど、何でこうなったと、やっぱり思わずにはいられなかった。
そもそも、私がここに居るのは、放課後、教室までわざわざ、やって来たこの人に連れてこられたからだ。
『この前の件で、“お詫び”をしてくれても良いと思うんだよね』
なんて、言われたら否とは言えなかった。
言えるわけなくない?
圧倒的に私が悪いのに。
そこに関しては、弁解の余地無かったよ。
関わりたくないので無理ですと、言ってしまったけど、それを言われたら、もう何も言えなかった。
……でも、“お詫び”と言うくらいだから、カフェにでも連れてかれて、奢らされるのかと思っていたんだけど、連れてこられたのは、このサロン棟の一部屋だった。
サロン棟は、貸出用の個室がある所だ。部屋は、誰でも申請すれば、借りられるようになっている。王族や高位貴族になると専用のサロンがあったりもする。
うちは、もちろん無いけど。
テストが近いときには利用することもある。友だちと勉強するのに、便利なのだ。寮の部屋でも良いけど、部屋だとやっぱり寛いじゃうし。一部屋に一人侍女か侍従がついてるのも、ラクで良いところだ。さすが、貴族様の学校よね。
この部屋は一般的な個室だけど、何で自分がここに居るのか、高級チョコレートを口にしているのか、理由がさっぱり分からない。
分からないから、めちゃくちゃ居心地が悪い。
なんで、お詫びでこの部屋に来て高級チョコレートを食べてるのか意味が分からない。
……あれかな。
このチョコレートの代金請求されるのかな。
やり口が詐欺師のソレに近しいものを感じるけど、それならそれで仕方なし。
それで転ばせた件がチャラになるならそれで良いと思わなくては。
……あれだよね?
壺買わされたりしないよね?
変な絵とか。
「あれ?何か緊張してる??……大丈夫だよ。今日は侍女をお願いしてるし、何もしないよ?」
「……はぃ……」
何も……
とは?
不当に何か買わされたりとか、払わされたりとかしないと??
まぁ、確かに学園の侍女さんの前でそんなことしたら、問題になりますよね!……この人ならこの侍女まで懐柔してそうで、あんまり信用出来ないけど、そういうことにしよう。
でしたら、私はなぜ呼ばれたのか?
何か、説教でも受けるのだろうか。
そのために連れたこられたのか。
うー。
でもなー、チョコレート食べちゃったしなぁ……受けるしか無いな。
「何か勘違いしてるね?俺はただ、君と話したかっただだよ」
「???」
ますます意味が分からない。
食堂でも言っていたな。
話すとか何とか。
「何故……」
と、思わず呟きが零れるくらい分からなかった。
私なんかと話して何か得が??
あれかな。
怪しいから話して人となりを確認して云々みたいな。
それなら、まぁ、仕方ないかもしれない。
何で私そんなに危険人物扱い受けなきゃいけないんだろう。
今までひっそりこっそり、何事も無く生きていたのに。
「……面白そうだからだよ。深い意味は無い。ただの気まぐれだ」
「気まぐれ……」
そんなものに私は振り回されなきゃいけないと言うの……。
やっぱり、目立つ人間には“関わらない”が正解だったと思う。
何か、とてつもない面倒事に巻き込まれる予感しかしない。
「……刺されたくない」
あ、また本音がぽろりと。
だって、怖いじゃない??
この人、どんだけ周りに女が居ると思っているの?
アルバートと変わらないよ??
ってことは、同じ結末迎えても可笑しくないよね??
それに皆驚く程、美人揃い。
プライド高そうじゃない?
こんな地味で何でもない私が、近付くってだけでも許せない!みたいな人いない??
勝ち負け云々、気持ち云々抜いて!
「……それに関しては気を付けるし、気を付けて……としか……」
え!
非情!
私から近付いてるわけじゃないのに、理不尽すぎない??
「それに、もう手遅れじゃない?」
「手遅れ……?」
「そ。俺たちが関わった事実は、消えない。そうでしょ?」
だからなんだ。
にこにこ笑うその胡散臭い顔ぶん殴りてぇ。
私が令嬢じゃなくて、下町の娘だったら張り手かましてるわー。
そんで、二度と来んな!って、啖呵切ってやる。
……でもね。
現実は私、伯爵令嬢なの。
こんなことで、殿方に暴力を振るえる立場じゃないのよ。
浮気されたとか捨てられたとか、大事な人を傷付けられたとか、実害がない限りは。
いや、あってもあれか。ダメか。
そう、ダメなのよ。
青ざめて『あぁ』って、倒れるのが正解!
……バカみたい。
それにね。
単純に私は小心者なので、無理なのです。
出来るのはそう、
──コイツ、ナニイッテンダ?
って、怪訝な表情を浮かべるくらい。
「ふふ。いいね。正直者は俺、好きだよ」
いや、嬉しくない。
本当に。
「君は、もう“関わりたくない”って、理由を使えないわけだから、改めてよろしくね」
にこーっとした笑みが邪悪なものにしか見えなくて、ゾゾゾと背筋をいやーな汗が流れたのは、言うまでもない。
──逃がさないよ。
そうとしか聞こえなかった私は、悪くないと思うのだ。
自意識過剰では、決してない……
はずだ。
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