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「ウソ云々関係なく、不特定多数の方を相手にしている人は気を付けるべきだと思いますよ」
とりあえず、二人への警告とするけど、これくらいのことは周りに言われてそうだ。
『女に刺されるぞ』
なんて、モテ男への冗談として常套句だ。
「へぇ。心配してくれるの?」
「そうですね。貴方も貴方の友人も……そうなる確率が高いので、気を付けた方が良いと思います」
案の定、聞き慣れているのか、フェリックには、そこまで響いていない。刺されることを警戒する素振りを見せながら、こんなものだ。
波紋の始まりがなにか、気付いていないのだ。
ウソは、一つのスパイスで、原因じゃないことに気付いていない。後は、相手の問題とでも思っているのだろう。
まぁ、元々の性格も大いにあるけれど、刺すほどの情熱と憎悪を作るのは、その状況に導くのは、間違いなく男だ。そして、誰もたった一つの原因では、人を刺したりしない。そこまで追い詰めたのは、誰だ、原因はなんだと考えれば、刺された方の態度にも問題があると、思わざるを得ない。……と、思うのだけど。
「女の嫉妬は、女だけのものではありません。大抵の場合、原因は男性にあります。女性を変えるのは、“環境”です。モテる男はもう少し気を遣うべきです。……刺すような女に変えるのは、貴方たちだと思いますわ」
嫉妬に狂う悪役令嬢を思い出しながら私は告げた。目の前の人には関係ないけど、嫌味だ。完全なる八つ当たり。
彼にも私にも関係ないところでの、八つ当たりだ。理不尽とも言う。
たまに疑問に思うのだ。
悪役令嬢を強行に走らせるのは、大体攻略対象キャラのせいなのに、なぜ彼らは、彼女を断罪する立場にあるのか。
何様なの?そんな権利無くない?って。
第三者ならまだしもお前が?って。
お前が悪いんじゃん?って。
性格が悪い悪役令嬢の場合、そうなるのが分かるんだから、攻略対象キャラはそれを計算して動くべきよね??悪役令嬢にバレないように愛を育むべきよね?バレたらどうするかも考えるべきよ。
それもしないのは、馬鹿なの?って感じだし、そしたら、ヒロインだってムダに虐められないし、危険な目にもあわないって思うのよ!
性格も悪くない場合なら追い詰めたのは、お前だよ!お前も反省しろ!って感じだし。
それから私が攻略対象キャラなら断罪の場に大事な女を連れていかない。
だって、何されるか分かんないし。最後のあがきで傷付けられたら最悪じゃない?それに、人を断罪するなんて姿見られたくないし、見せたくない。彼女に注目が集まるのも良いとは思えないし。
様式美って不思議だ。
愛を誓った二人、邪魔した女の断罪。
それが大事なんだろうけど、ツッコミたい!
ヒロイン目線だから、そこに居なきゃいけないんだけど!普通なら安全のために居ない方がいいと思う!
その上婚約破棄の直後、婚約って外聞悪すぎない??
バカなの?半年くらいおいて、その後に愛育みました的にした方が、悲恋ぽくて良くない?
っとと、関係ないことで盛り上がってしまった。考えたら疑問が止まらないよ!
ゲームしてた時は、モヤモヤくらいだったけも、考えたらあかんね!
でも、それを全部したら、たぶんゲームにならない。お話にもならない。山がない他にもない、ただのあまーいお話になる。
やっぱり必要な様式美なのだろう。
不思議だ。
……で、なんだっけ。
「ずい分、気持ちがこもっている気がするんだけど……。何か、身近でそんな話でも?」
「いえ、身近にはありませんが、知る機会はありますのよ。本はたくさんのことを教えてくれますわ。そこに、上下はありません。庶民向けの大衆小説は、大変興味深い話がたくさんありますの。オススメですわ!」
そうそう、貴方みたいなのはよく当て馬として出てくるわ!
気をつけた方が良いと思うの!
なんて、思いながらにっこりと微笑んで言ってやる。
間違っても私がそんな嫉妬深い女だと思われるのは、ゴメンだ。
「へぇ?てっきり、悪ーい男に騙されたことでもあるのかと思った」
悪い男どころか、普通の男も特に縁がありませんが?
大体、そう言う男はね、もっと可愛くて華奢で如何にも箱入りって感じの儚い娘を狙うのよ。そして、もっと権力のある家柄。
「今現在、悪い男に絡まれてはおりますが、そんなことはありませんので、心配には及びません」
私は結構本気で言ったのだけど、何が面白いのかフェリックは、笑い出す。
何なの、こいつ、こんなに笑い上戸だっけ?
何かキャラ違くない?
もっと余裕で、胡散臭い笑みを貼り付けてる感じじゃなかった??
ヒロインのことを口説いてくるけど、本気かどうかがさっぱり分からなくて。
フェリックは、結局、本気だったのか否かは、ファンの間でも議論が分かれる話だった。
私的には、半分半分ってところだろうと思っている。惹かれる部分はあるけど、本気にはなりきれない、みたいな。そんなイメージ。
隠しキャラだったりしたら、そこんとこ掘り下げるエピソードの一つでもありそうだなーと、思ったりもした。
中々面白そうな内容になりそうだけれど、彼は隠しキャラでは無い。ただの脇役。……謎である。
と、まぁこれはゲームでのフェリックの話で。
現実とはやっぱり違うってことなんだろう。
ヒロインが良い例だ。
彼女は、ゲームの時よりもずっと真面目だ。
イメージ的には、もう少し天然っぽいって言うか、空気読めない感がありそうって感じなんだけど。
まぁ、そんなものなのだろう。
こういう所が、現実を感じさせてくれる。ただの妄想ではないと、教えてくれている気になる。
──と。
チャイムが鳴る。
「お、残念。もうちょっと、話していたかったけど、時間切れだね。またゆっくり、話そう」
にっこりとあまーい笑みを浮かべてフェリックは、そう言うと、私の腕を掴んでいた手を離した。
知らず、ほっとため息が出る。
やっぱり、ちょっと緊張していたらしい。
そうしている間に、フェリックが私の前にあったトレイを持ち上げてしまう。
「え?」
「……話してくれたお礼」
そう言って、キザったらしくウインクしてくるのがサマになりすぎていて、腹が立つ。
反論する暇もなく、フェリックは去ってしまう。
……って言うか、今の何か見たことある!!
あれだ。
今の、やり取りあった。
そうだ。
フェリックが初めてヒロインに話しかけるの、食堂だ!
それで、最後に今みたいにトレイを持って行ってくれるんだ。
キザったらしくウインクして。
────は?
いやいやいや。
あれだ。
あれよね?
女の子みーんなに、やってあげてるやつよね?
紳士として当然の行動よね?
こんなモブにまでそんなサービス。
モテる男はすごいわね。
乙女ゲームって怖いわ。
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