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友情って儚い。
私はそれを切に感じた。
ナタリーとハンナは、無情にも私を置いて席を移動した!そこまでする必要ないのに!
それはもう、にこやかに。
『私たちお邪魔なようなので、あちらに行きますわね』
ですって。
そのにこやかな笑みに、好奇心がふつふつと湧いてるのは、消せてなかったし、隠す気もなかったのだろう。酷い。
私の、『行かないで!助けて!』と言う視線に気付いていたくせに。
『後で話しを聞かせてね♪』と言わんばかりの楽しそうな瞳が恨めしい。語尾の音符マークまで見えた。まず、間違いない。あの子は楽しんでいる!
教室に戻ったらジャックと共に全力で揶揄ってくるに違いない。
最悪!
「そんなに急がなくても時間はまだあるし、食べ物は逃げないよ?」
私の横ではクスクスと笑う男が。
……食べ物が逃げるのではなく、私が逃げたいのです!
一刻も早くここから離れたくて、一心に昼食を口に運ぶ。
後は、無視だ!無視。
それしかない!
「……俺の顔はそんなに気に入らない?腹立つほど?よっぽど許容範囲外かな??」
思わず、私の動きが止まる。
昨日、そんなようなことを言った気がする。
ほとんど聞いてなかったと思ってたし、そもそも覚えているわけがないと思ってたから、どうしても驚く。
絶対、ワザとだ。
やっぱり性格悪いよね。この人。
私に反応があったことに、喜んでいる気がする。悔しい。
「ね、どうなの?それなら仕方ないかなーって思うけど……そうじゃないなら、こっち見てくれないと、話も出来ないよ?」
こういう時の選択肢って何が正解何だろう。
チャラ男の攻略方法なら、アルバートを参考に出来るけど、その逆ってなんだろう?
嫌われる方法。
あれか、横暴な態度を取れば良いのか?
いや、アレだ。
それ少女漫画で見たな。
逆に好かれるやつだ。テンプレだ。
『そうじゃないけど、関わりたくないので嫌です』
『恥ずかしいのでムリです!』
『その通りなので、諦めてください!』
『話すことはありません!』
あぁ、何でか選択肢が見える気がする。
それにしても、ロクな選択肢がないな。私の発想の貧困さが伺える。
……。
「そう言うわけじゃありませんが、恥ずかしいので、話すことはありません!」
混ざった……。
何か変な感じに混ざった。
嘘でしょ、私の語彙力!
無理無理無理!
意味不明!
何で混ざったの!
頭を抱えるよりも先に、私は立ち上がってトレイを持って、去るつもりだった。それを捨て台詞に逃げられたら良かった。
でも、出来なかった。
「離して、ください」
左手首を掴まれてしまったから。
やんわりと、でも逃がさないと言いたげな強さで。
それは、この人の性格の表れだなと、ぼんやりと思った。
振り切って去ることは、出来ると思う。だけど、しようとは思えない。振り切るまでに時間がかかるのは明白で、何事もないわけがなかったから。注目を浴びるのは明白。
この人は、いつでも私が逃れられないほど強く握ることが出来る。それくらいの力の差はある。そして、確実に私よりも反射神経が良い。
つまり、逃げられない。
現状は、いつでも逃げられる強さの拘束なのに、それが出来そうにない。想像だけで、それを成り立たせるあたり、やはり性格が悪い。もう少しでも強く握られたら、拘束されている感覚になるのに。
「座ったら?」
思わず、見てしまう。
見てしまった。
にこにこと、いー笑顔でこっちを見てる。
「目立つのは、本意じゃないんじゃない?」
素直に言うことを聞くのは癪だけど、その通りでしかないので、座るしかない。逃げる術も無いし。
「やっぱり君は面白いよね」
さっきの私の言葉を思い出してか、クスクスと笑う声が聞こえる。
顔に熱が集まるけど、どうしようもない。両手で顔を押さえるわけにもいかず、片手で隠して俯くしかない。
何でこうなったのかしら。
「とりあえず、君にとって俺は酷い顔じゃないってわけだよね。良かった」
何を言ってるんだろう、この人。
いや、本気で心配したわけじゃないんだろうけど。
自分の顔の出来くらい分かっているくせに。それが異性にどう見えるのかも、計算出来るくせに。
だから、私が本気で嫌悪してるわけじゃないと分かっていてあの質問をしたのだ。
『そうじゃない』と、言わせるために。
それ以上の変なことを言ってしまったが。
「分かってるくせに。貴方はご自分のお顔に自信を持ってらっしゃるでしょう?」
思っていた嫌味が口をついて出てしまった。
あまりに白々しくって。
まぁ、好感度を下げたいので別にいいかと、開き直るしかない。
「そうだね。俺は俺の顔がどう見えるのか、ちゃんと分かってるよ。とびきりいいとは言えないけど、悪くないことも知ってる。……でも、好みは人それぞれだし。生理的に無理だと言われたらそれまでだろ?理由なんて無くても、人は人を嫌える」
その返答は、ちょっと意外だった。
モテるから、自分を嫌う女がいるとは思っていないようなタイプかと思った。アルバートが、そう言うところがあるようなキャラだったから。
それに、自分の顔がとびきりいいとは思っていないあたり、客観的だ。いや、十分整っているんだけどね。
自分を分かっているからこそ、魅せ方を知っているのだろう。だから、モテるのだ。
それにしても、そんなあっさり“理由もなく嫌う”ことが出来ると言い切るなんて、何かあったのだろうか。
結構ひねくれた自覚のある私でも、そこまでは思えない。そんなこともあるとは、思っても、自分のこととして考えられるかと言われると、とても微妙だ。“理由もなく嫌われる”なんて、ちょっと信じたくないと思ってしまうのに。
「意外だね。君みたいな子は、こういう風に言えば、眉を顰めると思ったよ。ナルシストだって」
フェリックは、驚いたように私を見てる。
確かに、ナルシストとられる発言ではあったけど、その後の発言の方が気になったし、この顔であの態度で謙遜されてもただの嫌味だ。
「過ぎた謙遜は嫌味だと思います」
「そうだね。でも、肯定しても嫌味だ」
「私には、無縁のお悩みですね」
「そう?君は、十分可愛いと思うけど」
にっこり、照れるでもなく言ってのけるフェリック。さすがだ。
そして、さすがにチョロい自覚のある私でもこんな言葉で照れるほど、では無い。
「……適当なお世辞も嫌味だと思います」
「俺はわりと“可愛い”とか“綺麗”だって、言うけどね、“ウソ”で言ったことは一度もないよ」
お上手ですね。
それで浮かれられるほど、バカではないし、フェリックを信用してるわけでもない。むしろ、信用出来ない。
だって、めっちゃチャラ男じゃーん?
随分上品だけど、やってることチャラ男じゃん?
信用しちゃいけないやーつ。
「そういう時は、『“可愛い”と滅多に言わないよ』と言うべきでは?」
「はは。そう来る?ま、そう言った方がウケはいいけどね。俺はウソをあんまり吐かないようにしてるの」
意外な言葉に、思わず納得出来ない顔になる。だって、めちゃくちゃウソ吐いてそうじゃん?騙してそうじゃん?
あ、でもウソ吐かないで誑かす方が、上級者っぽい。
「そんな意外そうな顔しないでよ。本当だよ?ウソは身を滅ぼすからね。刺されるのはゴメンだ」
まるで、ウソで刺された人を見たことがあるかのよう……。
そう思えば、すぐに、
「あ、それ別にアルバートのことじゃないよ?さすがに、まだ刺されたこと無いよ?」
なんて、返ってくるから笑ってしまう。
そんなに顔に出てたかしら。
それと……その言い分は、いつか刺されると思っていますね……。
ん?
刺される……。
アルバートが、刺される……。
あったな?
そんなイベント……。
いつかは分からないけど……嫉妬したモブ女子に刺されそうなヒロインを、アルバートが庇って刺されて……ヒロインが治癒魔法で治して……助かって、告白されるって、言うのがあったはずだ。
うん、冗談じゃなく、アルバートは刺されるな。ヒロインに関わると。
でも、アルバートなら、ヒロインに関わらなくても刺されそうだ。
フェリックよりもずっと甘くて、迂闊だし。
さて、どう伝えたものか。
閲覧ありがとうございます!




