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「で?君の目的は何?」
そう問われても、答えられない。
「やっぱり出会い……?それとも恨まれているのかな?」
私は首を振るしか出来ない。
言葉が、出ない。
説明出来ない。
目的なんて無い。
気になったから調べただけ。
助けようとかそういう気持ちすら無かったと思う。ただ、困ったことになりそうだから、それを無くせたら良いなーって、何も考えてなかっただけ。
考えてたらもっと上手くやってる。
目的があったら、もっと上手くやってる。
「すみません!とにかく、危害を与えるつもりは無かったことは信じてください!!本当に、申し訳ありませんでした!!!」
ため息が聞こえる。
怖い。
めっちゃ怖い。
自然、肩がはねる。
「いや、俺もね?別に悪いと思ってるわけじゃないんだよ?どんな手を使っても良い男をゲットしたい。自然なことじゃない?だから別に責めたいとか咎めようってわけじゃない。俺にそんな権限無いし」
「ただね、もし別の目的があったら困るなーって、ただそれだけ気になって。それと、明らかに殿下も含めあいつらのこと調べてるのに、一向に近付く気配がないみたいだから、気になって」
私はまた、何か企んでいると思われているの?
ただ、遠くから眺めたいって、それだけで?
何でそれが怪しいの?
別に良くない?
綺麗な花があれば見るでしょ?眺めるでしょ?
同じじゃない??何なの?
「私は!確かに殿下たちを眺めるのは好きですが!……私は私の身の程を知っています。見ての通りですので!なので、近付きたいなどと思ったことは一度もありません!!」
彼らを眺めるのは好きだ!
でもそれだけだ!
リスクを犯すのなんてごめんだ!
この世界で生きて学んで、乙女ゲームの世界も知っていて、それがどう見えるのかも分かっているのに、そんなことしない!
出来るわけない!
そこまでしたくない!
「いや、この状況で取り繕わなくて良いよ??」
さっきから、何が言いたいのか。
いや、目的を知りたいんだろうけど、それを決めつけて言わせようとしているところが腹立つ。
私が悪いんだけど。
完全に逆ギレの八つ当たりだけど!
釘を刺したいなら、やめろと言えばいいだけじゃない?
わざわざ相手に言わせる必要ある?
「そもそも、一部を知って全部を知った気になるなんて、浅はかとしか!
他の方はどうか知りませんけど!私としては、結婚するなら顔よりも大事な条件がいくつかあります!もちろん、長年一緒に居なきゃいけない相手だから、腹立つ顔と、許容範囲を超えた好みじゃない顔は無理ですけど!財力もそれなりになきゃ困りますけど!
でもそれよりも、性格とか行いとか、そういう方が大事です!
顔が良いだけならそんなの、遠くから眺めてれば十分だし!
そういう相手って、めちゃくちゃ倍率高いし!嫉妬かやっかみとか嫌がらせとか盛りだくさんでしょ??絶対ごめんだね!
そこまでの情熱は私には無い!
それなら美味しいスイーツ食べたい!!」
背の高いフェリックを見上げ、私は睨む。何だかポカンとしているように見えるけど、知らん!
怯んだら負け。
相手は魔王だ。
頑張れ私。出来るぞ私。
名もなきモブの意地を見せてやれ!
「大体、男だって、いくら綺麗でも性格悪くてワガママな女は嫌でしょ?!それなら見るだけで十分じゃない??それとこれとは別でしょ?
だから、私のこれも“それとこれとは別”なの!ただの目の保養!芸術鑑賞!
なので、近付く必要性を感じてないだけ!メリット無いもん!身分の高すぎる人に近付いても、リスクの方が高い!疲れる!
つまり!私はただの臆病者なのです。なので、何かを企むなんて大それたこと出来るわけがない!情熱が!ないから!」
…………何を言ったのか、自分でも分からない。
理解されない今までの鬱憤を吐き出した気がする。
……何か、すごい意味分からないこと言った気がするし、やってしまったと思う。
あぁぁ。
一瞬にして後悔が襲ってくる。
何てことしたんだろう。
開き直るにもほどがある。
全身の血の気が引いている気がする。
背中が冷たい。
掴まれている腕の感覚が無い……。
「……あの、すみま……」
すみませんでした。
申し訳ございません!
頭を下げるつもりで発した言葉は、途中で途切れた。
──噴き出すように笑いだしたフェリックのせいで。
え。
えええ。
何、こいつ、笑うの?
なんて、失礼なことを思うくらいに豪快に笑うフェリック。
私は面食らってポカンとしてしまう。
いつも、含みのある笑みしか見せないフェリック。
『君、面白いね』って、笑うシーンだってこんな爆笑してなかった。やっぱりどこか作ったような笑いだった。
それなのに。
現実って、面白いわね。
そして、やっぱり“ヒロイン”に見せていたのは素じゃなかったのね。なんて、どうでも良いことを思う。
こいつ、本気じゃないのに口説いて邪魔して来てたのか。最悪だな。悪役令嬢より腹立つ気がする。
「はー、笑った。こんなに笑ったの久しぶり。……君、面白いね」
笑いが納まったフェリックは、真っ直ぐとこちらを見て言う。
は?
それ、ヒロインに言うやつ……。
あ、いや。アレか。女の子に大体言うセリフか。
面白いって……喜ぶ貴族女性が居るのかは謎だけど。
「情熱。情熱がない、ね。……今の、十分情熱的だったと思うけど」
クククと笑いを隠そうともせずに言うフェリック。
蒸し返すのマジでやめて欲しい。
何を言ったのかほぼ記憶ないから。
だってだって、みんなして的外れなこと言うから。
みんながみんなアプローチしてるわけじゃないじゃん?出来るわけないじゃん?
それなのに、なんで見てるだけが悪いみたいに言われなきゃいけないのよ。残念な子を見る目で。それで、向かったら『身の程を知れ』とか言うんでしょ?マジなんの罠なの?って感じ。バカバカしい。
参加するだけムダ!
絶対、仲間はいると思うのよ。みんながみんな野心家なわけない!そんなんじゃ、国が成り立たない!
「ねぇ、面白かったから、お礼に、殿下に紹介してあげよっか??」
「は?」
思わず声が漏れたのは悪くないと言いたい。いきなりなんで、そんな話になるのか意味が分からない。頼んでない。要らない。マジで。
何を聞いてたんだろう。この人。
「君の言い分ってさ、顔だけって前提じゃない?実際会って良い人だったらどうすんの?それなら、やっぱり顔が良くて性格も良い人が良くない?」
「でもそれって、会ってみないと判断出来ないでしょ?だから、紹介してあげようかなーって」
いやいやいや。
何言ってんのこいつ。
全然聞いてないじゃん。何一つ伝わってないじゃん。そりゃ、意味分かんないことしか言わなかった気がするけど、それにしても酷い。
「顔も良くて、性格も良いのは確かに最高ですが、周りからの圧力が恐ろしいので、やはり遠慮したいですね」
私はわりと強めにそう主張する。
第二王子と会ってしまったら、誰に何を言われるのか分かったもんじゃない。虐められたくない!嫌がらせもごめんだ!
ついでに、迂闊に好きになりたくない!
第二王子が性格も良いって知ってる!ゲームの性格のままだったら、だけど。
そんな人としゃべったらそれだけで好きになっちゃうかも知れないくらい、自分がチョロい自信もある。
あんまり思いだせないけど前世含め免疫がほとんど無いのだ!
「君の言い分も分からなくは無いんだけど、『見てるだけで十分』とか、そう言うのが一番信用出来ないんだよね。……だから、会ってみて、それでもそれ言えるなら信用しても良いかなって」
にこにこと含みのある笑みでぶっちゃけるフェリックは、もう通常営業だ。さっきまでの笑いはもうない。
途端に胡散臭さがすごい。
それが本音か。
「……会ってまで“見てるだけで十分”と思えるほど純粋な心は持ち合わせておりません。だからこそ、“見てるだけで十分”なのです。どうせ叶いはしないのに、ムダに心を消費したくないのです」
正直に物申す。
何かもう、今さらだし。
「う~ん、君が殿下に会ったらどうなるかとっても興味があったんだけどなぁ……」
何で?
ただの普通の令嬢ですよ?
平凡な。
何も面白いことないでしょ?
今までの女の子と同じよーな結果になるだけ。当たり障りなく玉砕するだけ。
「それにやっぱり君の言い分はよく分からない。何をそんなに諦めているのか。まるで、自分にそう言い聞かせてるみたい。そうしなきゃいけないって」
「……自分の、身の程を知っているだけです。私だけじゃなく、みんなもそうだと思います。あまりにも遠い人に焦がれても辛いだけですし。リスクを考える。当然では?」
フェリックは、私の言葉を考えるように顔を顰める。ちょっと意外な反応。こんな明らかな表情を浮かべるなんて。
こんな風に考える時こそ、人前であれば涼しい顔をするような感じなのに。
「何かが、違うよね。そんな漠然としたものじゃない。それに、君はみんなとは違う。意図してその状態を作り出してる。動かないための理由をわざわざ探しているみたい。努力の放棄ともまた違う。その状態で居るための理由を必死で作ってる。……自分の中で」
「……」
何を、言っている?
私は事実を述べているだけだ。
私は私の役割を理解して、ただ受け止めただけにすぎない。何も諦めていないし、何を意図しているわけでもない。
何なの?
賢い人ってアレなの?
深読みしすぎちゃうの?逆にバカなの?
「ま、いいや。君の目的が何であれ、危惧したようなものじゃなさそうだから、この件に関しては見逃してあげる」
パッと表情が変わり場の雰囲気も明るいものになる。胡散臭さは拭えないけど、漂っていたどんより魔王城オーラは消えた。
ついでに、私の腕も開放された。
ほっと、息を吐く。
何かすごい誤解を受けたような気がしたけど、大丈夫だったようだ。
「でも、君はとっても面白そうだから、しばらく観察させてもらうことにしたよ。よろしくね」
にっこりと、それはもう含みのある笑みで言われれば、私は何も言えなかった。
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