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「犯人が現場に戻るって、本当なんだね」



 背後からのその言葉に、私は凍りつくしか無かった。



 絶対に嫌な予感しかしない。

 ……予感じゃない。確定だ。後ろからの殺気だけで死ねる。


 怖い。

 こっわ。


 私の前は壁だ。

 だけど、壁の端までは近いから、するっと、逃げられるかもしれない。



 後ろからの圧力!



 ⇒ 逃げる

   逃げる

   逃げるしかない

   逃げたい



 …………逃げたい!



 ⇒ 逃げる!



 私は選択したコマンド逃げるを発動!



「いやいやいや、逃がすわけないよね??」


 と、有無を言わさず腕を掴まれてしまう。


「ひぃ!」


 いや、うん。

 分かってた。

 そんな気がしていた。


 それなのにジ・エンドを感じて思わず声が出た。令嬢らしからぬ声だったけれど、仕方ないと思う。


 だって、めっちゃ怖い。

 絶対、私の後ろにいるの魔王。


 魔王が居ると思う。


 ここ、乙女ゲーなのに。

 魔王はいないのに。


 他のRPGが混ざったのかもしれん。



 逃げきれない私は、腕を引かれて振り向かされる。



 ──そこに居たのは、魔王……ではなく、フェリックだった。



 ただ、その笑みが……全くにこやかじゃない笑みが怖い。

 魔王……あながち間違ってない。

 背後にブリザードが見える。


 ……え?


 なんで。



「……なんでって顔してるけど、それ聞きたいのこっちだから」



 怖い怖い怖い。


 こういう腹黒そーなところあるからコイツ嫌なんだよー関わりたくなかったぁーーー。



「一昨日、そこで氷と土の魔法使ったの……君だろ?」


 半泣きの私に構わずフェリックは、犯人を詰めるように言う。

 私は何も言えない。

 何でバレたの。

 そして、犯人ってそう言うこと。

 そりゃぁ、そうか。

 下手な転び方したら大怪我に繋がりかねないことだし、怒られても仕方ない。

 ……いや、怒るなんて生ぬるいかも。

 めっちゃ怖い。

 私、何されるの。捕まるの。

 私の頭にはすでにドナドナが流れている。



「誤魔化しても分かるよ……俺は、探知の魔法が得意でね。あの時残っていた魔力は、君のものだ」


 探知の、魔法……。


 授業で、習った。

 ゲームには出てこなかった魔法で、使用された魔力を探ることが出来る魔法。

 どんな種類の魔法が使われたのか、どこで使われたのか、はたまたその使用者は誰かとか分かるらしい。

 だけど、人を特定出来るほどの使用者はあまりいないと習った。高等技術で元々の素質も必要だと。


 それをフェリックが使える。


 ……どうりで、“ヒロイン”の場所を特定するのが上手いわけだ。

 こいつ、何でこんなところに?って場所とタイミングで現れるんだよね。

 そこに残った魔法の種類を当て、私まで特定……しかも使った魔力は僅か。ってことを考えると、その人特有の魔力を辿ることも可能だ。

 ……ストー、いや捜索にもってこいの魔法だ。

 怖い。


 もう、言い逃れはできない。

 だけど、声が出ないから私は黙って頷くしかない。



「何でそんなことをした?狙いは俺?それともアルバートかな?」


 何で……。


 そう聞かれても困る。

 言えない。

 とてもじゃないけど説明できないし、信じてもらえると思えない。

 何か適当な……上手い言いわけを考えないと。


「あそこで転ばせて、アルバートと知り合うきっかけでも欲しかったのかな?それなら、可愛いものだけど……」


 そう言ったフェリックの表情がいくらか和らぐ。言葉通り、それなら仕方ないと思っているように感じられる。

 いや、そこまでしてアルバートと、知り合いたいわけではないですけど。

 なので、反射的に首を振ってしまう。


 やってしまった。

 今、頷いていれば、許して貰えたかもしれないのに。それに、あながち間違ってない。出会わせたかったのは、自分じゃなくて、“誰か”だったけれど。そう、フェリックで良いかと思うくらい、誰でも良かった。


 そのせいで、魔王を引き当ててしまったわけだけれど。

 こいつ、何でモブなんだろ。

 顔も良いのに。



「……じゃぁ、何で?君はそんなことをしたのかな?」


 穏やかに聞いてくるけど、周りの空気が……漂うオーラが、穏やかじゃない。どこも。


「あの、すみません。氷を張った件につきましては、危害を加えるつもりは、全くありませんでした。危ない目に合わせてしまい、本当に申し訳ありません!」


 私は思いっきり頭を下げて謝罪する。

 地面に平伏すレベル。


「……理由は言えないってことかな?」


「え~と、大した意味は無かったと言いますか。偶然と言いますか。たまたま張っていた氷の場所に人が来てしまったというか」



「……ふ~ん?」


 絶対に信じていないと言う表情で、頷くフェリック。

 もぉぉ、怖い。

 この人怖い。

 そりゃぁ、無理ある説明だけどー!


 画面越しだと含みがあるところが、わりと悪くなかったりするんだけど、現実で対面するともぉ、怖いー。嫌だー。


 未だ腕を掴まれたままなのも困る。

 しかも、がっしりじゃなくてやんわりなのが怖い。文句も言えない。力強く掴まれたら痛いとか何とか言って、誤魔化せるのに。それもお見通しのような力加減が、怖いのだ。

 逃げれるならやってみろと言わんばかりで。



「それで?それが理由だとして、目的は?アルバートか俺と知り合って、最終目標は殿下かな?お目が高いね~」


「……でん、か……?」


 さっきまでアルバートの話をしてなかったっけ?それが何で電化、いや殿下の話に??


「あれ、違った?じゃぁ、狙いはシルヴァンかな?」


 くすくすと笑いながら言うフェリックは、目の前にいるのに、遠い。



「まぁ、学園の大半の女がそうだろうからね。悪いとは思ってないよ?」




「君があいつらを狙ってるのは知ってるよ。

 ミア・ウェン」




「名前……」


 何で知っているの。

 魔力で特定しても名前までは分からないはずだ。

 調べた?じゃぁ、何でここに?

 犯人がここに来るのを待ってたんじゃないの?私を待ってた……?


 何で……。


「何でって、怪しいやつが居て、それを見つけたら調べるでしょ」


 当然、と言わんばかりに言うフェリック。

 いや、そりゃそうなんだけど。

 え、じゃぁ、待ち伏せされてたわけじゃないの?ここに来たから特定されたわけじゃないの?


 これ、逃げられなくない?


「目的を素直に教えてくれたら見逃してあげるよ」


 さっきから、心が読まれているような気持ちになる。もしかして、声に出てるんだろうか。顔に出ているだけか……。



「で?君の目的は何?」




閲覧ありがとうございます!

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