17『彼女が逃げたその前後の話』
フェリック視点です。
友人であるアルバートの付き合いが悪いと、何でか俺に文句が飛んでくる。
いや、アルバートとは、それなりに仲良くはしてるけどね?
そんなの知らないよね?
俺が原因なら仕方ないけど、あいつが放課後何してるかなんて正直興味無いし、そこまで干渉するような間柄じゃない。
だから、そう文句の言う彼女たちに対して、自分たちの魅力が少ないんじゃない??なんて、思うけど、そんなこと言うわけにはいかないので、『代わりに俺が相手してあげるよ~』なんて、軽口を返すことにしている。
まぁ、そのうち元に戻るでしょって興味なかったんだけど、どうやらそうではないらしい。ふらふらと学校内を歩いてるようだ……。
一体、何があるのか。
彼女たちとのデートを蹴ってまですることだろうか。
あの、アルバートが?
まさか、本命を見つけたわけでも無いだろうし。
……まさか、な?
どっちにしろ、面白い……。
あのアルバートを夢中にさせることって一体何だろうか、と興味が湧いた。
それが、何か“事”だろうと“女”だろうと面白いことには変わりない。とても気になる!
そんなわけで、俺はアルバートを探すことにした。
……というか、ふらふらと校内を歩いているって何だよ……と、思わずにはいられない。意味が分からない。
誰かを、探しているのか??
やっぱり本命か……?
あれが?
やっぱり信じられないし、面白いと思う。
いつか女に刺されるか、変な女に騙されるか。それくらいは起こるだろうと思っていたけど、本命を考えたことは無かったなぁ。
賭けても良いと思ってたのに。
でも、アイツ、あれで純粋なトコあるからな。
何て言うか俺とは違うと言うか。理想を捨てきれないと言うか、だからこそ遊んでるフリしちゃうみたいな??甘いところもあるしね。
その結果が、刺されるか騙されるかだと思ってるんだけど。まさか本命とは。
まーだから、本命ってのもありっちゃありだけどね。
ちょーっと、心配にもなるよね。
まぁ、8割は好奇心だけど。
どんな女なんだろーなー。
と、ふらふらしていたら、どうやら第三講義室の前によく居るなんて情報を得た。
第三講義室……?
この時間に?
誰かと会ってるのか?
そんな場所で?デートに外に行くわけでも無いって、それこそ本命っぽい。
音楽室の前とかだったら、すごい笑ったのになぁ。ピアノを弾くご令嬢をこっそり覗く、見目麗しい男なんて、面白すぎるでしょ。目立つし、こっそりなんて見た目してないし。
もし、講義室内にいる女の子を眺めてるだけだったら、指さして笑ってやるわ。
あー、でもなぁ、それってあまりにも本命臭くない?笑うのは可哀想かなぁ??だって、本命なんて、まず間違いなく“初恋”だろぉ?
うん、笑うのは勘弁してやろう。
たぶん、ニヤニヤはするけど。
第三講義室に向かう。
……確かに居た。
誰かと居るわけでもないし、講義室の中を見ているわけでもない。
……本当にあいつ、何してるんだ?
思っていた状況になくて、不思議に思いながらアルバートに声をかけて近付く。
──と。
心臓がヒュッとなって、視界が一気に動く。咄嗟に、それを回避出来ない。
やがて来る衝撃に俺は身構えた。
────と。
覚悟した衝撃は来なかった。
気付けば目の前に、アルバートが。
相変わらず顔は良いんだよな、コイツ。
なんて、場違いなことを思う。
──あまりのことに混乱してしまった。
何が起きたのか分からなかった。
「……大丈夫、か?」
俺を立たせ、身体を離したアルバートは気まずげに問う。
やめろ。
気まずいのは分かるが、その反応は何か腹が立つからやめろ。
「……お前って、女じゃなくても助けてくれるんだな」
なんて、自然と憎まれ口を叩いてしまう。
照れ隠しじゃない。断じて!
純粋な疑問だ。
見知らぬ女と俺が溺れていたら、間違いなく女を助けるような男だと思っていた。いや、一般的か?どうだろ。
とりあえず、俺が窮地に陥っていても涼しい顔で見捨てられると思っていたんだけど。
いや、たぶん、俺もこいつの窮地は見捨てる気がする。十中八九、女絡みで面倒そうだから。
「いや、さすがに目の前で転ばれたら誰だって助けるだろ……」
俺の言葉に呆れたように言うアルバート。
おう、そうか。
……そうか?
俺は自信ないなー。
可愛い女の子なら間違いなく助けるけどー。それ以外だとビックリして動けない気がする。
「何だかんだ言ってもお前って育ちが良いよな」
そう言うとこ、やっぱり違うよなぁ。
さすが侯爵家のご令息様って感じ?
「……は?」
俺の言葉にポカンとするアルバートは置いて、俺は自分の足元を見る。
──微かに魔力を感じる。
やっぱり、さすがに何も無いところで後ろ向きに転ぶわけないとは思ったんだよな。
滑った感覚もあるし。
「……魔力が残ってる、アル、分かるか?」
「魔力?」
俺の問いかけにアルバートは首を傾げながら、しゃがむ。
「氷と……土……」
残った魔力から感じたものを呟けば、アルバートはますます、首を傾げる。
「うーん、微かに魔力を感じられはするけど、そこまではさすがに分からないな。……お前らと一緒にされると困る」
そう言って、アルバートは立ち上がり早々に諦める。そりゃぁ、自分に不利益があったわけじゃないから当然の動きだ。
……だけど、狙ったのが、俺とは限らないんだよなぁ。
こういうとこ、甘いよなぁ。
魔力を辿る。
発生させた場所を特定するために。
遠くから魔法を放つことは、かなり難しいから、そこまで遠くないはずだ。
──ここだ。
第三講義室が見えて、自分は隠れられる場所。明らかに、怪しい。
……何が目的だ?
そこに残った魔力と気配を読み取る。
────見つけ出して、問い質してやる。
「うわぁ、お前、顔やばいぞ。……それ、絶対、女の前でやるなよ。一発で引かれるぞ」
俺の横で、アルバートがドン引きの顔で言ってくるがよく分からん。
お前に顔について、とやかく言われたくねぇわ。
嫌味か。
閲覧ありがとうございます!
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フェリック「ところでお前、こんなところで何してんの?」
アルバート「いや、それが、よく分からないんだけど」
フェリック「は?」
アルバート「何となく?」
フェリック「意味分からねぇ。じゃぁ、何?本命見つけたとか、面白い話じゃないの?」
アルバート「いや、無いけど、俺の本命の話が何で面白い話になるんだ?」
フェリック「お前が本命だなんて、面白い以外何がある?」
アルバート「……お前だけには言われたくない」
フェリック「えー?俺はいつでも本気なのに?」
アルバート「どの口が言う……」